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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第四章 村人Aになったった
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第69話 見習い拳士になったった

 鬼ジジイの切り札・『精霊合体』とは、無属性の野良精霊を喚び集めて、術者の分身ともいえるエネルギー体を創り出し、自分の星気体アストラルボディと合体させるスキルだった。


 これにより、超加速された意識状態となり、時間が止まったかのように感じるのだ。

 さらに、合体した精神的なエネルギー体を操ることで、精神のみの存在を攻撃することもできるようになる。


 精霊と契約し使役するという、従来の『精霊魔法』とは全く方向性の異なるスキル。


 問題は、超加速した状態で現実の肉体を操るのは危険、という点か。



<今の加速状態で下手に肉体を操れば、負荷に耐えられず自滅するぞぃ。

 例を挙げれば、魔力で肉体強化しておっても、走るなど以ての外、体重移動しただけで急激な慣性力により骨折するじゃろう。

 魔力強化してない状態じゃと、自分のパンチで肩を脱臼するどころか、腕が捥げ、衝撃で骨格を支える筋肉が全て断裂。震動によって揺さぶられた脳は自分の頭蓋骨に高速で何度も激突し破裂、重要な臓器も軒並みアウトじゃな。>

<怖ぇえよ!?>



 人間の骨格は、急激なG(加速度)に耐えられる構造をしていない。

 空自のパイロットは、テストで7Gに10秒間耐えなければならないが、その中から選抜されたジェット戦闘機のパイロットでも、耐Gスーツ無しで耐えられるのは9Gが限界とされる。


 超加速状態で体を動かせば、肉体に掛かる負荷は、瞬間的に何十G、ヘタすると何百Gの世界になってしまうのかもしれない。

 チート勇者はどうかしらないが、ただのハーフエルフであるジョシュの体は無事で済まないだろうな。



<まぁ、超加速中に呪文を詠唱することは出来んが、無詠唱なら魔法を発動することはできる。攻撃魔法を使えるようになれば、実体相手の闘いでも圧倒的優位に立てるぞぃ。

 回避行動以外で肉体を操作する必要は無いじゃろうて。>



 そっか、魔法があれば……、って、あれ、振り出しに戻った!?


 そもそも。


 『この先の冒険には魔法が必要だ』

⇒コネと根回しで学園に飛び級入園

⇒闇属性持ち発覚

⇒放逐の危機

⇒状況をどうにかするために、「俺だけ試験期間中」状態で穴掘り

 という状況なんですが。



<どのみち魔法が必要と分かってるんだったら、さっさと教えてくれてもいいじゃないですか?>

<まぁ慌てるでない。お主は無属性の補助魔法を修得出来たのじゃ、属性魔法なぞ簡単に覚えられるわぃ。精霊魔法も、精霊が視えるなら後は契約するだけじゃ。>



 鬼ジジイいわく、属性魔法より無属性魔法の方が、修得が難しいらしい。



<お主に伝えたいのは武術と『精霊合体』だけではないぞぃ。

 地・水・火・風・闇の5属性魔法を遮る『光の壁』というスキルがあるのじゃ。やはり、全体攻撃への対処も必要じゃからな。

 そのためには、前提として属性魔法の修得が不可欠じゃから、焦らんでも叩き込んでやるわぃ。

 貸し与えた魔導具のシャベルな、アレの封印が解ければ、正式に学園への入学を許す大義名分が立つ。魔法の修得はその後始めれば十分じゃ。>



 ん、あのシャベルに、そんな大層な存在意義があるのか??




――――――――――――――――――――




 その日から、俺の日課に、ジジイとのお遊戯が加わった。


 いつも通り、午前中は穴掘りをした後、炭鉱族ドワーフのベレッタ(ブレタ)と、槍とシャベルで組手をする。


 アイシャが持って来てくれた弁当を食べて休憩したら、午後からジジイと恒例の鬼ごっこ。


 その後、ブレタも交えて3人で、地面に描いた円の周りを、腰を落として盆踊りのようにグルグル回りながら歩き、時々仏像のようなキメポーズをしながら反転して逆回り、というのを延々と続ける。


 傍から見ればお遊戯にしか見えないコレが、『八卦掌はっけしょう』という拳法の基礎鍛錬・『走圏そうけん』なのだ。

 歩く時は、『扣歩こうほ』『擺歩はいほ』という、進行方向につま先を向けない独自の足運びで歩を進める。



「脚を上げるときも下ろす時も、地面を蹴るな。『平起平落へいきへいらく』じゃ」

「腰を落とし、田の泥の中を歩くように進め。『趟泥歩こうでいほ』という」



 ジジイは体を上下動させることなく、スイスイと滑るように歩く。

 腰を落とした状態で、移動するギリギリまで後方の脚に体重を乗せているため、脚には結構な負荷が掛かるのだが、この歩き方のお蔭で、いきなり反転されると至近距離で相手を見失うほどトリッキーな体捌きになるのだ。



「胸を張るな。背筋はまっすぐ。『含胸抜背がんきょうばっぱい』じゃ」



 姿勢にも細かくチェックが入る。

 胸を張らないのは、鎖骨と腕を繋ぐアーチを保つことで、体の力を逃がすことなく腕に伝えるためだ。

 背筋を伸ばすのは、体のねじりから発する発頸、『纏糸頸てんしけい』の伝達を妨げないため。



「転換して、突く時は、手と脚を、一緒に!」



 『換掌かんしょう』と呼ばれる動作で、初めて攻撃の型らしき動きをする。

 手や脚だけを動かす攻撃ではなく、必ず体重移動と手足の動きを併せ、体幹部の大きい筋肉を連動させる。

 基本的にこぶしを握らず、ぱらり、と開いた掌で攻撃。

 指先で目や鼻などの急所を突く、掌底でアゴを撃つ、膝蹴りで金的、前蹴りでスネを狙う。


 踊るような見た目によらず、泥臭くてエグイ武術だな。



「それだけではないぞ。指先で経絡秘孔けいらくひこうを突く漫画を知っておろう? あれと同じような技法、『点穴てんけつ術』が八卦掌にもある。」



 某世紀末救世主はブ○ース・リーがモデルだという話なので、拳法自体は『シークンドー』や『詠春拳えいしゅんけん』、或いは空手を参考にしていると思うのだが、秘孔は八卦掌の点穴てんけつ術を参考にしたのかもしれない。


 もちろん、点穴したからといって爆発するようなことは無いが、体を麻痺させたり、気絶させるばかりか、場所や力加減によっては死に至らしめることもあるのだそうな。

 危険なので、上級者向けで当分は教えて貰えない。


 基本の8つの型・『套路とうろ』を練習したら、個別指導に移る。


 ブレタには槍を演舞させ、その後ジジイと組手しながら駄目出し。


 俺には八卦掌の型のまま、開掌の代わりに両手に木剣を持つ『双剣』の指導。

 これまで培った、両手に短刀を持つ俺の戦闘スタイルを活かすこともできるのだ。



 精霊合体については、初日に体験させられた以降は練習していない。


 精霊の集合体――以後、分身体と呼ぼう――を創り出すためには、無属性の精霊でなければならないのだ。

 契約した精霊は何らかの属性に決まってしまうので、精霊合体には使えない。

 その都度、野良精霊を喚び集める必要がある。

 学園に正式に受け入れられて、精霊召喚が出来るようになってから再開する、というのが青野氏の方針だ。



 そんな感じで午後遅くまで鍛錬をしたら、用務員をしているシフや、図書館司書をしているアルベルトの手伝い。


 穴掘りと武術と雑用。


 そんな平和な毎日が続いていた。




――――――――――――――――――――




「はぁ……」

「どうしたの、にーさま?」

「ぁ、ううん、なんでもないよ。」



 夕食時、知らぬ間に溜息を吐いてしまったようだ。

 妹のように懐いてるハーフエルフの幼女、アイシャに心配されてしまった。



「なんでもない割に、暗い顔してるわよ?」

「ああ。ジョシュは何でも顔に出るよな。」



 アル・シフ夫妻から見ると、俺の内心など筒抜けらしい。

 開き直って相談することにした。



「実は、ベレッタさんに嫌われてるらしくって……」



 槍の組手で初めて勝利し、鬼ジジイが訓練に現れた日以降。

 ベレッタ(ブレタ)の殺気を読めるようになった俺は、彼女の槍を完全に見切れるようになった。


 それ以来、全く口を利いてくれなくなったのだ。


 まぁ、恋人の仇を討つため5年間真剣に鍛錬したのに、ポッと出の幼児に負けたとあっては面白くないだろう。

 それは分かるのだが。



「元々無口でしたけど、最近は挨拶すら返してくれなくて。」



 鬼ジジイとしては、共通の仇である吸血聖女を討つために、俺とブレタでチームを組んで連携させる予定だったらしい。

 それが、全く打ち解けない俺たちのせいで、連携の練習に入れないというのだ。



「う~ん、あの娘、悪い子じゃないんだが…… 自分1人で仇を討つ、と思い詰めて心を閉ざしてるんだよな。俺たちとも、必要最低限の会話しかしないよ」

「昔は、いつもニコニコしながら畑仕事や鍛冶屋の手伝いをしてるような、大人しくて優しい子だったらしいのよ。」



 ロゴス隧道で一緒になった、鍛冶屋のおかみさんを思い出す。

 ブレタの母親である彼女は、朴訥ぼくとつだけど、どっしりと落ち着いて、いつもニコニコしてる肝っ玉母さんって感じの女性だった。

 ブレタも、幼馴染の恋人を亡くす前は、あんな感じだったのかも?



「ベレッタねーさま、優しいよ? アイシャ、知ってるもん!」



 俺は知らんもん!


 とはいえ、現在のブレタが、アイシャみたいな無垢で可愛い幼女に冷たく出来るような人物では無いことが分かって、ホッとする。



「アイシャが、にーさまとベレッタねーさまを仲直りさせてあげる!」

「そっか、アイシャなら出来るかもしれないな。ベレッタさんと仲直り出来るように、よろしく頼むよ。」

「うんっ!」



 この時、気軽に頼んだ一言から、いたいけな幼女をあんな目に遭わせることになるとは、その時の俺に分かるはずも無かった……




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