第66話 老人の話し相手になったった
「かつて『槍の勇者』であったこの『青野三郎』が、お主に全てを叩き込んでくれよう!」
「なんだってぇぇー」(棒読み
鬼ジジイことブルー校長の『実は元勇者でした』という突然のカミングアウトだが、薄々うさんくさいと思っていた俺はそんなに驚かなかった。
「な、なんじゃ、その腑抜けた反応は? 元勇者の直弟子にしてやろうというのだ、ここは感動するなり驚愕するなり、劇的なリアクションをするところじゃろう?」
「理不尽な穴掘りには理由があったし、強面で俺を追い出そうとしたのはフリで影では擁護してくれたみたいだし、アル達を呼び寄せて俺のサポート態勢が万全だし、どう見ても特別扱いしてくれてるってバレバレですよ。
ロジーナから頼まれてたとはいえ、何か理由があるだろうってくらい察しが付きます。」
論破、というほどでは無いが、怪しい点を列挙しただけで、明後日の方を向いてヒゲを弄りだす鬼ジジイ。
「まぁ、その、なんじゃ。話を聞いておれば、元勇者として協力せんわけにはいかんじゃろ? 『世界の破滅を回避』とか言われたらのぉ。
最初辛く当たったのも、お主の人柄と覚悟の程を見るためじゃし、詳しく説明せずに穴掘りを命じたのは、根性を鍛えるためじゃ。見返りがあると分かっている時にしか頑張れないようでは、旗色が悪くなればすぐ諦めてしまうからの。 儂が宮大工だった頃にも、若いもんを鍛えるのに苦労したもんじゃ。」
「前世は宮大工だったんですか?」
「おう、そうなのじゃ! この里の木造建築物には、儂の教えた技術が生かされておるのだ。例えば長老議会議事堂や執行部の官舎はな、出雲大社の……」
「あ、そんなに興味無いんで、詳しく話してくれなくてもいいです。」
「き、貴様、年長者への礼儀には気を付けろよ? 儂はまだいいが、他の石頭の長老たちの長話を遮ったら、機嫌を損ねて余計に話が長くなるんだぞ!?」
なるほど、初対面で礼儀について言われたのは、いずれ長老に顔合わせするための予行演習だったか。
ん、そういえば。
「転生者や勇者はエルフの里で嫌われてる、って聞いた気がするんですが、もしかして青野さんも……?」
「そ、そんな話、今はどうでもいいのじゃ!! それよりも、これからお主が取るべき道、立ち塞がるであろう『吸血聖女』の話をしようではないか。」
うん、誰にでも触れられたくないことはあるよな(ニヤニヤ
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「まずは、お主が探すべき『魔神の魂の器』となりうるモノの件じゃな。
オリハルコン製の自動人形。
高純度魔結晶で造る人造人間。
実体系高位アンデッドの精神のみ浄化し残った肉体。
これらはいずれも入手可能ではあるが、同時に入手不可能でもある。」
「へ??」
可能で不可能って、要するにどっちだよ!?
「一つずつ順に説明しよう。まず、お主は『オリハルコン――精神感応金属』について、どの程度知っておる?」
「外宇宙から飛来した『精神生命体』がもたらした物質で、現在のこの星の技術で作り出すことは出来ない、とか。」
「ほう。そこまで知っておるなら話が早い。要するに、この世界に現存するオリハルコン製の物質は、転生者・転移者がチートの一部として持たされるアイテムと、死の大空洞を構成する直径20kmの円盤以外には存在しない。」
あれ?
確か、現在の地球の状況(生命が死滅した後、精神生命体によって再生された)は転移者・転生者にも知らされない情報だ、と天狗っぽいヤツが言ってた気が。
「ちょっと待って下さい。自分で言っちゃいましたけど、精神生命体の件は、転生者も生きている間は知らされない情報だったはずです。どうして青野さんはそのことを?」
「……一度死んで蘇った者から聞かされたのじゃ、この世界の真実をな。
それが『吸血聖女』。かつて、『聖女マリナ』として儂らと行動を共にしていた転生者だ。」
どうやら、鬼ジジイが知っていることは、全て聞き出さなければならないようだ。
「話を戻すぞ。オリハルコン製の物質を製造したり加工したりする技術は儂らには無い。だが入手出来る可能性がある。つまり――」
「初めから自動人形として造られたオリハルコン製のアイテム――勇者武具が、どこかにあるんですね?」
「その通りじゃ。とある勇者がチート武器として持ち込んだ、人型決戦兵器、オリハルコン製の巨人が、ある大陸の地下に眠っておる。」
「その場所は!?」
「とある勇者とは、かつて魔王に堕ち、『人魔大戦』を引き起こした我が友、『金田小太郎』。
巨人が眠るのは、人魔大戦の決戦の地となり、荒れ果てた南の大陸、その地下にある巨大洞窟。
すなわち、ローグ大陸の『死の大空洞』、その最深部だ。」
「おぉ!」
場所さえ分かれば、取りに行くのは楽勝じゃないか♪
「喜ぶのは早いわぃ。ローグ大陸の『死の大空洞』は、魔王となった元勇者の亡骸と共に封印されておるのじゃ。
封印したのは、光・闇・地・水・火の5色の神竜。かの者たちが存命のうちは、封印が解けることは無い。」
それじゃ、可能だけど不可能、ってのは……
「神竜を全て倒せば封印が解けるが、そんなことに挑むのは命知らずにも程がある。
第一、お主は闇神竜と昵懇の仲であろう? たとえ倒すのが可能だとしても、まさか本当に倒すわけには行くまい。」
「当たり前ですっ!!」
アルタミラ達を守るために魔神として転生できる肉体を探してるのに、アルタミラを殺すだと!?
本末転倒っていうか、ありえないだろ。
「と云う訳で、オリハルコンの体は諦めた方がえぇぞぃ。」
「……そうします。」
「ちなみに、『吸血聖女』が地神竜を狙ったのも、封印を解くためじゃろうの。」
「吸血聖女もオリハルコンの巨人を狙ってるんですね。一体、何のために?」
「そこまでは儂にも分からん。
彼女は変わってしまった。ヴァンパイアとして蘇生した時……いや、連合軍側について金田を倒し、刺し違えて命を落とした時にか。
彼女は精神生命体を憎み、自分の運命を呪い、この世界の破滅を願っておる。
お主が未来の破滅を回避したいなら、いずれ彼女と決着を付けねばなるまいて。」
そうか。
吸血聖女が神竜を倒す気なら、アルタミラの敵であり、俺の敵でもある。
「分かりました。しかし、奇襲だったとはいえ地神竜とタメ張れる相手に、チート勇者でもない俺がどうやって立ち向かえと?」
「もちろん、並みの剣士や魔法師で歯の立つ相手ではない。」
どう見ても無理ゲーだろ。
「そのために、儂の奥義をお主に叩き込んでやろうというのじゃ。その件については、後で話そう。
それより、次は、高純度魔結晶を材料とする人造人間を検討するぞぃ。
錬成できる錬金術師には心当たりがある。
問題は材料じゃ。魔結晶がどんなモノかは知っておろうな?」
魔力と相性の良い鉱石に魔素が浸透・凝縮して出来上がった結晶で、魔力を貯めておいて使うことの出来る、充電式魔力電池みたいなモノだ。
「ええ。ロジーナから貰って、大きい物はナイフの柄やブレスレットに仕込んでます。」
現在は、私物としてアル達の官舎に置いてある。
魔力を吸収してしまうシャベルで穴掘りをしていると、魔結晶に貯めておいた魔力まで吸われてしまうのだ。
「ふむ。じゃが、そのレベルの魔結晶をどれだけ集めても、良質な人造人間の材料にはならんよ。冒険者がどれだけ大枚積んでも、入手できるのはその辺のダンジョン深層のドロップ品や炭鉱族が採掘したモノじゃ。
『高純度魔結晶』と言うためには、『死の大空洞』から直接産出したモノか、最低でも『死の大空洞に直結するダンジョン』の深層で採掘したモノでないとのぅ。」
またしても大空洞か。
そういえば、魔神に転生した時、最初に拾ったのが『魔結晶の欠片』だった。
今、アレが手元にあればなぁ。
「そして、それら希少な『高純度魔結晶』は、国家が買い占めて、一般に流通することは無い。何故だか分かるか?」
「いーえ、全く。」
ブンブンと首を横に振る。
「この世界における最先端技術――軍事技術でもある――は、魔術による転移技術、『転移石』じゃ。その核石の材料となるのが、高純度魔結晶。どれだけ資金があっても、軍事転用可能な移送技術を個人に使用させるわけにはいかん。帝国も都市国家連合も、個人の核石および高純度魔結晶の保有を禁じ、厳重な管理下に置いておる。
弱小国なら融通が利くかもしれんが、仮に儂の財産を全部つぎ込んで買い漁ったとしても、手の平サイズの小人しか造れまい。里の資産を全部売却しても、必要量を買い集めることは出来んだろうよ。
どうじゃ、この先、冒険者として稼いで、それだけの資金を貯められると思うか?」
仮に、元勇者と同等の稼ぎが出来たとしても、俺には制限時間がある。
ハイエルフの鬼ジジイこと青野さんが何百年生きているのかしらないが、それ以上の資産を築く自信は無いな。
「買うのは諦めて、自分で取りに行くしかないみたいですね。」
「チート勇者でもない、生身の人間が、か?
死の大空洞及びその直近は魔素溜りであるからして、過剰な魔素に晒された生身の肉体は継続的なダメージを受け、滞在するだけでHPがゴリゴリ削られて行くのじゃ。儂とても、現役の頃ならいざ知らず、『元』勇者となった身では自殺行為よ。」
……それは詰んでるな。
ん、しかし、死の大空洞でも平然としていられる生物を、俺は知ってるぞ?
「それじゃ、神竜に取って来て貰う、ってのはどうでしょう?」