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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第五章 ニセ勇者になったった
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第80話 逃亡幇助犯になったった



 保護したコルス一行と、武装解除した冒険者一同を引き連れて、野営しながら寂れた街道を行くこと数日。


 旧ルメール領で帝国との国境に位置し、かつては要衝の砦であった街『ベーザルゴ』に、昼過ぎ頃到着した。


 ルメール敗戦後、国境警備隊の駐屯地がそのまま帝国軍の駐留基地となり、帝国兵相手の商売を始めた人々が定住して街になった経緯から、中央に聳える砦と街の外周を囲む石壁が、物々しい雰囲気の名残を見せている。



「それじゃアイシャ、いい子にして待っててくれよ。ブランカ、アイシャを守ってくれ。」

「分かったよ、にーさま。気を付けてね。」

「バゥッ!< 任せておくんなせぇ! >」



 コルス一行と冒険者たちを連れた旅の途中も、人前に出せない体長10mの狛犬ブランカだけはかなり後方に待機させていたのだが。

 街に入るには衛兵の検問があるので、全身真っ白な人間離れした美女でやはり人目を惹くアイシャにも、街道を外れた森の中に潜伏して貰うことにした。


 彼女らを連れていけば駐留軍1個連隊を相手することになっても勝てそうだけど、無用な騒ぎを起こす気は無いし。


 いずれ、火神竜フレイムドレイクを探すため、西のレグルス大陸向けにポートフォリアから船に乗る時、人目に付く彼女たちをどうするかが課題となる。

 船を一隻丸ごと借り上げることが出来ればいいのだが……


 手を振るアイシャと尻尾を振るブランカを森に残し、他のメンバーの居る街の門前へと向かった。




――――――――――――――――――――




「それじゃ、俺たちはここで失敬するぜ。賞金首を諦めるつもりはねぇが、街中じゃ手を出さねぇ。約束は守る。ハーフエルフのあんちゃんには世話になったしな。」



 真銀ミスリル製の大剣を掲げて見せながら、門前に戻った俺に上機嫌で挨拶して去っていくのは、冒険者のリーダー、ハーフ熊獣人のミハイロフ。

 他の冒険者たちも、彼に従って街へ入って行く。


 戦闘を止めさせるために彼らのメインウェポンを全て破壊してしまったので、補償として魔道具の袋に入れていたミスリルの剣を1本渡したのだ。

 実は、ブレタの父親である鍛冶屋のゲーリングさんに教わって、見よう見真似で俺が打った習作だったりする。

 魔結晶の微細粉末化や、砂鉄の溶融・酸化鉄の還元などは、精霊魔法の力押しで行った。

 鍛造時の温度管理や、焼き入れ・焼き戻し、成形後の歪み取りなど、難しい所はゲーリングさんに手伝って貰ったので、装飾こそ簡素だが十分に実用品として使える逸品になっているはず。

 ミスリル製の大剣となれば、一本で彼らの使っていた武器全部買っても余裕でおつりがくる価値がある。

 自分で使ってもいいし、腕のいい表装具師に柄や鞘を新調して貰えば、良い値で売れるだろう。



「ブレタ、街中では槍斧ハルバードの矛先にカバー付けて。

 エルフ組はちゃんと一張羅着たな? 巡視官の威厳はったりは俺らの外目ヴィジュアルに掛かってんだからな! 

 ……それではコルス殿、行きましょうか。」

「はい、皆も参りましょう!」



 ブレタとエルフ5人組、そしてコルスに声を掛けると、騎士たちも頷いて後に続く。


 槍を持った門衛相手に強気で『エルフの里から遣わされた巡視官である』という口上を述べ、書状を見せると、詰所から出てきた中年男性の魔術師が魔力認証で書状の真正を確認。



「帝国の書式に則り、エルフの里から正式に発効された文書と認定します。

 ベーザルゴへようこそ、巡視官殿。

 ……おっと、文書に書かれていない人の分は、ちゃんと入市税払って下さいね。1人青銅貨1枚になります!」

「ぁ、はい」



 ……うん、あんまり威厳とかかもし出せなかったみたいだ。




――――――――――――――――――――




 里で渡された文書の効果があったのか、それとも言われるままに入市税を支払ったからのなのか。

 フードやマントの襟で顔を隠した普人族の魔術師や騎士を連れているのを、特に咎められることも無く、とりあえず街に入ることが出来た。


 さて、冒険者のリーダーからエルフ公使館が中央市場の傍にあると聞き、人波でごった返す街の中心へやって来たものの。



「それらしい建物が見当たらないな~。公使館がどこにあるのか、その辺の人に聞いてみようか。……カイル、頼んだ!」

「ぅえぇ、俺っすかぁ」



 チンピラエルフ達のリーダー格で、比較的大人びた顔立ちのイケメンエルフの背中を叩き、露天で野菜を売ってる女性の方へけしかけてやると。



「お嬢さん、ちょっとよろしいでしょうか? この街にエルフの公使館があるはずなんですが、教え……」

「なんだい、話しが聞きたきゃ何か買っておくれ。もっとも、アンタ達エルフさまに売るような品はウチじゃ扱ってないけどねぇ」

「……そ、そぅすか」



 自分の顔に自信があるせいか、普人族女性相手でも慣れた態度で話しかけるイケメンエルフだったが、農婦とおぼしき女性からフンっと鼻であしらわれて、スゴスゴと戻ってきた。



「カイル、ご苦労さん」「……ないすふぁいと」「「「「 ドンマイ! 」」」」



(まだ、しこりがあるんだなぁ)


 友好的だったエルフの里が帝国との戦争で中立を貫いたことにより、旧ルメール国民の中には、逆恨みからエルフに反感を持つ者も多い。

 里で事前に聞いていた情報ではあるが、カイルを人身御供にして確かめることが出来た。



「よし、なるべく、帝国本土から移住してきた人物を探そうか。」



 服装とか肌合いで分かるかな? と思って市場の人混みを見回すが、もともと帝国と旧ルメールで人種的に差がある訳ではないし、交流していた歴史から文化・習俗も近い。

 文字すらほぼ共通で、せいぜい、発音やイントネーションに違いがあるくらいだ。

 ……うん、外見じゃ見分けが付かないな。


 エルフ嫌いの住民に片端から話しかけて玉砕するのも嫌だし、かといって、賞金首のコルスたちに話をさせるわけにもいかないし。


(どうしたものか)


 ぼんやりと視線を彷徨わせていたその時。




《ドクンっ》



 何かが、俺の視界を掠めた瞬間。

 心臓が跳ね上がるように、胸の鼓動が強く、激しく、高鳴る。


(今、のは……)


 人混みを挟んで、市場の反対側を通り過ぎた女性。


 薄汚れた旅衣装の下に一瞬覗いた、艶めかしい褐色の肌と、精気に満ちた美しい横顔。


(まさか……)



「待って! ア……」

「ジョシュ?」



 そのひとの姿を追って駆け出そうとした俺に、ブレタが怪訝けげんな表情で声を掛けた。



「どうしたんすか、アニキ。こんな所で飛び出して、迷子になられちゃぁ困りますぜ」

「何かありましたか!?」



 チンピラエルフたちはいぶかしげに。

 コルス一行は警戒感も露わに。


 皆が俺に注目していた。


(そうだった)


 今の俺には、リーダーとしての責任がある。

 仲間や庇護した人物を放り出して、好き勝手するわけにはいかない。


 それに。


(……あれが、闇神竜アルタミラのはず無いか。いくら何でも、短絡的過ぎたな)


 褐色肌の人物が珍しいとは言っても、別の大陸から流れて来た者か、普人族社会に溶け込んだダークエルフという可能性もある。


(それでも、公使館に着いてメンバーの安全を確保したら、彼女の事を調べてみよう)


 期待はしないつもりだが、『あの時知らずにすれ違っていた、ちゃんと調べていれば』なんて後悔だけはしたくない。




――――――――――――――――――――




 結局、商売の忙しさで殺気立った市場での情報収集を諦め、『帝国郷土料理』という看板の掛かった店に入って遅めのランチを注文しつつ、マスターからエルフ公使館の場所を聞き出した。


 なんのことは無い、郷土料理店の2軒隣、特徴の無い少し大きめの民家が公使館だった。

 国家の面子を保つ意味で、大使館・公使館の類はある程度格式ばっているものだと思っていたからちょっとガッカリしたが、首都でもない地方都市ではこんなモノだそうだ。

 ここでは、この街に駐留する帝国軍の情報収集が主な活動なのかもしれない。



「……事情は分かりました。はぁ、厄介なことになりましたねぇ」



 コツコツと執務机の端を指で叩きながら溜息をく緑掛かった銀髪の長耳美青年は、ベーザルゴに駐在するエルフ執行官グリューネワルト、ジェローム。

 かつて、ルメールからエルフが排斥された時、ロゴス隧道を一緒に潜り抜けたメンバーの1人だったので、個人的な付き合いこそ無いが、顔は知っている。

 今、彼の執務室に居るのは俺とジェロームの2人だけだ。



「難民、というからには、元々エルフ以外の種族の受け入れを想定してるはずです。彼女たちが普人族でも問題ないでしょう?」

「そういうことじゃないんだよ。

 キミにもロジーナにも世話になってるけど、事は外交問題だからね。

 実は、『コルス・ガランド』には帝国出入国管理局から出国禁止令が出てて、各国大使・公使館にも人相描きが届けられ、見掛けたら通報するように要請を受けてるんだ。

 派閥の首魁でもなんでもないただの弱小子爵の娘に、ここまで手配がされてるなんて、只事じゃないね。」



 やはり、何かウラがあるのかもしれない。



「職務に関して、ボクは情に流されたりしないよ。ここで表立って帝国と対立すれば、帝国に滞在するエルフ達の安全保障が出来ないからね。

 亡命申請は許可出来ない。」

「そんな! 彼女は粛清対象なんです。助けを求める者を通報して引き渡し、見殺しにするんですか?」

「頭の固い里の長老たちだって、きっと受け入れを許可しないよ。普人族のために同胞を危険に曝すなどけしからん、ってね。

 ……ただまぁ、知らないことは通報出来ないから。

 キミはここに普人族女性を連れてこなかったし、ボクはロジーナの書状を見てない。

 そうだろ?」



 『おおやけに庇うことは出来ないが、通報もしない』、それが、彼なりの温情と見るべきだろう。

 誰にでも、シ○ドラーや杉原○畝の真似が出来る訳じゃない。

 この際、それだけで満足するべきか。



「幸いなことに、帝国内の行政組織に混乱があるみたいで、コルス嬢の人相描きは、軍や治安関係の部署にはまだ出回ってないんだ。

 顔で判別出来るのは、中央の貴族たちを覗けば、外交省下部組織の各部署の人間と、各国大使館の担当職員くらいかな。

 ……冒険者ギルドにも流れてるって? 軍や治安関係を差し置いて民間にって、ルートが分からないから不穏だよ。もしかして個人からの依頼じゃないの、それ?」



 中央の社交界に出入りしているならまだしも、大きいとはいえ地方都市に過ぎないこの街に駐在するジェロームには、何が起きているのか分からないようだ。

 インターネットもマスコミも無い世界で、他国の中枢で何が起きているのか、情報を集めるには限界があるのだろう。

 どのような理由でコルスが狙われているのかは、本人の口から聞く以外ないらしい。



「これはただの独り言でエルフ執行官グリューネワルトとしての発言じゃないんだけど、今なら衛兵に咎められずに街を出られるはずだよ。

 ウチの里への亡命は諦めて、別の出国ルートを探した方がいいね。」



 ゴソゴソと地図を引っ張り出したジェロームが、指先でツツッとなぞって見せたのは。


①アレクラスト半島の付け根に位置する現在地、『ベーザルゴ』から、帝国本土内を南方に突っ切って、小国が密集するエレモス大陸中央へ向かうか、さらに南東にある商業都市国家連合『ギリーク』を目指すルート


②北西の港湾城塞都市『ポートフォリア』から、船で渡航(密航)するルート



 帝国内を陸路で突っ切れば、冒険者たちに見つかる可能性が高い。

 目撃されるのを覚悟で、ブランカに乗って強行突破するのも手だが……



「元々、レグルス大陸に渡るためにポートフォリアを目指してたんで、密航ルートにします。」

「ん、ボクは行先聞いてないからね。

 ただ、密航には裏社会の人間の伝手が要るから、この街の顔役のところに顔出しておきなよ。お金は掛かるけど、紹介状の1つも書いて貰えば、『身ぐるみ剥されてシーサーペントの餌』、なんてことにならずに済むから。」

「顔役?」

「そう、表ではこの街の商人ギルド長、裏では帝国内でも有数の奴隷商として幅を利かせる『イル・イェーロ』という男だ。

 元はルメールの行政官だった人物で、敗戦時に物資の横流しや不正に蓄財した資金で代官に取り入ったもんだから、この街の住人からは売国奴呼ばわりされてる。

 ただ、そんな人物だからこそ、エルフだろうと帝国人だろうと、金さえ出せば力になってくれるはずだよ。」



 裏社会の人間かぁ。

 あまりお近づきになりたくないが、背に腹は代えられないな。




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