第7話 巨人になったった
< アイザルト!
生きてるんでしょ?
さっさと起きて、起きてってば!
起きなさいよっ!! >
耳元で、誰かを起こそうとする女の声が騒がしい。
正直うるさいから、余所でやって欲しい。
彼女に起こして貰えるとか、リア充もげろ。
そんなことを考えた瞬間、腹を刺すような痛みが襲う!
グ~、キュルキュルキュル……
「は、は―――、……腹、減った。」
痛みすら伴う空腹に、否応なく目を覚ますと。
< ……やっと起きたわね。
心配して損、
ぁ、し、心配なんてする訳ないじゃない!
そんなことより、聖魔法のLVは上がったの?
は、早く確認しなさいよ! >
声につられて目を向けた場所には、
「ツンデレな妖精さん?」
いや、人形サイズに縮んだアルタミラが宙に浮かんでいた。
「ア、アルタミラさんがエロフィギュアに!?
どこで売ってるんだ!
じゃなくって、一体何が起きたんだ?」
< エルフィグア??
何言ってんのか分んないけど、アタシが縮んだんじゃなくて、アンタのLVが上がって体が成長したのよ。
まぁ、急激にLVが上がったせいで成長痛がキツかったみたいね。
動けずにブラックドラゴンの死体に轢かれた時は、もうダメかと思ったわ。
LVUP直後に死亡とか、そういうマヌケな事やりそうなのよね、アンタ。
見かけによらず丈夫で良かったわ。 >
体を起こそうとすると、全身の皮膚が突っ張るような感じでヒリヒリする。
見た感じ、傷一つ無いんだけどね。
ドラゴンの巨体と地面の間ですり潰されたら、赤いシミになっててもおかしくなかったのに。
立ち上がってみると、何となく広間が以前より狭く感じる。
アルタミラがそのままで、俺が大きくなったんだとすると――、身長8mくらいにはなってるかもしれない。
これはもう、巨人だ。――弱点はうなじだろうか。
手足はかなり細く、アバラに骨が浮いてる。
元々もやしだったけど、身長が伸びた分の肉や骨が足りてない感じだ。
自分の顔は見えないけど、きっと、げっそりやつれてるだろうな。
痛む体にヒールを掛けると、状態を確認するため自分に心眼スキルを使う。
≪アイザワ ヒロト≫
種族: マジン(固有種)
LV: 11
――――――――――――――――
【ステータス】
HP : * / *
MP : * / *
力 : 14
体力 : 1000
知力 : 5
精神 : 1000
器用さ: 4
速さ : 13
運 : 2
成長ボーナスポイント:10
――――――――――――――――
【スキル】
・心眼 LV10
・亜空間収納 LV2
・全方位探知 LV4
・念話
・人化
――――――――――――――――
【魔法】
・聖 LV12
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【属性】
闇
――――――――――――――――
【耐性】
闇・火・水・風・地属性の攻撃無効
石化・魅了・麻痺・毒の状態異常無効
――――――――――――――――
【加護】
闇神
風神
――――――――――――――――
おぉ~!
「やった!
俺のLV11に上がってるよ!
ん、――なにこれ?
……体力と精神のステータス値、めちゃ高ぇ!」
アンバランスってレベルじゃねえぞ!?
弱いのに硬いにも程がある。
全裸で土石流に巻き込まれたり、ドラゴンに轢かれたりしても怪我ひとつしない理由がこれだったのか。
痛覚はしっかりあったから、こんなに防御力あるとは思わなかった。
体力と精神のステータス値が今まで表示されなかったのは、心眼スキルのLVが低かったせいかな?
心眼のLVも10まで上がってるし。
スキルLV上がったのは、ドラゴンゾンビを鑑定した時点?
それとも倒した時だろうか。
あの時は、ステータスは殆ど表示できなかったけど、LV97が見えたんだから、2桁までしか表示できなかった可能性がある。
今は、少なくとも4桁まで表示できるようになったってことだろう、たぶん。
だとすると、俺の現在の最大HP&MPはどうなっているのやら。
あと、俺自身のLVUPで上がるステータス値もあるようだ。
力と速さが10上がってる。
LVが上がる度、1ずつ上がったのかな。
それに、ボーナスポイントも貯まるみたいだ。
何に振ろうか、って……ほんとにゲームみたいだな。
そうだ、肝心の聖魔法は?
「聖魔法は――、LV12だ!!」
< 聖魔法の種類はどう? >
そうだ、LVは上がったけど、魔法の種類、ちゃんと増えてるのか?
聖魔法の詳細を見た。
・聖なる祝福:対象のステータス値を{聖魔法LV}%の割合で増幅させる。 必要MP10。
・リザレクション:対象を蘇生する。魂を失った者の蘇生はできない。
必要MP20以上。
成功確率は、
{(聖魔法LV/100)+(使用MP/20)}%。
ヒールとキュア以外に、魔法が2つ増えてる!
「――あった!
あったよ、リザレクション!!」
よし、これでアルタミラを復活させられるぞ。
「さぁ、早く帰ろう!」
< ちょっと待って!
あのブラックドラゴンの死体、ほっておくとまたゾンビ化するわよ。 >
急ぐ俺を引き止めたのは、蘇生魔法を待ち望んでいたはずのアルタミラだった。
「え、あれで倒したんじゃないの!?」
< 普通、アンデッドが自然発生したり、再生したりすることは無いわ。
死霊術師がサモンアンデッドでもしない限りはね。
――その例外が、死の大洞窟に近いこの場所と、ドラゴンよ。
ドラゴンの角には魔素を吸収する能力がある、って前に話したわね。
魂が肉体を離れても、角は魔素を吸収し続けるの。
魔素の濃い場所――ここなら、なおさらね。
生きている肉体は魔素を魔力に変換できるけど、死体にはそれができない。
吸収されても魔力に変換されない魔素は、本来ならそのまま拡散してしまうはずだけど、 魔力と相性のいい生物――ドラゴンや魔族――の死体は、魔素を負の耐久力、つまりアンデッドのHPに変換してしまう。
魔素を吸収して十分に耐久力を得た死体が一種の魔法生物と化して、その意思の無い肉体が邪神の遺志によって操られる――それが、さっきのドラゴンゾンビなのよ。 >
解説ありがとう。
「邪神に操られる魔法生物か……。
怨霊が乗り移って動いてる訳じゃないんだな。
良かったぁ、ファンタジーはいいけど、ホラー苦手なんだよね、俺。」
いや、ただの怨霊より邪神の方が怖いかな?
まぁ、触らぬ神に祟り無し。
……変なモノ拝んだり、近寄らないように気を付けよう。
< 普通はアンデッド化するまでに相当の時間が必要だけど、ここは死の大空洞に近いから、魔素の集まり方が早いのね。
……死んでから、まだそんなに経ってないのに。 >
ドラゴンゾンビは?と見回すと、俺を轢いた後、さらに俺の上を通り過ぎて、トンネルの中まで突っ込んだようだ。
トンネルの壁に寄り掛かるようにして止まっていた。
「じゃあ、あのドラゴン、どうすればいい?」
< 下級種とはいえ、アタシの眷属なのよ。
死後、邪神のオモチャにされるなんて、我慢ならないわ。
魔素を蓄えてアンデッドのHPに変換されないように、角を折っておくのが一番ね。 >
というわけで、ドラゴンの死体に向かった。
トンネルの天井が、さっきより低く感じる。
人化したら元のサイズに戻るかな?
まぁ、試すのは後回しだ。
さっきは見上げていた小山のようなドラゴンの巨体も、俺もデカくなった分、相対的にこじんまりとして、自家用車くらいのサイズに見える。
ドラゴンの頭を見降ろしながら、今、俺が途方に暮れているのは。
「この角、どうやっても折れないんすけど。
どうしたらイイの?」
ノコギリとかあれば切り取れそうだけど、道具類は一切無い。
素手じゃあ、俺の力ではビクともしない。
力のステータス値は、たった14。
デカくなったら、それに比例して力も上がると思うんだけどね。
元の身長は168cm、今が8~9mくらいとすると、約5倍
相似形として単純に計算すると、身長が5倍なら体積は125倍。
体積と体重が比例すると考えれば、その体重を動かすためには125倍の筋力が必要なはずでは?
いや、そもそも増加した体重分の質量はどこから現れたんだ?
……まぁ、いっか、ファンタジーっぽい世界だし。
「角を折るのは諦めて、ほっておいてもいいんじゃない?」
< ダメよ!
そこの広場、ワタシの寝室なんだから。
あの子も連れて来て、しばらくここで暮らすのよ?
腐ったのがうろついてたら、臭くてたまらないわ! >
言うほど腐って無いよな。
まだ死んで間がないからか。
っていうか、そんな理由?
さっきは「自分の眷属を貶められるのは我慢ならん」みたいなこと言ってたのに。
態度はアレだけどやっぱり一族を統べる神竜なんだな、って感心した俺の気持ちを返せ。
……っていうか、これ、食べれないかな?
「じゃあさ、亜空間に収納したらどうかな?
アルタミラが、自分の肉をそうしろって言ってたじゃない?」
< アンタ、頭悪そうな割に良いところに気が付いたわね。
やっぱり、ワタシが良いこと言ったおかげね! >
スル―だ、スルー。
俺は、ブラックドラゴンに触れて「収納!」と唱える。
この大きさの物がちゃんと入るか心配だったが、問題無く虚空に掻き消された。
確認すると、スロット一つにちゃんと収まっている。
ちなみに、亜空間収納のスキルも今のでLVが上がったが、残念ながらLV97のドラゴンの死体を取り入れても、一気に10くらい上がるなんて事は無く、LV3になった。
そういえば、死体はLVとか関係ない、ただのアイテム扱いだったか。
それより、ちょっと引っ掛かってることがある。
「さっきから、気になってることがあるんだ。
魔素濃度の高い場所に放置されたドラゴンの死体は、自然にアンデッドになるんだよね?
しかも、魔素の濃い場所ほどその時間が短くなる、で間違いないよね?」
< うんうん、その通りよ。
ちゃんと理解できてるわ。
――アイザルトにしては上出来ね。 >
何か言ってますが、そんなことより。
「俺達がさっきまで居た『死の大空洞』って、ここより魔素濃度高いんだよね?」
< うんうん。 >
「で、物凄く強そうなドラゴンの死体が、その場所に放置してあるんですけど。」
< え!?
あぁ、ワタシの体?
心配ないわよ。
その肉体の魂が傍にあるなら、ある程度は邪神の影響を排除できるわ。 >
「そっか、これだけ離れてても大丈夫なんだ。」
< ……え? >
「え?」
俺達はしばし見つめ合った。
――――――――――――――――――――――――――――――
やっぱり、ブラックドラゴンの死体なんぞ放置して、まっすぐ帰るべきだった。
もしアルタミラ――神竜ダークバハムートがドラゴンゾンビになってたら、子ドラゴンが危ない!
「どーすんだよっ?
もしアルタミラがドラゴンゾンビになってたら、俺のヒールで倒せるの!?
HPいくつあるの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
< 誰が馬鹿よ?
もう死んでるわよ!
――そんなことより~、HPだけど、
……大体100万くらいかな、テヘ。 >
てへぺろ、とか、どこで覚えやがった?
アルタミラを左肩に乗せ、全力でトンネルを駆け抜けると、岩棚に辿り着いて下を見下ろす。
「飛び降りてしばらくしたら、レビテーション掛けて!」
ゆっくりはしていられないが、地面に激突死したら意味が無い。
ある程度の速度に達したら、重力加速を止め、団扇で減速して着地する計画だ。
アイテムスロットから天狗の団扇を取出す。
意外にも、今の俺にピッタリの大きさだ。
消しゴムサイズになってるかと思いきや、俺に合わせて大きくなったのだ。
風神、G.J!
俺は、団扇を右手に握りしめると、4000m下の地底へ向かってダイブした!