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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第三章 異世界冒険者になったった
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第35話 ガンマニアになったった



 街道に横たわる、毛むくじゃらの怪物の死体。


 熊のような体形で、牛ぐらいの大きさがある、豚のような顔つきの狼?のようなモンスターだ。

 心眼で鑑定したそれは、<猪狼熊ヴォーグ>。

 猪なのか狼なのか熊なのか、はっきりしろ。


 ほんの数秒で倒したその数は、30体以上ありそうだ。



 そして、ほとんど一発で怪物を仕留めたイゾの拳銃。


 その武器を見てマウザーが発した言葉。



黒鉄くろがねの勇者、か。」



 頬をポリポリと掻くイゾ。



「俺っちが勇者やってたのは、10年も前の話だよ。

 今は辺境の貧乏領主さ。」



 照れているのか、と思いきや、遠い目で寂しげな横顔をする中年。

 これで腹が出てなかったら、ちょっとかっこ良かったかもしれない。



「失礼しました。

 あの時救われた者の一人として、一言お礼を申し上げたかったのです。」



 頭を下げて、その場を後にするマウザー。

 怪我をした冒険者の様子を見に行くようだ。


 ファリーネもそちらに向かったので、俺の聖魔法は出番ないな。


 じっと見ている俺の視線に気づいたのか、イゾが弁解するように言う。



「魔王を倒してこの世界に残る選択をした時、勇者じゃなくなったんだよ。

 今の俺っちは、正真正銘、ただの貧乏男爵さ。」



「この世界に残った、ということは、元の世界に戻るチャンスがあったんですか?」



「ああ。

 異世界転移した勇者が魔王を倒すと、ゲートが現れる。

 そのゲートに吸い込まれると、『狭間の世界』へ行くんだ。」



 転生した俺やファリーネには関係ない話だが、転移した愛理なら戻れる可能性があるのか。



「本当は、そこから元の世界へ転送されるはずなんだけどな。

 転移した時にも会った、天狗の面を被った男に言われたんだよ。

 『望むなら、この世界に残ってもいい』ってな。」



 天狗の面を被った男。


 俺や愛理をこの世界に送り込んだ、自称『風神ティターンダエル』だ。

 『自分はただの公務員ですよー』とかほざいてたが、異世界人をこの世界に集めて、何の得があるんだろうか?

 目的はノルマか? 昇給か? 昇進なのか? 



「なんでも、この世界に存在できる勇者の数には上限があるらしくてな。

 新しい勇者を任命するために、勇者の称号を返納するのがこの世界に残る条件だったのさ。

 勇者の称号を失って、HP・MPやステータス値はごっそり減っちまった。

 LVが残ってたのが救いだけどな。」



「……後悔、してるんですか? この世界に残った事を。」



「いや。

 惚れた女も、共に戦った仲間も、俺っちを頼る連中も、この世界にいる。

 俺っちの居場所は、ここなんだ。


 ……だが、未練が無いわけじゃない。

 両親は俺っちが生きてることを知らねぇ。

 長男だってぇのに、老後の面倒も見てやれねぇ。


 年くってきたらよぉ、そんなことが気になってくんのさ。」



 両親かぁ。

 うちは姉ちゃんが婿とって家業継いでくれてるから、親の老後は大丈夫だろう。たぶん。



「おっと、戻れねぇにーちゃんに、こんな話は酷だったな。

 すまねぇ、忘れてくれ。」



 そうだな、話題を変えよう



「ところで、6連発シックス・シューターって?」



「ああ。

 回転式拳銃リボルヴァーのことをそう呼ぶのさ。

 チート武器に拳銃を選んだ勇者が他に居なかったせいで、俺っちの代名詞みたいになっちまってよ。」



「じゃあ、その拳銃が勇者のチート武器なんですか?」



 確かに、モンスターをあっという間に倒していた。

 範囲攻撃魔法なら襲われた冒険者を巻き込んでいただろうし、単体攻撃魔法ならあれほどの連射速度は望めないだろう。


 でも、魔王に通用するような武器には見えない。



「こいつはレプリカさ。

 風の基本魔法ウインドを回転弾倉に圧縮して、『エクスプロージョン』の呪弾を飛ばしてるんだ。

 本物は、ファリーネのアイテム・インベントリに預けてある。

 今の俺っちのMPじゃ、一発撃つのが精一杯なんでな。」



「MP、ってことは、魔力を使う武器?」



「おう。

 にーちゃんも勇者流剣術使えんだろ?

 魔力の刃を飛ばす『光刃シャイニング・ブレイド』って技があるんだが、それを拳銃から発射してると思えばいい。

 にーちゃんくらいMPがあれば、マシンガンみたいに連射できるぜ。」



 なにそれ! ちょっと欲しいかも。


 人化した状態では、ムラクモを振り回すことはおろか、持ち上げることすらできないだろう。

 腰にナイフをぶら下げているが、これはナタ兼包丁の生活用品だし。

 神殿騎士から奪った剣がアイテム欄にあるけど、剣道の経験もない俺が、普通の剣を振り回してもね。

 つまり、人化解除しない限り、俺は戦力外なのだ。


 その点、拳銃なら照準を付けて引き金を引くだけだから、俺でも扱えそうな気がする。



「おっ?

 興味あんのか、にーちゃん。

 へっへっへ。

 やっぱ男の子はそうでなくっちゃな。」



 俺の目の輝きを見て、嬉しそうなイゾ。

 完全に、コレクションを自慢するマニアの表情である。

 戻ってきたファリーネに、「オリジナル出してくれ」と声を掛けた時。



「アイザルトっ!!」


「だんな様っ!!」



 アルタミラと獣人メイドが同時に警告の声を上げた。




――――――――――――――――――――――――――――




 2D探知画面で見ると、数百もの赤い輝点が、まとまった動きを始めている。

 その中心に居るのが、群れのリーダーか? 判別は付かない。

 2D画面では、大きさや種類まで分からないからな。



「アルタミラ、何だかわかる?」



「この臭い。

 たぶん、上位種ね。

 もしかすると、魔王の候補者かもよ?」



 魔王!

 そんな設定もあったな。……すっかり忘れてた。



「まじぃな。

 こいつらが街を襲えば、リーダーが魔王に進化するかもしれねぇ。」



 既に、前方の街道に現れた集団だけでなく、森の中にも赤い輝点が押し寄せている。

 背後に回り込まれれば、完全に包囲されてしまうだろう。


 俺達だけなら、アルタミラが竜化してブレスで一掃、で話は簡単だが。


 マウザー達に、俺達の正体を見られたくない。


 しかし、想定外の敵の数。

 人化したままではマウザー達を見殺しにしてしまう。


(どうしよう?)


 俺がおたおたしている間に、イゾが指示を出す。



「冒険者達は、馬車から馬を放して、分乗して後方へ応援を呼びに行け!

ここは俺達で何とかする!」



 馬は馬車1台につき1頭で、6頭。

 マウザー達が4人に、逃げてきたPTが5人。


 馬車の速度では逃げ切れないが、1頭に二人乗りすれば、十分逃げられる。



「しかし、それでは、貴方達が!」



 マウザー達が踏み止まろうとする。



「おめぇらが居たところで足手まといだ!

 ここは、元勇者と聖者に任せて、早く逃げろ!」



 なんか死亡フラグみたいだな。


 俺達に目礼して走り去るマウザー達。



「これで、にーちゃん達も本気出せるだろ?」



「ええ、助かりました!

 でも、イゾさん達は?

 ファリーネさんだって居るのに。」



「俺達のこたぁ心配いらねぇよ。」



 ファリーネが差し出した竹竿のようなものを地面に6本突き刺して、そこに縄を張り巡らせ直径3mほどの結界を作ると、何やら唱え始めるイゾ。



「あめつちにしろしめすおんかみのかごにてめいず、このちにじゃあくのおしいるべからず――『禁!!』


 これで、敵さんはここに入れねぇ。

 ここから後ろへ抜けようとする雑魚はまかせろ。

 おめぇらは、ボス相手に暴れてきな!」



 これが禁呪か。

 弾丸に呪いを込めたり、結界を張ったり、陰陽師系のスキルなのかな?

 イゾには似合ってないけど。



「分かりました!

 ベアトリスさん、イゾさんの目隠しお願いします。」



「なに、……まさかの着替えシーンだとぉ?

 待て、ベアトリス、ちょっとだけ、むぎゅぅ……。」



 気持ちは分かるが、見せません。


 胸にイゾの頭を挟んで掌で目隠しするベアトリスに手を振ると、俺とアルタミラとカゲミツの衣服を亜空間に収納。



「アルタミラ、カゲミツ、頼む!」



 一斉に人化解除すると、空に舞うアルタミラとカゲミツ。


 そして、巨大化した俺は全裸で大地に着地する。



「じょわっ、へあっ!」



 この解放感!

 なんだろう、だんだんフ○チンが癖になってきたような……。



「にーちゃん、いいから、さっさと行けや!」



 おっと、ポージングしてる場合じゃなかった。



「了解っす!」



 ベアトリスの胸に挟まれたままファリーネの目隠しをしているイゾに手を振ると、俺はムラクモを召喚して握りしめ、群れの中心部へと走り出した。




――――――――――――――――――――――――――――




 モンスターの種類は、さっきイゾが倒したヴォーグだけでなく、群れの中心付近には豚頭の人型や、鬼っぽい奴らが整然と隊列を組んでいる。

 LVはバラバラだが、高くても50代だ。

 LV40前後のマウザー達にはきついかもしれないが、LV200前後のイゾ達なら問題無い。



「グガアアアアアアァァァァッ!!」



 上空でアルタミラが一声吠えると、一斉に恐慌に陥り、バラバラに逃げ出すモンスター達。


 カゲミツが低空でアイスブレスを吐いている。


 探知画面で、みるみる減っていく赤い輝点。

 ダークブレスの毒素やファイアブレスの森林火災で、イゾ達を巻き込むことがないように配慮してくれたんだろう。

 バハムート同様ライトニングも吐けるんだけど、俺やアルタミラに光属性の耐性が無いから遠慮してるんだな。


 俺が何も仕事しないうちに、どんどん減っていくモンスター達。


 カゲミツのLV上げのつもりなのか、アルタミラは直接の手出しはしないつもりのようだ。


 まったく遮る者もなく、ボスのもとへと進んでいく俺。




 そして、群れの中心に居たのは……。








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