第43話 ムコになったった
イゾから譲り受けた勇者武器の回転式拳銃『6連発』から放った魔力弾によって、死者を出してしまった俺。
そのことに罪悪感を覚え、光神教団の『剣の巫女』である愛理にくっついて現場に潜り込み、有無を言わさず聖魔法で死者を蘇生したところ。
「聖者さまに蘇生して戴いた我が娘、第三王女アリスを、どうか、娶ってやってくださらんでしょうか?」
「聖者さま、わたくし、身も心も御身に捧げます!」
……どうしてこうなった?
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聖魔法の使い手は、単なる魔法使いではなく、『聖者・聖女』と呼ばれる。
この世界で魔法を使える者自体は珍しくない。
自分の属性に応じた魔法であれば、少しの努力で習得できるのだ。
しかし、大多数の人々の属性は、地水火風の4属性のうちのどれか、というのが一般的で、上位属性である光や闇の属性を持つ者は少ない。
エルフのうち、光属性を持つ者が『ハイエルフ』と呼ばれ敬われるのも、それが理由だ。
さらに聖属性の者は存在しない(その例外がカゲミツ)ので、聖魔法の使い手などほとんど居ない。
ごく稀に長年の信仰によって高位の神官が授かるか、異世界から召喚された『聖者・聖女』が持っていたりする、いわゆるレア魔法である。
そして、聖魔法が使えるだけでも希少な人材なのに、単独で蘇生まで行えるほどの遣い手ともなれば、その利用価値は計り知れないのだ。
……そんな訳で、俺は王女をエサにヘッドハンティングされている真っ最中だった。
「ささっ、立ち話もなんですから、私どもの控えの間へお越しください。
誠心誠意をもって、謝礼の内容を決めさせていただきます。」
王様にしては如才のないヒゲのおっさん。
細身で背の高い、40くらい?の中年。
良く見れば整った顔立ちをしているのに、髪と同じ金色のちょびヒゲが似合ってない。
日本人の感覚からすると、ヒゲを剃った方がイケメンだと思う。
そして、娘である王女。
蘇生中は必死で気が付かなかったが、血に汚れていても、王女の名に恥じない気品と、愛らしい顔立ち。
輝くようなプラチナブロンドに、透き通るような白い肌、鮮やかな翠色の瞳。
美形と言っていいだろう。
おとぎ話なら、『お姫様を助けて結婚し、末永く幸せに暮らしましたとさ』って、めでたしめでたし、のはずなんだが。
王女の顔から視線を下に下ろすと……
薄い胸、細い手足、華奢な体つき、そして、低い背丈。
「あの、王女さまには、まだ早いんじゃないかと……」
「 「 は?? 」 」
本気で意味が分からない、という感じで聞き返す王族の父娘。
まぁ、分かって貰えるようにお断りしないとね。
一言で言うと、
「すいません。俺、ロリコンじゃないんで、お断りします。」
どう見ても10歳以上には見えない『幼女』。
……どれだけ美形でも、俺の守備範囲外です。
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「聖者さまは、勇者さまと同じ『異世界人』ではないのですか?
アリスは今年10歳、今が食べ頃、もとい適齢期なのでは??」
「ぇっ!?」
なにソレ、転移者や転生者の情報とかオープンなの?
っていうか、『異世界人なのにロリコンじゃないの?』って聞かれた気がするのは気のせいか??
「こちらの世界では、そーゆーことは共通認識になってるんですか??」
「時折、神のごとき桁外れの『力』を持つ若者たちが、この世界に現れます。
武力に秀でる者は『勇者』、癒しの力を持つ者は『聖女』と呼ばれていますが、実は、彼らは、神のお導きで異世界から召喚された者である、と聞き及んでおります。」
「俺たちの正体――異世界人については、誰でも知ってることだと?」
「各国の上層部と一部の貴族、聖職者、各ギルドの長たちですかね、知っているのは。」
「そうなんですか……」
説明ありがとう、ヒゲのおっさん。
「仰る通り、私は異世界から来ました。
アイザルトと申します、お見知りおきを。
この世界の常識や礼儀作法に疎いので、無礼の段はご容赦下さい。
ところで、あなたはこの世界の王族でいらっしゃるんですよね?」
「あぁ、申し遅れました。私は『トルメク国』国王、ジョージⅠ世です。
王族と言っても、私が初代ですし、元はトルメク地方の商業ギルド長だったのですよ。
『諸王国統一戦争』――まぁ弱小国家間の合併・併合なんですが――において、商業ギルドの雇った傭兵部隊が活躍しましてね。
その功績で諸王の1人に紛れ込んだ、といったところですかな。
国王とは名ばかりで、根は商人のままなんですよ、はははっ。」
トルメク国は、ガイエナ諸王国に4つある国家のうちの一つだが、諸王国の版図の北部を占め、東西を『商業都市国家連合ギリーク』と『神聖ノトス帝国』、二つの大国に挟まれている。
商業ギルドの一支部長が王になった、ということは、東に隣り合う大国・『ギリーク』の後ろ盾があった、と考えていいだろう。
各ギルドは政治的中立を建前としているものの、経済的にギリークと無縁では居られない。
特に、商業ギルドや職人ギルドは(冒険者ギルド長のグリューネに聞いた話によれば)ギリークの傘下にあるといっても過言では無いのだ。
トルメク国は、金の流れを通してギリークの影響下にあると見ていい。
ギリークにとっても、帝国との直接対決を避けつつ経済的利益を増やすには、緩衝地帯となるガイエナ諸王国に影響力を持っていた方が良い、といったところか。
「それにしても、その……異世界人である私に、ずいぶんフレンドリーですね?」
王族の割に腰が低く、王や貴族といった身分を鼻に掛けるところが無いな、この人。
先ほど愛理とグリューネにくっ付いて会いに行った、『上級騎士のなんたら家の長男』の方がよっぽど傲慢な態度だった。
自分で商人だと言うだけあって、ジョージ氏は雰囲気も武張ったところがなく社交的だ。
「えぇ、聖者さまにアリスを――娘を救って戴いたこと、1人の父親として心より感謝しておりますので。」
下心はあるのだろうけど、娘の蘇生を感謝している気持ちに嘘は無さそうだし、何より選民意識に凝り固まったような貴族より好感が持てる。
婿になる気はないが、友好的な関係を築いておいても良い気がしてきた。
「それに、我が国には元勇者であった『ポゴーダ男爵』の領地がありますし、現役の勇者である『火槍の勇者』さまも入り浸って……いえ、よくお立ち寄り下さって、異世界の話などを伺っておるものですから。」
げっ。
イゾは良いとして、他の勇者もよく来るのか。
やはり、ヒゲの王国に婿入りはできないな。
いやいや、それ以前に、俺には妻も娘も居るのだ。
王女が幼女でなく美少女だったとしても、婿入りなんかできない、はず。
「え~、それで、我が娘のことに話を戻しますが、何がお気に召さないのでしょうか?
政略結婚ならこれくらいの歳での結婚も珍しくありませんよ?」
「聖者さま、わたくし、そんなに魅力ありませんか……」
話がそこに戻ったか。
そんな、美幼女に泣きそうな表情されたり、『ウチの娘のどこが気に入らないんだ?』みたいな言い方されたりしても。
「何より、異世界の成人男性は、幼い女性をこよなく愛すると伺っておりますのに。」
それは誤解だ!
「我々の世界には、『Yesロリータ、Noタッチ。』という言葉があります。
幼女とは見守り愛でるものであって、決して手を出してはならない、という変態紳士の心得です。そして、私もまた、変態紳士の1人なのですっ!」(キリッ
「(キリッ じゃないでしょ!? そんなことしてる暇ないわよっ、早く逃げないと!!」
いきなり腕を掴まれた。
何かと思えば、聖職者の厳かな仮面をひっぺがし、愛理が慌てまくっている。
「俺、何かやらかした? っていうか、やらかしたのバレた??」
「スキルの探知画面出してっ! ヤバい奴が、『縣』が来るのよっ!!」
言われて探知画面を2Dで出すと、凄い勢いで接近する赤い輝点!
「アガタ殿ですかな? それならば、先程の話にもでた『火槍の勇者』さまです。
アリスの件で、王宮に備え付けの長距離念話用魔道具で国元に連絡をしましたので、入り浸っていた勇者さまにも伝わって、駆け付けて下さったのでしょう。
アリスの無事な姿を見れば、きっと喜んで下さるはずです。あれでアリスに求婚さえしなければ、理想的な……」
「申し訳ありませんトルメク王、急ぎます故、これにて! 行くわよ相澤くん、翼出して、飛んで逃げ……コホン、退出するのよ! カゲミツちゃんもいらっしゃい!」
小国とはいえ、王の言葉を遮って挨拶もそこそこに退出するなんて、不敬罪とか言われかねないレベルだ。
勇者の人物評は気になるが、愛理の慌て方を見ると、マジでヤバいらしい。
のんびりしちゃあいられない!
「巫女殿も聖者様も、そのようにお急ぎになられずとも。是非、勇者様も交えて歓談致しましょう。」
名前も知らない他国の王が執成すように発言するが、俺も愛理も相手する余裕が無い。
アイテムスロットから天狗グッズ3点セットを取り出し、装着!
そして顕れる、無駄に神々しいエフェクト――純白の『天狗の翼』。
「おぉっ! この御姿は、風神の御使い?」
「風の聖者さま……」
周りを囲む王族や随行の者達から、ざわざわと声が洩れる。
何この羞恥コスプレイ。
天井の穴からさっさと退出しよう。
カゲミツと愛理を抱き寄せ、飛翔を開始しようとした、その時。
どぉぉぉんっ
重い金属製の大扉が、爆発したように吹き飛ばされた!
「ア・リ・スぅぅぅぅぅッ!!」
雄叫び?と共に現れた背の高い人物は、迷彩服にヘルメットを被り、手に着剣した89式小銃を構えた……自衛官???
しかも、迷彩服の胸を張り裂かんばかりに押し上げる2つのスイカ。
これがアリスに求婚する『勇者アガタ』……って女じゃん!?
次話投稿は、できたら今月中に。