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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第四章 村人Aになったった
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第72話 封印を解きし者になったった



 月明かりが照らし出したのは、血に染まった白狼・ブランカと、それを囲む人喰猿マーダーバブーンの群れ、そして、見たことも無い巨大な6本腕の巨猿おおざる


 スキル『心眼』で確認したソイツは……


『種族:アスラ・バブーン(魔王の卵)』



 ――って、魔王候補じゃんよ!?




――――――――――――――――――――




 魔神アイザルトが死んで『隔世かくりょ』に赴いた時、風神ティタンダエルから聞いた話では、『魔王』というのは、この星の魔素濃度調整のために、精神生命体によって意図的に創り出された存在である。

 勇者に討たせるために生み出された、ある意味、勇者と表裏一体をなす『道化』の役回り。

 ありていに言えば勇者の引き立て役、だろうか。


 だが、まだ魔王になってすらいない、『魔王の卵』段階だというのに。

 チート勇者としてではなく、生身の体で見上げるソイツは。


 ――『絶望』の一言に尽きた。



 小山のような巨体は、うずくまっている状態で10mはあるだろう。

 巨木の幹より太い6本の腕、膨大な筋肉で膨れ上がった体躯。


 弓矢も剣も槍も、人力で振るった武器の一撃など、この怪物の前では蟷螂の斧、いや、蚊に刺された程度かもしれない。

 高威力の単体攻撃魔法や勇者流剣術のスキルを持った人間が、数十人掛かりでやっと戦えるだろうか。

 要するに、高LV冒険者のレイドPTか、練度の高い軍隊が必要だ。

 間違っても、槍とシャベルの物理攻撃オンリーな駆け出し冒険者(見習い)2人組+狼1頭で立ち向かえる相手じゃない。



「どうする、ジョシュ。後続の捜索隊を待つ?」

「人喰猿の群れだけでもキツイのに、俺たちだけであの怪物と戦うのは論外ですね。

 っていうか、ブランカは何故逃げないんだ? アイツの足なら追い付かれることもないだろうに……。

 ――まさかっ!?」



 一本の大木を背にして唸り続けるブランカの足元には、人喰猿の屍が累々と横たわっている。

 その場に止まって、何匹もの猿を屠ってきたのだろう。

 つまり、その場を動かない、いや動けない理由があるのだ。


(アイシャっ)


 ブランカの背後の大木、そこにアイシャがいるんだ!




――――――――――――――――――――




「俺がヤツラの注意を引きます。ブランカの後ろの大木に妹が居るはずなんで、妹を連れてブランカに乗って逃げて下さい!」

「何を言うの? 武器も防具も無しに、あの怪物と渡り合うのは不可能」



 シャベル一本に布の服。

 いや、フル装備だったとしても、元より勝ち目は無い。



「渡り合う必要はありません。シャベルを捨てて、障壁魔法を張ってひたすら耐えます。その間に、エルフの捜索隊を呼んで来て下さい!」

「……あなたの妹がこんな所へ来てしまったのは、私のせい。時間稼ぎは、私がする!」

「ブレタ!?」



 止める間もなく、隠れていた茂みからザッと飛び出して突っ込んでいくブレタ。


(無茶だ!)



「ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォリャァァァァっ!!」

「ギャッ」「グェェ」「クカカ、ギャンッ」



 雄叫びと共に繰り出された槍の穂先が猿の急所を的確に貫き、振り下ろされた石突が頭蓋を叩き割る。

 闇の中、月明かりを反射してキラリ、と槍の穂先が光るたび、猿たちが断末魔の悲鳴を上げながら屠られていく。

 ブレタの鬼神のような獅子奮迅振りに、奇襲を受けた猿たちが逃げ腰になるが。



『ヴァッハッハッハッハッハ、チカラナキモノガ、ワレニハムカウカ。オロカ、オロカ。スグニコロサズ、テアシヲイッポンズツモギトッテヤレ!』



 大音声で哄笑した後、喋りやがったよ、6本腕の大猿が!

 しかも、相手をいたぶって楽しむ気だ。

 ブランカと対峙しているのも、逃げ出せない事情を分かった上で、すぐに止めを刺さず嬲ってるのか。


 リーダーである魔王候補の言葉が分かるのか、逃げ腰だったバブーンたちがブレタを包囲し始める。


 くそっ、ぐずぐずしてる暇は無い!



<ブランカっ、俺がアイシャを連れて飛び乗ったら、ブレタを咥えて逃げるんだ!>

「バゥッ!」



 念話に応えたブランカが、四肢を踏ん張ってグルルルル、と唸りながら猿たちを威嚇。


 猿の包囲が下がった隙に、ブランカの後ろの大木目掛けて走り出す俺。

 その行く手を、数匹の猿が阻む。


 だが、攻撃は全て筒抜けだ。

 殺気の白い軌跡を避ければ爪の斬撃や噛みつき、突進、全て余裕で躱すことが出来る。

 一匹目、シャベルですくった土を猿の顔面にぶちまけ、目潰ししておいて返すブレードで頭蓋を叩き割る。

 返り血を浴びながら2匹目の猿の喉笛にシャベルを突っ込み、転身してシャベルを引き抜きながら回転を付けて3匹目の顔面にブレードを叩き込む。

 喉と顔を抑えてのたうち回る猿たちにそれぞれ止めを刺し、次の猿にシャベルを向けると、ソイツは逃げていった。


 形状的に突き刺すと抜けにくいシャベルのブレードは、叩きつける方が効率的なようだ。

 ブレタが大半を引き付けてくれているお蔭で、何とかブランカの後ろに回り込むことが出来た。



「アイシャっ! 迎えに来たぞ、一緒に逃げよう!」



 暗くてよく見えないが、大木の根本に小さいうろがある。

 この中か!?



「アイシャ!!」



 覗き込んだ俺の鼻を、金気臭い臭気が迎える。

 猿たちの返り血を浴び、血だまりを駆け抜け、さんざん嗅いだのと同じ――血の臭い!



「アイ……シャ……」



 そこには、乱暴に扱われ、壊れた人形のようにボロボロになった、幼い妹の姿があった。




――――――――――――――――――――




「……ぐぬぅぅぅぅぅっ」



 それは、猿どもへの怒りなのか、妹を喪うことへの恐怖なのか、自分の無力さへの悔恨なのか。


 俺の中に、熱くて冷たくてどす黒い、固いしこりのようなモノが生まれ、胸を食い破って外に出ようとしている。

 そいつに全てを任せ、猿どもを殺して殺して殺しまくってやるっ!!

 後がどうなろうと知ったことか――



「に……さ、ま」

「アイシャ!?」



 生きてるっ!


 絶望からおかしくなりそうだった心が、一筋の光明に照らされて踏み止まった。

 震える手を伸ばし、血のこびり付いた、一本しかない妹の腕にそっと触れる。



「ごめ、ん、な、さぃ……」

「もう、大丈夫だ。よく頑張ったな。」

「にげ、て……」

「一緒に帰ろう、回復魔法を掛けて貰えば、きっと……アイシャ?」

「……」



 大丈夫、脈はある。

 意識を失っただけのようだ。

 出血量は心配だが、『生命水アクエリアス』や『月光ムーンライト』を掛けて貰えば助かるはず。


 ただ、高LVの聖魔法が使えない以上、命を取り留めても、元の体には戻らないだろう。


 それでも。

 生きていてさえくれれば。



ズシンッ!

――バキッ



「キャインッ!」



 アイシャを抱きかかえ、さぁ脱出だ、と勢い込んでいた俺の耳に、地響きと共にブランカの悲鳴が。



「ブランカっ!?」



 振り向けば、向こうに、木々をなぎ倒して吹き飛んだブランカの姿。

 息はしているようだが、口から血を吐き倒れている。


 そして、間近に聳える巨大な黒い小山――巨猿アスラ・バブーン


 振り抜いた形の巨猿の腕の一本が、ブランカをぶっ飛ばしたのか。

 残り5本の腕の掌には、それぞれ魔法で産み出した火球や岩槍を発動させている。


 単体の物理攻撃だけなら避け続ける自信があったが、同時に複数の攻撃を撃たれたら……



「ヴァッファッハッハッハ、コザカシイチビメ、ニガストオモッタカ?」

「……俺たちを喰っても、腹の足しにはならないぞ?」



 ブランカに乗って逃げる案は潰えた。

 こうなれば、里の捜索隊が到着するまで、なんとか時間を稼がなければ。



「ニンゲンハ、ニクハスクナイガ、コロスノガタノシイ。

 キョウフニオビエ、イタミニナキサケビ、イノチゴイスルノヲ、ジワジワツブスノガオモシロイ。

 サァ、ヒッシニアガケ!」



(くっ、この野郎っ)


 眷属の人喰猿たちが、じりじりと包囲の輪を縮めてくる。

 巨猿は、魔法を使えばいつでも倒せる相手を、わざと殺さないように加減しながら嬲る気だ。


 逆に、俺が必死に逃げ回っている間なら、止めを刺しに来ないかもしれない。


(悔しいが、シャベルで反撃するよりも、シャベルを捨てて魔法障壁を張り、回避に専念するべきか?)


 迷いつつ、左手にアイシャを抱え、右手に持った唯一の武器、魔道具のシャベルを握りしめた瞬間。



――ヴゥゥゥゥゥゥンッ



 シャベルが眩い光を放った!




――――――――――――――――――――




『このシャベルは仮の姿で――』

『お主に貸し与えた魔道具のシャベルな、アレの封印が解ければ――』



 そう、このシャベルは、実は凄い伝説級のアイテムだったりするかもしれない!

 長さ1mのスコップは仮の姿、元『槍の勇者』の持ち物だけに、オリハルコン製の槍とか、それに匹敵するアイテムの可能性が。



「獲物を前に舌なめずり、3流が仇になったな! 伝説の武器を喰らえ!!」

「ナンダトッ!?」



 これで窮地を打開でき……


ぷるんっ



「へ???」



 その感触は、ゼリーのような粘土のような、およそ武器には相応しくない質感。

 輝きながらどんどん大きくなっていくソレは、太くて持ちきれなくなり、ぷにょり、と俺の手から滑り落ちた。


 やがて、光が収まった時、地面に横たわっていたのは。


 手前の端は幼児オレの身長ほどの直径で、反対側が尖った形状の、真っ白な細長い円錐。

 長さ5mほどの、柔らかい角のようなモノだった。


 ……これで、どう戦えと。



「……ヨクモオドロカセテクレタナ、フユカイダ、シネッ!」

「のぉぉぉぉぉぉっ!?」



 この巨体から繰り出される攻撃は、八卦掌の歩法で躱せる規模じゃない。

 範囲攻撃(物理)だ。


 とっさに、無詠唱で障壁魔法を何重にも張る。


 しかし、障壁魔法は物理攻撃を防ぐだけで、魔法攻撃は防げない。

 幸い範囲魔法は撃てないようだが、火球や岩槍がちょっとでも掠めたら……


(くそっ、どうすれば!?)




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