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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第四章 村人Aになったった
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第54話 亡命者になったった




 『ロゴス山脈』の麓の関所には、ルメール共和国から脱出するエルフたちの、長蛇の列が出来ていた。


 ルメール共和国から排斥されたエルフの難民たちが、ロゴス山脈を越えて『エルフの里』へ帰還しようとしているのだ。


 フィーロ家の馬車で関所まで送られた俺たちは、『最愛の妻、マリエルへ』『愛する息子、ジョシュ・フィーロへ』という銘と家紋の刻まれたミスリルの短剣1本ずつと、貨幣の詰まった皮袋1つに出国関係の書類を押し付けられて、馬車から放り出された。



「あなた……」



 ポートフォリアの方向を見つめながら、俺を胸にかき抱き、夫であるガッシュを案じる母・マリエル。


 その時の俺は、彼女を少しでも慰めようと、赤ん坊らしい無垢な笑顔のつもりを浮かべながら、キャッキャと声を上げ続けることしか出来なかった。




――――――――――――――――――――




 ロゴス山脈は、大地の神竜『ヨルムンガンド』の縄張りである。


 その峰は8千m級の高峰が連なり、かつてのエベレストを連想させる。

 もっとも、これは隕石大量衝突による大規模な地殻変動によって隆起した新たな山脈であり、かつての地球上に該当する山脈は存在しない。


 オーストラリアからインドネシアにかけて、隆起した海底によって一つながりになった『エレモス大陸』。

 ロゴス山脈は、エレモス大陸北西部(元の地球ではカリマンタン島)に位置している。

 ロゴス山脈を越えれば、そこは『アレクラスト半島』(ユーラシア大陸から切り離されたマレー半島、および付近の海底が隆起した土地)だ。

 森と湖に恵まれた風光明媚な土地で、エルフ発祥の地とされる。


 かつて、エルフ達は殆ど里から出ることは無かった。


 稀に、里を飛び出したエルフがヒュームの目に留まり、その美しさ、寿命、魔法の才能などが持てはやされ、奴隷として高値で取引されることもあった。

 エルフの緩やかな共同体生活を知った人族国家が、その政治的空白を支配せんと軍を差し向けたこともある。


 海路、艦隊を差し向けた国家があった。

 しかし、海から半島に上陸するためには、海流の激しいリューズ海峡を越えなければならず、また、大海蛇シーサーペント大烏賊クラーケンなど水棲巨大モンスターの生息域を突破しなければならない。

 無事に上陸した者は無かった。


 では、陸路、ロゴス山脈を踏破する道を選べばどうなるか。

 馬の通れない山中を、寒さと高山病に悩まされ、モンスターを倒しながら、数か月掛けて辿り着けたのは、一握りの猛者に限られた。

 軍隊を差し向けたものの、途中で補給が追い付かなくなり、大半は撤退する他無かった。

 運良くエルフの里に辿り着いた者も、ほぼ遭難者状態であり、魔法の達者揃いのエルフ相手に、とても戦闘を仕掛けられる状態では無く、そのまま捕虜扱いを経て、帰る手段がないまま定住した。


 こうして、長年に渡り、エルフとヒューム社会は没交渉であった。

 しかし、近年になり、エルフ側からの一方通行ではあるが、交流の道が開かれた。


 ロゴス山脈に、エルフとその同行者しか通れない『近道』が出来たのだ。


 それが、神竜ヨルムンガンドの巣でもある『ロゴス隧道ずいどう』だ。


 後にエルフの里で学んだ歴史によれば、ヨルムンガンドがロゴス山脈に棲みついたのは『人魔大戦』の後のことで、それほど昔のことではない。


 ヨルムンガンドは、人魔大戦の主戦場であった『ローグ大陸』(かつての南極大陸)に棲みついていた。

 それが、人魔大戦で共闘したエルフ達を気に入ったものか、エルフと盟約を結び、エルフの聖地を守る天然の要塞『ロゴス山脈』を、自らの根城と定めたのだとか。


 盟約に従い、エルフの『精霊魔法』による呼びかけに応え、ヨルムンガンドは隧道1Fに現れる。


 隧道トンネル内には、ヨルムンガンドの眷属である地系統の竜族を始め、さまざまなモンスターが跳梁跋扈ちょうりょうばっこしているのだが、地の神竜に怯えたモンスターが地下へ逃げ込んでいる間だけ、隧道の通行が可能となる。


 エルフの『呼びかけ』以外の方法で、並みの冒険者PTが突破するのは不可能だ。


 かといって、大軍を投入すれば、縄張りを荒らされたヨルムンガンドの怒りに触れ、人族が数百人いようと千人いようと、日の当たらない地底で挽肉となって生涯を終えることになる。



 結論。


 エルフの里に攻め入るバカは居ない。




――――――――――――――――――――




 煩雑な手続きを済ませ、関所を通ってすぐの野営地で、エルフ難民たちは最初の集会を行った。


 年長者を中心に、PT編成を行う。


 まず、年長者、男たちが数人ずつのPTを組み、まだルメールを出国していない後続を待つグループと、隧道突入組を先導するグループに別れた。


 次に、性別、年齢の近い者達が集まり、5人から8人くらいのPTを組む。

 マリエル(と俺)は、エルフ女性2人、エルフ男性1人、ヒューム女性1人、ドワーフ女性1人と同じPTを組んだ。


 各々、自己紹介を始める。


 エルフ女性は、2人とも10代後半くらいの少女のような外見。

 エルフ女性の1人は、魔法学校で魔法実技の教師をしていた。

 もう1人は、薬草店の雇われ店長だった。

 あと、見た目の特徴といえば、……2人とも、マリエルほど平らな胸では無い。

 格差はどこにでもあるのだ。


 エルフ男性とヒューム女性は夫婦だった。

 冒険者をしていて知り合い、意気投合したという。

 男女逆だけど、ウチと同じだな。

 しかし、少年にしか見えない男エルフと中年に差し掛かろうというヒューム女性が並ぶと、親子のように見えてしまうのが何とも。

 これがショタってやつか。


 里に家族が居るというドワーフ女性は、口数こそ少ないものの、始終ニコニコして穏やかそうな人物だ。

 鍛冶屋である夫の鍛えた刀剣類を、ルメール国内のお得意さんに届けた帰りだという。

 通りかかるエルフに帰り道を同行させて貰おうと、関所のある街で働きながら待っていたところ、今回のエルフ排斥騒動に出くわしたらしい。


 道中、彼らとは上手くやっていきたいものだ。

 まぁ、俺はマリエルに抱っこされてるだけなんだけど。




――――――――――――――――――――




「心配しないで。いつか、前みたいに交流できる日が来るわ。そうしたら、旦那さんの所に帰れるじゃない。」

「……ありがとうございます。」



 人族女性の慰めに、言葉少なに礼を言うマリエル。

 その横で、ドワーフ女性もうんうん頷いている。


 だが、マリエルの顔は晴れない。


 エルフの里への援軍要請を断られ、トルメク民主国との同盟にも失敗し。

 ルメール共和国単独では、帝国相手に勝ち目が無いのは明らかだ。

 

 正騎士団に入団したガッシュは、果たして生き延びることが出来るのだろうか。


(せめて、国内に残った優秀な魔法戦士であるエルフたちを説得し、義勇兵にしてくれれば、夫の傍で戦うことも出来たのに。)


 マリエルはそう思うのだが、現在は『エルフに裏切られた』という感情論で国中がエルフ排斥に動いている。

 もう少し脱出が遅れれば、民衆からリンチされる可能性すらあったのだ。


 夫であるガッシュのことが気になりつつも、ルメールに残ることは出来ない。


(あなた、どうか、生き延びて)


 暗い予感に怯えながら、何者かに祈らずには居られないマリエル。


 やがて、出発の号令と共に、マリエルはわずかな荷物を背負い、赤子ジョシュを抱きかかえて立ち上がった。




――――――――――――――――――――




 関所から、徒歩で3日ほどの行程。

 ある山の山腹に、巨大な洞窟が口を開けている。


 これが、ロゴス隧道の入り口、『地竜門』だ。


 先着していたエルフたちが、入り口を半円状に囲み、地にひれ伏し額づいて、『地神ガンダエル』と『地の神竜ヨルムンガンド』を讃える歌を、声を合わせて歌っている。

 やがて、合唱と共に、周囲の魔力が揺らぎだす。


 エルフ達の歌声に共鳴し、『精霊』たちが歌い始めたのだ。


 今、エルフの歌声と共鳴した精霊たちの囁き、魔力の共鳴が、近隣の山々を産め尽くし、ついには地底――念話では到底届かない地下深く――まで届こうとしていた。




――――――――――――――――――――




 この世界における『精霊』。


 それは、魔法によって消費されることも、魔結晶として凝り固まることもなく、大気中を漂っていた魔素が、何らかの思念――動物・植物の残留思念から死霊に至るまで――を吸収して凝り固まり、無意識的自我を持つようになったモノだ。

(レイスやファントムなど、非実体系アンデッドの正体も精霊だと言われている)


 エルフは、他の人型種族に比べ、魔力に敏感である。

 元の地球人類から、そのような方向に特化・進化した種族なのだ。

 あの長い耳は魔力を感じ取るセンサーであり、他種人族では捉えられないようなかすかな存在――精霊を感じ取ることが出来る。

 同時に、精霊を認識できるエルフだけが、精霊に呼びかけ、使役することが出来る。

 通常の属性魔法とは異なる、エルフだけが行使できる魔法、それが『精霊魔法』なのだ。


 うとうとしていた俺が目を覚ますと、エルフ語の意味不明な歌を、マリエルも一緒に口ずさんでいた。


 家庭におけるガッシュとの会話では、普人族公用語しか使っていなかったので、エルフ語を聞くのはこれが初めてだ。

 ちょっと疎外感を感じるな。


 無声音、とでもいうのだろうか?

 囁くような声で、独特の抑揚をつけて延々と続くお経のような歌。

 或いは、歌のようなお経なのかもしれない。


 やがて、ハーフエルフである俺にも、精霊たちのざわめきが歌となって聞こえてきた。

 同時に、空中に、薄ぼんやりとした無数の光の玉が見えてくる。


 野生の精霊?の姿だ。


 契約した精霊は契約者のイメージに従った姿を取るのだが、自然界では不定形な光の玉でしかない。

 もちろん、精霊を肉眼で捉えることはできないので、エルフの長い耳で捉えた精霊の囁きが、視覚情報に変換されたモノらしい。


 魔素が溜まっている場所でなければ、精霊は存在しない。

 必然的に、魔法を使って魔素を消費する知性体――人族の多い場所では、精霊が生まれることもない。

 この地竜門のような人里離れた山奥でなければ、野生の精霊を見ることは無いだろう。



 視界を埋め尽くす光の玉に目を奪われているうちに、遠くから地鳴りのような音が響いてくる。

 それと前後して、付近から、モンスターを含め、あらゆる鳥獣が逃げ去って行く。


 地竜門から、体長4mくらいの赤角羆レッドホーングリズリーから、多数の吸血コウモリ、はては体長10mはあろうかという甲羅百足センチビートまで飛び出してきたが、全てエルフたちに目もくれず、必死に逃げて行った。

 近付いてくる圧倒的な強者から逃げるので精一杯、ということだろう。


 ロゴス山脈の王、地の神竜ヨルムンガンドが、エルフと精霊たちの合唱にばれて姿を顕わそうとしているのだ。




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