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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第一章 異世界転生者になったった
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第4話 ハイエナになったった

     


 いきなり「卵のお母さんをやれ」とか言われても、正直、意味が分りません。



「すいません、無理です。御断りします。」



< なんですってぇ~! >



 ぐぬぬ、と表情を歪めるアルタミラ。

 美人の怒った顔って怖い。



「いや、俺、猫とカブトムシしか飼ったことないんで。

 ドラゴンの卵を孵化させるとか、どうしたらいいか――、って話聞いて下さいよ!」



 怒りの表情のまま、俺に向かって何かをブツブツと呟くアルタミラ。



< ……万物の根源、万能なる魔素よ、我が願いを聞き届け、彼の者の心を捉え、我が意のままに縛りたまえ!

 ――魅了ッ! >



 アルタミラから、薄っすらと光る靄のようなものが溢れだし、俺に向かって来た!



――――――――――――――――――――――――――――――




 光の靄は、蛇が獲物を締め付けるように、俺の全身に巻き付いている。


< フフフ、これで我に逆らうことはできまい。

 さぁ、我が卵を孵すため、汝の持てる魔力全てを注ぐがよい! >



「すいません、無理です。御断りします。」



 即答である。

 生憎と、俺には魅了などの状態異常を無効化するチートがあるのだ。



< あれぇ?

 アンタ、なんでワタシの魅了が効いてないわけ?

 ……そんなになってるのに?? >



 視線の向いた先、そこは、



「股間見んな!

 いえ、見ないで下さいお願いします。」



 これは童貞ゆえの若気の至り、ってか、アルタミラさん出現からずっとこう、ギンギンになっておりますが。

 手で隠しきれないソレを隠すため、亜空間から団扇を取出して股間にあてがう。


 アルタミラに目を向けると、器用に空中でがっくりとくず折れていた。



< むぅ、まずい、今の魔法で魔力を使い切ったか。

 このままではアストラル体を維持できぬ。

 ……我を崇める者ならば、当然我に魔力を捧げてくれような? >



 苦しげな表情を見せながら、チラっとこっち見たよ。

 また芝居っぽい口調に戻ってる、ってかキャラがブレまくりだ。

 そう言われたら、こう答えるしかない。



「だが断るッ!」



 本気で嫌な訳じゃなくて、一回言ってみたかっただけですが、何か。



< 何故じゃ!?

 それほど大量の魔素を体から撒き散らしながら、わずかばかり惜しむこともあるまい?

 先程は我に祈りを捧げ、魔力を分けてくれたではないか? >



 もしかして、さっき俺が合掌して祈ったせいで、アストラル体とやらを維持する魔力をあげちゃったってことなのか?


 俺も最近死んだばかりだが、そういえば死んだ直後に自分の体を上から見下ろしてたよな。

 アルタミラもそんな状態で居たところに、俺が魔力を分け与えたせいで、思念体として生者―つまり俺とコミュニケーションできるようになったのだろうか。


 なんてことを考えているうちに、アルタミラの姿が薄れ始めてきた!



< 無念……、ううん、諦められないわ!


 お願い! 

 ワタシの事はどうでもいいの、どうか、どうか卵を!

 ――ワタシの赤ちゃんを助けて!! >



 芝居じゃなく、本当にヤバそうだ。


 騒がしくて、上から目線で、俺を魔法で操ろうとしたのは迷惑だが、居なくなっていいとか本気で思った訳じゃない!



「分った、魔力あげるから、やり方教えて、今すぐ! 急いでっ!!」



――――――――――――――――――――――――――――――



 で、現在どうなっているかと申しますと、体育座りした俺の背後から、全裸の美女が抱き付いています。


 さすがに前から抱き付かれるのは、童貞には刺激が強すぎる。

 残念ながら実体じゃないので、何の感触もないけど。


 祈って送れる魔力は極僅からしく、体に直接触れている状態で送り込むのが効率良いんだそうだ。

 消える心配が無くなった後も抱きついているのは、アストラル体を維持するだけで少しずつ魔力を消費するので、いつでも魔力を補給できるように、ということらしい。


 まぁ、嬉しいからいいけど。


 しかし、これって客観的に見ると、死霊に取り憑かれてる系?

 ……深く考えるのよそう。


 正直、いきなり訳のわからない事を命令されたから反発してしまっただけで、あれ程の傷を負ってまで卵を守りきったアルタミラに対し、同情だけでなく、敬意の念を抱いている。


 それに、さっきまで感じていた孤独を癒された点は、ちょっと感謝もしている。

 卵を孵すために、俺に出来ることがあるなら協力してあげたい。


 とりあえず、俺に命令したり無断で魔法を掛けたりしない事を約束させた。



 アルタミラに魔力を送っているうちに、だんだん魔力の流れを実感できるようになってきた。


 しかし、俺のMPは天狗面の装備補正分しか無いはず。

 そんなんで「大量の魔素を体から撒き散らす」状態になるのか?

 それとも、魔人という種族は、魔力を撒き散らす存在なのだろうか。


 その辺り、アルタミラに聞いてみた。



< ん~?

 アンタ、鑑定スキルがあるの?


 それで、なに?


 自前のMPが無くてアイテムの補正分しかない??

 体力と精神のステータス値が無い!?


 それは変ねぇ。

 でも、そんなに気にすること無いわよ、たぶん。 >



 この世界の生物は、多かれ少なかれ、世界に充満する「魔素」を肉体に取り込んでいる。

 肉体に取り込まれた魔素は「魔力」に変換される。

 魔力になった時点で、肉体の持ち主の意思を受けて外部に影響を及ぼす行為、つまり魔法を行使することができる。

そして、魔力は肉体内に蓄えることができ、蓄えられた魔力の量が「MP」という値で表わされている。


 つまり、この世界の生物にはかならずMPがあるのだ。

 俺だけMPが無い、というのはおかしい。


 もっとも、魔力を行使してMPが減った場合には、休息を取ることで自然に魔素を取り込むことができ、MP上限まで魔力は回復する。

 特にドラゴンや魔人のような魔法を使える高位の魔物は、身近の環境中にある魔素を常時吸収して魔力を回復する特殊能力がある、というのが一般的らしい。


 魔素を取り込む器官は、角や触覚などが担うようだ。

 当然、ドラゴンの角も武器というだけでなく、魔素吸収機能を持っている。

 アルタミラのように肉体を離れてしまった場合は、角による魔力回復も自然回復もできなくなる訳だが。

 

 俺に生えてる2本の角も、同じ機能があるのだろう。


 そして、自然回復であれ、特殊能力による回復であれ、魔力の回復量は精神のステータス値の影響を受けるのだが……。


 「魔素を体から撒き散らす」のは、MP上限まで魔力が溜まった後も魔素吸収によって魔力が回復し続けた結果、MP上限を超えた分の魔力が体から漏れ出て、魔素に戻って拡散していく状態のことである。


 ということは、精神の値が低くとも、俺にはアルタミラが「大量」という程の魔力回復能力が備わっていることになるのだ。


 仮にMPが無いとしても、常に魔素を吸収しているのなら、ある程度の魔力は体内に循環しているらしい。


 つまり、俺の場合、大規模魔法に必要な分の魔力は溜められないが、探知スキルのような燃費のいい魔法は使い放題、ということだろう。

 


< アンタ弱そうだし、LVも低そうだし、どうせ大規模魔法なんかに縁無いわよ。

 MPのことは気にする必要無し。

 まぁ、体力・精神の値が低いと、物理・魔法攻撃への防御力も低くなるわね~。

 雑魚っぽいんだから、戦わずに逃げ回ってればいいんじゃない?


 そんなことより~、

 た・ま・ご! た・ま・ご! た・ま・ご! た・ま・…… >



「だーっ、わーった、わーった!


 わ・か・り・ま・し・た!


 やるよ、やってやるよ、やらせていただきますよ!」



 ちょっとイラッときたけど、なんだかんだで敬語になってしまうチキンな俺。


 卵を孵化させるやり方は、アルタミラに魔力をあげるのと同じで、直接触れて魔力を流し込めばいいようだ。


 背後霊のアルタミラをくっ付けたまま、卵の傍に移動し、体育座り再開。


 右手で卵の殻に触ると、硬くてスベスベしている。

 まるで岩に触ってるみたいだ。



「で、これってどのくらい魔力を送ればいいの?」



< ん~、アンタだったら1年くらいで孵るかもね~。 >



「実家に帰らせていただきますっ!!」



 いや、帰れないけど。



「やってられるかっつーの!

 卵が孵る前に俺が飢え死にするわ!」



< え~、だったら、ワタシの体をア・ゲ・ル♡

 食べてもいいのよ? >



「はぅっ、ヤバい変な御汁出ちゃう。

 つーか、食べていいの? 本当に?」



< 我が愛し子を救って貰うのじゃ、礼をするのは当然であろう。



「いや、そのちょっと偉そうな演技、無理しなくていいですよ?」



< え、そ、そう?

 会ったことある偉そうな奴のまねしてたんだけどね、似合わなかったかなぁ? >



「ええ、とっても。」



 竜の姿で言われたら恐れ入っていたかもだけど、人化した姿で軽い態度を見た後だと、もろに芝居くさい。


 ちょっとシュンとするアルタミラ。

 気の強そうな美女のこういう表情を見ると、かわいいなぁ、と思ってしまう。

 これがギャップ萌えってやつかな?


 そんな感じで会話しながらも、きっちりと卵に魔力を送り続けているあたり、俺ってお人好しなんだろうか。

 まぁ、魔力と肉を交換する取引、ってことでいいのかも。

 最初から無断で食べる気だったけどね!



「しばらくは肉を食べさせて貰いますけど、これ、1年も保たないでしょ?

 量的な意味じゃなくて、腐っちゃうんじゃないかと。」



 腐肉を漁るとか、ハイエナみたいなことはちょっと遠慮したい。



< アンタ、さっきアイテム出してたじゃない?

 亜空間に物を出し入れできるスキルがあるなら、ワタシの肉をしまっておけばいいのよ。

 亜空間では時間が経たないから、物が腐ることもないわ。 >



 なるほど、そういう使い方ができるのか。



「あとは、水、ですね。

 今、すんごい喉渇いてるんで。」



< そんなの、水の基本魔法のウォーターで出せばいいじゃない? >



「水魔法使えないッス。」



< じゃあ、ワタシに魔力寄越しなさいよ。

 水出してあげるから。 >



「アルタミラさん、すげえ、偉いッ、美人、女神様ッ!」



 水を出して貰えるなら、どんだけでもヨイショしてあげよう。

 といっても語彙が乏しいが。


 そう言えば、水を受ける容器が必要だな。

 天狗面が無くても魔力を出せることが分ったので、顔から外してこれを器にしよう。

 ちょっと鼻血で汚れてるけど。



< エヘヘ、やっとワタシの偉大さが分ったのね。

 それじゃ、出すわよ。

 ――万物の根源万能なる魔素よ、……なんだっけ忘れちゃったけど、ウォーター! >



「ちょ、適当だな、おぃ?」



 卵に送ってるのと同じくらいの魔力をアルタミラに送る。

 体からごく僅かに魔力が抜ける感じ。


 天狗面を両手で支え、水を待ちうける俺。

 そして、頭上に何かが集まってくる気配。



 ソレは、最初、直径3cmにも満たない水の球だった。


 が、集まり続ける何かの気配と共にみるみる膨れ上がっていく。


 直径1m、2m、3m、……5m過ぎたあたりで、全力でダッシュ!



「もう十分だから、止めて、魔法止めて!」



< 発動しちゃったら途中で止められないわよ。

 アンタ、どんだけ魔力寄越したのよ!? >



 アルタミラも俺の背中で慌て気味だ。


 まずいことに、水球は膨れ上がりながら俺に追随してくる!

 既に30m、いや、直径50mは超えたか?


 この場所に来るまでの道順を逆走しながら、丘を越えて走り続ける。


 だが、逃げ切ることは叶わず、頭上から、巨大な水の塊が滝となって雪崩れ落ちてきたのだ!





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