第49話 霊魂になったった
トルメク国第三王女を蘇生した結果、桁違いの俺の聖魔法を見た王族たちは、俺を異世界から来たチート持ちの『聖者』と見定め、自分達の勢力に取り込もうと、俺に政略結婚を薦めてきた。
半ば強引に言いくるめられようとしていた俺を見かねて、アルタミラは、『闇の神竜』の正体を顕わし、自分の力を誇示して王族達をビビらせようとしてくれたのだが。
アイギスの住人を恐怖のどんぞこに突き落とし、騎士団を潰走させたまでは良かった。
だが、勇者アガタの召喚した現代兵器を破壊するついでに、街を破壊してしまうことに。
どうみても巨大怪獣だ。
さらに、この場に一番来て欲しくない、おっかない相手が登場。
< どういうつもりだお前達、我との盟約を反故にする気か! >
怒り心頭の、輝ける白銀の巨竜、『光の神竜・バハムート』イクシオル。
……どうしてこうなった。
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< 何よ? ワタシは殺る気無かったのに、アイツが突っかかってきてんのよ!
文句あるならアイツを止めなさいよ!! >
< イクス、待ってくれ! 街を破壊する気はなかったんだ。勇者アガタが…… >
< 言い訳は見苦しいぞ、アイザルトよ。
街を破壊するお前達の所業、見過ごすわけには行かん。
我が裁きの稲妻を喰らうがいい! >
< よせ、話を聞いてくれ!? >
雷を放とうと、大きく開かれたバハムートの咢。
光神教の司教として人族社会に溶け込んでいるから、アルタミラよりはイクスの方が人族社会の常識があるだろう、と期待していたのだが、やはりドラゴンは脳筋だった。
バハムートの光属性範囲攻撃『稲妻』――初めてイクスと対峙した時、天が裂けたかと思うほどの轟音と共に、広範囲に降り注いだ無数の雷。
探知画面には、その範囲に掛かる輝点が無数にある。
避難の済んでいない住民たち、それに、転移石で脱出しようとしている王族と、その護衛についた愛理。
ここであの無数の稲妻を辺り一面に落とされたら、カゲミツの張った障壁――聖属性以外の魔法を遮断する『聖域』――の外にいる者がどうなるか?
みな、黒焦げになって死ぬだろう。
獣人の集落で蘇生出来なかった死体のように、もはや魂の器となりえない消炭のような屍を晒すことになるのだ。
そんなこと、絶対に……
「やらせないっ!」
天狗の翼に魔力を込め、一気に加速した俺は、今まさに稲妻を放とうとするバハムートの咢へ飛び込んだ!
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< アイザルトっ、何する気なのっ!? >
砲弾のように加速した俺の体が、雷を帯びたバハムートの口の前に。
「――人化、解除っ!」
司祭の外套を収納する手間も惜しみ、衣服を突き破って一気に巨大化する俺の体。
< なにっ!? >
そのままの勢いで、頭突きをかます。
衝撃で、空中で頭を大きく仰け反らせる白い巨竜。
< ぐふっ、馬鹿な! 何のつもりだ? >
もちろんダメージは与えられない。
相手はアルタミラ同様、元の防御力が高い上に『物理ダメージ半減』の耐性がある。
だが、俺の狙いはバハムートを倒すことではなく、ライトニングを撃たせないことだ。
そのまま、バハムートの頭や首に手を掛け、振り落とされないように胴体に足を絡めてしがみつく。
そして、雷を放つ口を塞ぐべく、鋭い牙の生えた咢を、俺の左肩へ押し付けた。
「ゴボォォォォ? < 放せ、キサマ何を考えている? > 」
「こうすれば、ライトニングを撃てないだろ? それよりも、戦闘をやめて、話を聞いて……」
< 愚かな。我の稲妻は吐息ではない。口を塞いでも無意味だ! >
バハムートの咢の隙間が、ビカリ、と輝いた瞬間。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ビリビリと全身を駆け回る耐えがたい激痛と共に、意思を無視して体がガクガクとのたくる。
熱さとも冷たさとも感じられる嫌らしい熱が、全身を灼いていき、焦げ臭いニオイが鼻をつく。
眼球の水分が蒸発して水晶体が白濁し、何も見えなくなる。
意識が、遠のく。
「 グアォォォォォンッ!? < アイザルトぉぉっ!? > 」
ズルリ、とバハムートの体からずり落ちていく俺が最後に耳にしたのは、アルタミラの悲痛な叫びだった。
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「……相澤くん、キミ、結構無謀な人だよね~?」
気が付けば、薄明りに満たされた空間に立っていた。
床はふわふわとして頼りなく、周りの景色も、焦点が合わないようではっきり見えない。
声のした方に意識を集中すると、目の前でもやもやした物が集まって塊になり、そこから眩い光が溢れだしてきた。
思わず両手をかざして光を遮る。
やがて、眩しい光がおさまり、薄目を開けた俺の前には。
「受付」とかかれたプレートを載せたスチール製の事務机、その向うに、濃紺のスーツを着て背中から真っ白な翼を生やした……「天狗」がいた。
「あなたは、『風神・ティターンダエル』……」
元の日本で、自転車通学中に交通事故で死んだ俺を、この世界に転生させた人物、いや、『神』だ。
ということは、
「……俺、もしかして死んだんですか?」
「うん、そぉですよ~」
「え、でも、あれくらいのことで……? いくら耐性のない光属性って言っても、以前、空中戦で喰らった時には、すぐ回復できたのに!」
信じられなかった。
ステータスの体力値・精神力値から、いつの間にか『自分が死ぬことなんてありえない』、と思い込んでいたのだ。
「あの時と今回じゃ、喰らった量と時間が違います。
どれだけ頑丈だろうと、生物を構成する細胞の大半が焼けたら、死ぬでしょ、普通に。」
「そんな、困りますよ、アルタミラとカゲミツを残して死ぬなんて!
ファンタジー世界でしょ、あなた神様でしょ、何とかして下さい!!」
「ここに来た人は、みんなそう言うんですよねぇ~。
キミを転生させる時に、もう特典使っちゃったんだから、そうそう特別扱いはできませんよぉ~?」
「でも、アルタミラとイクスの闘いが始まれば、あの街は壊滅するんです! 俺が止めに行かなきゃ!
それに、亜空間に収納してた核ミサイル、俺が死んだら爆発するんじゃ?」
「まぁ、そうなるよねぇ。
それだけじゃありません。
光と闇の神竜が争いあって相討ち、それぞれに加担する者たちの最終戦争で人族は滅ぶ。
さらには、愛する『おとーさん』を喪って絶望した『神子』――キミがカゲミツと名付けた子だよ――は滅びを選択し、邪神となって世界を閉じる。
でも仕方ないんじゃない? キミが選択した行動の結果だよ。」
「そんな、俺のせいで、異世界が、滅ぶ?」
剣と魔法のファンタジー世界で、第二の人生を謳歌しようと思っていただけなのに。
いつの間に、『セカイ系』の主人公になってたんだ、俺は?
「異世界?
ボクが説明したこと、スッポリ忘れちゃってるみたいだねぇ。
この世界は、かつてキミが生きていた時間から見て遥か未来だけど、同じ世界、同じ惑星。
――ここは、『地球』だよ。」
今回ちょっと短めでしたが、今月中に次話を投稿する予定です。