第62話 問題児になったった
念願かなって、属性魔法を覚えるためエルフの幼年学校に入学出来る、と思ったら、ロジーナとの別れが待っていた。
この5年間、(多忙ゆえに使用人任せではあったものの)血の繋がりのない俺を息子と呼んでくれた彼女。
突然の別れに衝撃を受け、つい感情的になって当たってしまったが、お蔭で自分自身も気づかなかった、心の奥底の感情に気付くことが出来た。
命を落としたのは自分のミスで、誰も責めることは出来ないと分かっている。
誰のためでもなく、自分がそうしたいと風神に頼んだ再転生。
理屈では、転生してやり直せるということ自体が破格の扱いだと分かっているけども。
『どうして自分がこんな目に遭わなきゃならないんだ』という被害者意識に凝り固まった怒りがくすぶっていた。
その一方で。
真実を知っている俺は、地球の未来を背負ってるんだから他の連中とは違う、という驕り。
事情を知らない他人は当てにならないから、しっかりしなければ、という焦燥感。
誰も俺の事を分かってくれる筈が無い、という独りよがりな孤独感。
父と母が俺を残して逝ってしまったことで覚えた、胸を抉られるような寂しさ。
無意識に、そんな中身を誰にも見せないように行動していたつもりが、押し殺した感情を色々と拗らせていたらしい。
自覚は無かったが、ひねくれた子供(中身は通算26歳)になっていたようだ。
アルたち隧道帰還組のエルフは、気を使って接してくれたらしく、これまで里の暮らしで目立った軋轢は生じなかった。
しかし、これからは友好的では無い相手ともコミュニケーションを取らなければならない。
それを見越したロジーナが、俺のためにしてくれた最後の心遣いだったのだろう。
他人に見せれば受け入れられる筈が無い、と思っていた自分のありのままの姿を、ロジーナが受け入れてくれたことで、俺自身も受け入れることが出来た。
等身大の自分を引き出されたお蔭で、俺は、自分の心を以前よりも客観的に見られるようになったと思う。
少しだけ精神的に成長して、今までより大人の対応ができるはずだ。……たぶん。
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そんなロジーナの心遣いが、早速役に立ちそうな気配だ。
エルフの里・幼年学校に入学した初日。
新入生7名を加えても、100人に満たない生徒たち。
ほぼ全員顔見知りのはずだが、俺はハーフエルフということで、他のエルフの子供たちと遊んだことがなく、面識が無い。
そのせいもあって、ほとんどの上級生は俺に好奇心混じりの視線を向けてくる。
その中で、明らかに敵意を向けてくる4~5人のグループ。
上級生の中に見つけた見覚えのある顔は、ブランカとランニング中に魔法をぶつけて来た悪ガキどもだ。
当時10歳前後だったから、今は15歳くらいか。
厨2真っ盛りの、難しいお年頃だな。
たぶん最上級生なので、しばらくすれば卒業していくだろうし、ここは大人の対応で、表面上だけでも礼儀正しく相手を立てておくべきだろうか。
(よし、こちらから挨拶に行こう。)
そう思って踏み出そうとした途端、成人のエルフ女性が、水晶玉のようなモノを持って新入生の前に進み出た。
「それじゃみんな、属性を調べるからここに並んで! 順番に、コレに手をかざすのよ。」
教師らしき女性が、ガタガタと易者が使うような小さい椅子と机を用意し、魔道具らしき水晶玉に手を翳すように子供たちに呼びかけた。
……属性を調べる方法、なんていうか、ベタだなぁ。
手足の細い華奢なエルフの9歳児たちが、言われた通り素直に並ぶ。
その最後尾に、背丈は他とあまり変わらないが、1人だけ耳が短く、ゴツゴツした体形の6歳児の俺が並ぶ。
明らかに人種が違う。
これはイヤでも目立つな。
そんな居心地の悪さを覚えつつ、前の子の属性検査の様子を覗く。
エルフたちは、『森の妖精』の異名を持つだけあり、森を育む『光と風と水』を愛するのだそうな。それを言ったら、土壌である『土』だって大事だと思うが。
エルフの男の子が手をかざすと、水晶玉が緑色に強く輝き、続いて薄い赤色に輝いた。
「あなたは風と火、2属性ね。加護は風神みたいだから、風をメインにするといいわ。」
「光じゃなかったなぁ、風メインかー」
「いいな~、わたし水がメイン……」
「属性1つしかないよりは、良いじゃない?」
属性が判明し、興奮する子に落ち込む子、様々だ。
属性は、必ずしも両親から遺伝しないので、両親が光属性のハイエルフでも、子はそうでないことがあるし、逆もありうる。
『心眼』スキル持ちの俺と違い、普通は魔法を修得する時まで自分の属性を知らないらしいので、皆、密かに光属性を期待していたのだろう。
「あなたが最後ね。さぁ、そこに腰掛けて、手の平を魔道具に直接触れない程度にかざして」
「はぁ」
言われた通り、水晶玉に触れるか触れないかぐらいの距離で手をかざすと。
眩しい程に白く輝いたかと思うと、続いて真っ黒に染まり、最後に緑色に輝いた。
「まぁ、光! ……の後は闇?? それに加えて風だなんて? しかも、全部加護が付いてる……ちょっとどういうことなの!?」
「測定器が壊れたんじゃないか? そんな属性配分、ありえないだろ!」
ありえない?
自分の属性は知っていたので疑問に思わなかったが、そう言われてみれば、光と闇は対立する属性で、同時には持てないんだったっけ。
それに、光か闇、どちらかの上位属性があれば、下位属性である地水火風の4属性全て使えるはずだから、風だけ個別に持ってる意味が分からない。
あと、加護って複数あるのは珍しいのかな?
前世の魔神時代にも、闇と風、2つの加護付いてたんだけどな。
「ブルー長老に報告するんだ!」
数人の教師が、慌ただしくバタバタと駆けていく。
残った教師たちは、みんな腰が引けている。
大人たちの困惑が伝染したのか、子供たちも遠巻きにして近づいて来ない。
……なんか、やらかしたっぽい?
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いきなり、校長室っぽいところに連行されてしまった。
長老の書斎らしく、大量の本や石版、得体の知れない魔道具が積み上げられている。
現在、軍隊の鬼教官みたいな強面で厳ついじーさんと、2人きりだ。
「あの、何かマズかったんでしょうか?」
「キサマっ、それが目上の者にする態度かっ!!」
いきなり怒られた。
言葉遣いが悪かっただろうか?
「まずは礼をして、名乗るのが先だ。ロジーナはそんなことも教えておらんのかっ」
(うわぁ、めんどくせぇ)
内心ムッとしたが、就活時代を思い出して我慢だ。
エルフが上位者にする礼は、たしか片膝をついて両手を胸に当てるんだったか。
「新入生のジョシュ・フィーロと申します。この度はお騒がせして申し訳ありません。我が身の不明を恥じるところではございますが、自分の何が問題だったのか理解できませんので、ご教示賜りたく……」
「ふん、もう良いわ。
お主のことは、ロジーナから聞いておる。転生者であることも、その先の事情もな。だが、だからと言って、特別に優遇してやるつもりは無いぞ。危険な闇属性持ちとあっては、魔法を教えることはできん。
即刻、学園から立ち去れ!」
「なっ!?」
ロジーナの恩師で、理解のある人物だと聞いていたのに、いきなりコレかよ?
こっちに名乗らせておいて自分は名前も言わないし……まぁ、見た目から『鬼ジジイ』と呼ばせて貰おう。心の中で。
「待って下さい! 闇属性が危険だなんて、知りませんでした。ロジーナだって、闇精霊を使役してたじゃないですか?」
「精霊魔法は別じゃ。精霊は、術者の属性と無関係に、契約すれば使役することが出来るからな。」
「闇属性の魔法が問題なら、闇魔法は修得も使用もしません。だから、」
「そうではない。闇属性を持っておること自体が問題なのじゃ!」
もしかして、光属性のエルフが『ハイエルフ』と尊重されるのと逆に、闇属性は排斥されるのか?
「闇属性を持つエルフは、『ダークエルフ』と呼ばれ、怖れ忌み嫌われる。
この里の中で、褐色肌のエルフを見たことがあるか?」
「いいえ……」
「ダークエルフは、生まれた時から肌の色で区別が付く。里に災いをもたらさぬよう、魔獣の住む森に捨てられるか、両親共々追放されるか、どちらかじゃな。」
ハーフエルフだけじゃなく、ダークエルフも差別されるとか。
本当に排他的な種族だな。
「しかし、俺は光属性も持ってます! 肌だって褐色じゃありません。危険かどうか、よく見極めて判断して下さい。」
この先、魔法が無かったら詰む。
なんとか食い下がって説得しなければ。
「そうは言ってもな、子供たちだけでなく、教師たちも怯えておる。闇属性のことはもちろん、対立する光属性と両立しておるなど前代未聞じゃ。不吉な存在ではないか、とな。」
「ロジーナから話を聞いてるなら、私が魔法を修得するのは、未来の破滅を回避するためだとご存じのはずです。光と闇、両属性持ちなのは、そのために与えられたチート、『勇者』みたいなものだと考えて貰えませんか?」
「ほう?」
厳つい顔に、意地の悪そうな笑みが浮かぶ。
「ハーフエルフの転生者で勇者、か。ますます里で嫌われそうじゃの。
だが、そこまで言うならお主を見極めてやろう。一応、ロジーナの顔も立てんとのぅ。」
そう言って、積み上げた魔道具の山から、何かを取り出す鬼ジジイ。
それは、
「スコップ?」
まさか、これが勇者武器とかだったりするの??




