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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第四章 村人Aになったった
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第61話 1年生になったった




 元冒険者のエルフ・アルベルトと、普人族ヒューム女性の剣士・シフを相手に、里の外れで実技訓練を行っていたところ。

 俺の白狼・ブランカに乗って現れたのは、アル・シフ夫妻が、目に入れても痛くないほど可愛がっている娘、アイシャ。

 彼女が迎えに来たのを潮に、俺たちは訓練を切り上げてアルの家へ向かうことにした。



「ぶらんかっ、しゅっぱぁぁつっ!」

「ばぅっ!」



 アイシャの掛け声に従って、ヒタヒタと滑るように走り出すブランカ。

 体長5mにも達する白狼・ブランカの巨躯きょくに、4人で乗合って帰宅の途に着く。


 拾った時は手の平サイズだったダイアーウルフの仔が、もう成獣どころか、並外れた大きさの巨狼になってしまった。

 太くがっしりした脚、大人の背丈より高い位置にある頭、子供なら一呑みにできそうな大顎、ゾロリと覗く太くて鋭い牙、それでいて知性を感じさせる優しげな瞳に、感情を豊かに表すフサフサの尻尾。

 どうやら、俺の気功モフモフマッサージが成長を促進したらしく、通常個体の倍近い大きさになってしまったのだ。


 俺たち4人を載せても全く負担では無いらしく、白狼の力強くしなやかな体躯は、絶妙のバランスで軽快にひた走る。

 特に、幼いアイシャを振り落とさないよう気を使っているらしく、上下動を起こさない走り方で、乗り心地は最高だ。



「見て、にーさま! アイシャ、ぶらんかの乗り方、うまくなったでしょ?」

「ああ、そうだね。もう1人で乗れるみたいだし、大したもんだよ。」



 席順は、先頭がブランカの首玉にしがみつくアイシャ、その後ろからブランカの長い獣毛を握り込んで、アイシャを抱え込むように俺、その後ろには杖を抱えてまたがっているアル、その背後からアルを抱きしめるようにシフ。

 後2、3人は乗れそうなスペースがある。


 里の決まりに従って、魔獣使テイマーいが刻み込んだ隷属紋はお腹の辺りにあるが、何も制約を掛けていないし、強制力も無い。

 俺たちの騎獣となってくれているのは、ブランカ自身の意思によるものだ。


 当初は俺以外の命令を聞かず、他人を載せようとはしなかったブランカだが、アル一家を俺の家族――自分の仲間と認識したらしく、載せてくれるようになった。

 最近では、アイシャのことを自分より年少の仲間として、庇護の対象と決めたらしい。



 5歳になるアイシャは、俺にとって妹のような存在だ。

 俺と同じく、中途半端に長くて尖った耳、つまりハーフエルフである。


 前世の俺・アイザルトには、娘というべきカゲミツが居たが。

 卵から孵化する時こそ付ききりで魔力を注ぎ込む必要があったものの、孵化後は時々角に魔力を送り込んでやったくらい。

 それも人化できるようになるまでのほんの一時期で、神竜人である彼女は全く手の掛からない子だった。


 逆に、前々世の日本人・相澤あいざわ広人ひろとには姉しか居なかったが、幼少時は俺が付いて回ってうっとぉしがられていたものだ。


 今は、アイシャが俺の行く先々に付いてくる。


 ついこの間、よちよち歩きが出来るようになったと思ったら、いつの間にか走り回るようになっていた。

 俺のマネをして一緒に站椿たんとうという気功鍛錬の立ちポーズをしたり、ランニング中の俺を白狼・ブランカの背に乗って追ってくる。

 アルの家で無属性補助魔法の授業中に『絵本読んで』と膝に乗ってくることもあるし、今日のように里の外れで実技訓練をしていると、危ないから来るなと言っても、終わり頃を見計らってブランカに乗って迎えに来るのだ。


 『にーさま、にーさま』と付いて回られると、正直、ちょっとわずらわしく感じることもあるけど、ぶっちゃけ可愛い。

 俺にロリコンの趣味は無いが、小さい子が無邪気に懐いてくれるのを見れば、自然と顔が綻んでしまう。

 カゲミツは、生まれた直後こそスリスリして甘えてくれたが、四六時中追い回すようなことはせず、こんな風にベッタリでは無かったので新鮮だ。



「にーさま、にゅーがく、ってなぁに?」

「あぁ、里の幼年学校で、属性魔法を教えて貰えるようになるんだよ。」



 エルフの里が運営する学校。

 そこでは、精霊魔法や属性魔法など、エルフを強者たらしめている魔法スキルの教育が行われる。

 分別の付かない子供に、危険な攻撃魔法を含む属性魔法を教えることは出来ない、という理由で、里で暮らす限り、各家庭での魔法教育は制限されているのだ。

 本来なら9歳にならなければ入学が許されないのだが、エルフの里の執行部構成員グリューネワルトであり、俺の養母となったロジーナの尽力で、6歳の俺は特別に入学を認められた。

 日本人だった頃なら、とっくに小学校に通ってる年齢なのだが、エルフたちは就学年齢が遅い。

 長寿なエルフは、人間よりゆったりと成長するのだろうか。


 とにかく、念願かなって、ようやく攻撃魔法を修得できる。



「じゃぁ、にーさまは、もうウチに来ないの?」



 白狼の首にしがみついた幼女が、振り返って、不安気な瞳で俺の顔を覗き込んでくる。

 超長寿・高齢・少子化社会のエルフの里では、ただでさえ子供が少なく遊び相手が少ないというのに、ハーフということで同世代の子供たちと遊んで貰えない彼女。

 必然的に、俺と一緒に居ることが多かったのだ。



「そんなことは無いよ。まぁ、授業受けなきゃだから、今までみたいに毎日入り浸ったりはしないけど。」

「そんなのやだ、アイシャはにーさまと一緒がいい! アイシャもにゅうがくするっ!!」



 補助魔法や格闘術の授業、それに、いつも御馳走になる俺の分の食費。

 連日となれば結構な負担になるはずなのに、ロジーナが謝礼を支払うと言っても、頑として受け取らなかったアル・シフ夫妻。

 代わりに、畑仕事の手伝いやアイシャの面倒を俺が見ることで話が付き、この5年間というもの、日中はほぼ毎日のようにアルの家に入り浸っていた。


 実際、忙しくて帰宅することの少ないロジーナの屋敷で、余所余所しい使用人たちに囲まれているよりも、ロゴス隧道帰還組の顔見知りが多い開拓集落の方が、俺にとって居心地良かったせいもある。



「アイシャはジョシュのことが本当に大好きだな。俺とシフの娘だから、将来は絶対美人になるし、いい嫁さんになるぞ? どうだ、秘宝探しなんてほっぽらかして、この里でずっと暮らしたらいいじゃないか。」



 見た目は10代後半くらいの金髪美少年なエルフが、とんでもないこと言い出した。



「うん、アイシャ、にーさまのおよめさんになるっ!」

「良かったわね、ジョシュ。両親公認の許嫁いいなずけよ。」

「アルもシフも、気が早いですよ。だいたい、俺は転生者で、中身は大人(20+6=通算26歳)ですよ? アイシャは俺にとって妹ですし。それに、俺は……」



 どのみち、魔神のアイザルトが転生してくる時には、今のジョシュは必ず死ぬ運命なのだ。

 寿命まで生きることは無く、この人生で出会った人達とは、早々と別れなければならないことが決まっている。


 カゲミツが邪神となって世界を孵す未来――『邪神プログラム』の発動を回避するため、魔神の俺が死ぬ時と場所に、魔神の魂を保ったまま転生できる肉体うつわを準備しなければならない。

 そのための、通過点に過ぎないのだ、この人生は。


 ……そう思わなければ、やっていられない。



「そういえば、未来の嫁さんが居るんだったか。今からでも遅くない、ウチのアイシャに乗り換えないか?」



 アルタミラ――闇神竜ダークバハムートの人化した、美しい褐色肌に銀髪の女性――の姿を脳裡に思い浮かべる。

 今の彼女は『アイザルト』だった俺にまだ出会ってないし、今の俺『ジョシュ』のことなど何も知らないけれど。



「いやぁ、凄くおっかない嫁なんで、そんなことしたら世界が滅びるかもしれませんよ?」

「……それは凄いね。」

「……ジョシュ、お相手は良く選んだ方がいいわよ。」

「アイシャがお嫁さんになるっ、にーさまに優しくするもん!」

「そっか、大きくなっても気が変わらなかったら、その時は頼むよ。」

「うん!!」



 アイシャの頭を撫でる俺に、夫婦の暖かい視線が注がれているのを感じる。


 このまま、エルフの里の村人Aとして生活を続けられたら、その間は幸せになれるかもしれない。


 だが、本当の意味で、彼らと家族になって生きていくことは出来ないし、してはいけないだろう。

 何故なら、アル一家も含め、里のエルフ達には、魂の器と為りうる秘宝からだを探す理由も、ジョシュが早死にする運命も、来るべき破滅の危機も、話すことは出来ないからだ。


 事情を知るロジーナや長老たちから止められていることもあるが、彼らの今の幸せな生活を、未来への不安で真っ黒に塗り潰す必要も無いからな。


 必要な力を蓄えたら、出来る限り早く、里を出るべきだろう。

 ……誰にも知られることなく、たった1人で。




――――――――――――――――――――




 アル一家を開拓小屋まで送り届け、ロジーナの屋敷に帰り着くと。


 いつもと違い、玄関の前に、数人のお出迎えがあった。

 使用人だけでなく、美貌揃いのエルフ達の中に、スポットライトが当たっているかのように一際目立つ美少女。



「元気にしてたかね、ジョシュ?」

養母かあさん、帰ってたんですか」



 珍しく帰宅していた養母のロジーナが、駆け寄って出迎えてくれた。

 『伏せ』の姿勢で待っていたブランカから降りるやいなや、俺をムギュッと胸に抱きしめてくれる。

 全体に細いのに、意外にも豊かな感触だ。



「キミを養子にしたのは失敗だったな。義弟にすれば『お姉ちゃん』と呼んで貰えたのに。」

「相変わらず、年甲斐も無く若々しいですね、『養母さん』。」

「17歳だからね。」

「5年前も17歳でしたよね?」

「そのうち追い越されるな。そうしたら、息子は止めて婿にでもなるかい?」

「大変光栄ですが、謹んで辞退させて戴きますよ。先約がありますから。」



 俺の披露した『美少女は永遠に17歳』という前世の怪しいヲタ知識を気に入ったらしく、実年齢不明なロジーナは、ずっと自称17歳だ。



「細かい事いうモノでは無いよ。我らエルフにとって、17歳も170歳も大差ないだろう。」

「170歳なんですか??」

「いや、そんなに若くは……。そんなことより、明日入学だろう? お祝いを用意しておいたんだ。」



 うん、二度と年齢は聞くまい。


 俺を抱っこしたまま屋敷に入り、ズンズン奥に進むロジーナ。

 やがて、板敷の居間のような場所――普段、ロジーナと俺が寛ぐ和室のようなリビングで、床のクッションに俺を下ろすと、



「ここで待っていたまえ。」



 隣の自室に入ってゴソゴソと何かを漁りだし、戻ってきた時には両手に皮袋や布きれを持っていた。



「これは?」



 茶卓のような木製のテーブルに、ざらざらと袋の中身をあける。

 現れたのは、薄く赤い色合いの、透明なガラス片のような結晶。



「袋の中身は、魔結晶さ。指輪やブレスレットに加工したり、ナイフの柄に埋め込んだりするといい。」



 『魔結晶』とは、魔力と相性の良い石英質の石に、魔素が浸透・濃縮して結晶化したモノで、魔力を流し込んで貯めておいたり、逆に魔力を取り出して使うことの出来る、言うなれば魔力のバッテリーみたいなモノだ。

 魔素の濃いダンジョン深層か地底で生成されるため、高LVの冒険者や採掘技術の高いドワーフ以外の者が入手することはほぼ不可能とされ、流通量は決して多くない。

 魔術師なら、MP切れ対策の予備魔力として必須のアイテムであるため、普人族社会では高値で取引されている。

 うまくすれば精霊契約の時の憑代になるし、そのままでも、魔力を貯めておくことができるので、エルフにとっても貴重な品だ。



「こんなに高価なモノを、こんなにたくさん……。いいんですか?」

「こう見えても、『炎熱王イフリートの花嫁』と異名を取ったAAダブルエーランク冒険者だったんだよ?

 息子のためなら、これくらいどうってことないさ。」



 なんでもない、という風に装っているが、結構な大枚をはたいたはずだ。



「こちらは、私が昔使っていたローブだよ。ボロく見えるかもしれないが、アラクネの糸やグリフォンの羽を織り込んだ逸品だ。今は丈が合わないだろうが、すぐに伸びるだろう? 今でも6歳児とは思えないカラダだからな。」



 確かに、我流の気功で鍛錬した体は、6歳にして、一般的なエルフの10歳児にも相当する体格。

 しかもムキムキなので、同年代のエルフに混じると、少女マンガキャラの中に世紀末救世主マンガのモブが混入してるような違和感を醸し出すほどだ。


 いや、そんなことより、



「今、これらの品々を俺に渡してくれるということは……」

「……察したようだね。」



 しゃがみ込んで、俺と同じ位置に目線を合わせ。



「お別れだよ、ジョシュ。私は、一足先に里を出る。」



 普段のクールさに似つかわしくない潤んだ瞳で、彼女は俺に別れを告げた。




――――――――――――――――――――




 覚悟はしていた。

 未来で会った時、ガイエナ諸王国の首都・アイギスの街で冒険者ギルドの長をしていたのだ。

 いずれ『ロジーナ』の名を封印し、名無しの『グリューネワルト』として普人族社会に旅立つことになるだろう、と。



「旧ルメール領統治の目途がついた帝国から、相互不可侵条約の打診がきた。里は提案を受け入れ、鎖国状態を解除するだろう。その前段階として、複数のグリューネワルトが普人族国家へ視察団として送られる。

 私はその一員として諜報活動をすることになるんだ。

 ……ジョシュが里に居る間に、帰って来ることは無いだろう。たぶん、これが今生の別れとなる。」

「……はい。」



 俺自身、遠からず皆に別れを告げる立場だというのに。

 誰かから別離の言葉を聞き、もう会えないと分かることが、こんなに寂しく辛いものだとは。


 いや、知っていたはずだ。

 母・マリエルや、父・ガッシュを喪ったジョシュなら。



「……済まない。私がジョシュのためにしてあげられることは、もうこれだけしかないんだ。キミの後見人として、母として、ずっと見守ると誓ったのに。」

「いえ、今まで良くして貰って、ありがとうございました。」



 胸に渦巻く感情を、うまく表現する言葉が見つからない。


 俺は見た目通りの6歳児じゃないんだ。

 転生者で、中身は26歳の大人の男なんだ。

 幼児の身体が、激しい感情に胸を切り刻まれるような痛みを覚えても、この思いを外に向かって表すことなど、出来ようはずもない。



「嘘つき、と怒ってくれていいんだよ。寂しい、と泣き喚いたっていい。行かないで、と我儘を言って欲しい。キミは、……私の息子なんだから。」

「ぅぐぁぁぁぁ」



 気が付いた時には、ロジーナの胸に飛び込んでいた。


 泣き喚きながら、ぽくぽくと彼女の肩や胸を叩き、涙でグシャグシャになった顔を擦り付ける。

 理屈も道理もなく、ただひたすら、激情に突き動かされるまま、感情を叩きつけた。

 大人の男じゃない。かんしゃくを起こした幼児そのもの。

 我ながら最低で、みっともない、ぶざまな姿。


 そんな俺の体を、細くしなやかな腕が、優しく包み込んだ。



「ぅ、ぐ、ロジーナ……」



 歪んだ視界の中で、俺を抱きしめる耳の長い金髪美少女は、確かに母の顔をしていた。




――――――――――――――――――――




「初めて素顔を見せてくれた気がするよ。ジョシュは寂しがり屋のくせに、強情でかっこ付け屋だからな。」

「ぅう、今は何も反論できない……」



 恥ずかしさで顔を上げられない。

 こんな情けない場面、出来れば見られたくなかったんですが。


 ただ、この醜態が、感情をコントロール出来ない6歳児の身体のせいだとは思わない。

 相澤広人として死んでから、初めて自分のために泣くことが出来て、今、憑き物が落ちたようにスッキリした気分なのだ。


 これはきっと、未熟な自分の心――孤独に耐えられない弱さや、不注意で命を落としたことで誰にも向けられない怒り、自己憐憫から誰かに甘えたいという欲求――を、ロジーナが否定することなく受け止めてくれたからだ。

 認めたくなかった自分の恥かしい感情を曝け出し、ロジーナがそれを認めてくれたことで、俺自身、抑圧されていた感情の存在を認めることが出来た。

 弱さを認めても、恥辱に塗れることなく、等身大の自分として客観的に受け入れられれば、いずれ乗り越えることも出来るようになるはずだ。



「心に壁を作って、弱さを隠して強がっていても、本当に強くはなれないよ。

 キミの背負っている運命は特別に重いものかもしれないが、それを1人で背負う必要はないんだ。

 自分の手に余る時は、誰かに助けを求めるといい。

 本当なら、私がその誰かになりたかったんだが……」

「心配かけましたね、養母さん。もう大丈夫、とは言えないけど、1人で抱え込まないようにしますよ。」



 マリエルが死んでぼっちになった時、俺を庇護してくれたロジーナ。

 彼女がどれだけ俺を支えてくれていたのか。俺がどれだけ彼女に甘えていたのか。

 俺は1人じゃなかった。今改めて、それが良く分かった。


 ちょっとばかり鍛錬したと言っても、1人で出来ることなんて、たかが知れてるしな。


 とは言うものの、誰に相談すればいいのやら。



「明日からジョシュの通う学校の校長は、私の恩師だった人だ。長老の1人でもあり、キミの事情も知っている。『息子を頼みます』とお願いしてあるから、何でも相談したまえ。」



 ロジーナの師匠か、きっと賢者っぽい感じだろうな。



「それと、私は冒険者時代の人脈を使って情報収集する予定だ。ジョシュが里を出た時には、各街の冒険者ギルドに寄ってみたまえ。私の知り合いが居れば、きっと便宜を図ってくれるだろう。」

「はい……。ありがとう、ロジーナ。貴女あなたのことは、もう1人の本当の母だと思ってます。転生しても、決して忘れません。」

「そうか。『お姉ちゃん』だと思ってくれたら、なお良いんだが。」



 そんな台無しなことを言いながら、クールな美貌に笑みを浮かべる長耳金髪美少女。

 ……もう、お姉ちゃんでもいいです。




――――――――――――――――――――




 ロジーナは、その日のうちに、慌ただしく出立した。



「ロジーナ、未来のアイザルトに会ったら、よろしく言っておいてください!」

「そのアイザルトのせいで、私の息子ジョシュが死ぬんだろう? 同一人物と分かっていても、複雑な気分だよ。まぁ、協力は惜しまないつもりだがね。

 もちろん、今のジョシュのために、私なりに打てる手は打っておく。……頑張るんだよ、我が最愛の息子! 必ずや、目的を果たして見せたまえ!」



 夕暮れの中、ロゴス隧道の入り口、地竜門へと向かうエルフの一団。

 大っぴらな出発ではないため、見送りは少人数。

 付いて行けるのは、里の出入り口までだ。


 まるで物語に登場するお姫様のように、美しく誇り高い俺のもう1人の母。

 その姿を目に焼き付けようと、夕日に輝く彼女の金髪が見えなくなるまで見送った。




――――――――――――――――――――




 翌日。


 里の中心部に近い、共同備蓄倉庫や図書館、議会や執行部の建物が並ぶ一画。

 俺が初めて訪れたのは、日本で言えば田舎の分校のような、こじんまりとした木造の、しかし明らかに学校施設と分かる、独特の雰囲気の建物。


 講堂のようなその場所で、一堂に会したエルフの少年少女、その数は100名も居るだろうか。

 それも、新入生だけでなく、最上級生まで含めて、だ。


 里の人口がどれだけあるか知らないが、とんでもない超少子化社会だな。



「諸君らの入学を歓迎する。魔法を修める者は、もはやただの子供ではない。力を手にする者は、社会の一員として、己の力を律することを学ばねばならない……」



 新入生の7名に向かって訓示を垂れる男性は、エルフにしては珍しく、屈強な体格で、しかもエルフにしては大変珍しく、ちょっとハゲている。


 教師役と思しき数人の成人エルフ男女の中にあって、一際異彩を放つその人物が、どうやら校長らしい。

 ロジーナの恩師で、信用できる人物という話だったが……何だか、予想と違う。

 森の老賢者みたいなのを想像してたら、軍隊の教官みたいなのが出てきたし。



「……家庭での甘えた気持ちは捨て、集団行動の中で自律心を養うように。諸君らが、立派なエルフの精霊使いとなってくれることを願う。以上だ、解散!」



 校長がきびきびと立ち去ると、途端に雰囲気が変わる。


 緊張している新入生を、品定めするようにジロジロ眺める上級生たち。

 しかも、最上級生の中に、見たことある連中が居る――ブランカと一緒に居た時に、絡んできた悪ガキどもだ!


 これから、この学校の寄宿舎で共同生活を送ることになってるんだが。

 ……先行き不安だな。




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