第28話 竜騎士になったった
大空を目まぐるしく飛び交う2頭の巨竜+子ドラゴン。
聖域の白い光球に包まれたアルタミラと、その背中にしがみついたカゲミツ。
その背後にぴたりとつけ、接近戦をしかけるバハムート。
ダークバハムートと神竜人がダークブレスを吐き、バハムートはその度に距離を取ってはまた突撃して爪や尻尾を振るう。
ブレスを吐いても、互いに高速で飛行しているためバハムートに当たる前に拡散し流れていき、ほとんどダメージを与えることができない。
一方のバハムートは、狙いをカゲミツに絞ったようだ。
カゲミツがバハムートの接近を知らせると、アルタミラはクルリと上下反転して背面飛行をし、四肢や尻尾で応戦する。
双方とも、相手に大きなダメージを与えられない。
このまま長期戦になると、角の無いアルタミラが不利だ。
ドラゴンは角で魔素を吸収し魔力を回復するのだが、アルタミラはその角を俺にくれたのだから。
ブレスも飛行も魔力を使っている以上、いずれジリ貧になる。
俺が背中に乗ると、アルタミラが旋回したりブレスを後方に吐いたりする時の邪魔になるが、それでもHP・MP回復要員として参加するべきだろうか。
とはいえ、俺が単独で攻撃したところで、大したダメージも与えられずに稲妻で黒コゲにされるだけで役に立たないしな。
迷ったが、アルタミラの背中に乗ってHP・MP回復しながら、カゲミツの盾になり、隙を見てムラクモで攻撃、という作戦に決めた。
アルタミラを追うバハムートのさらに背後から一気に加速して、追い抜きざまにムラクモで一薙ぎ。
「ギャァァァァッ!?」
バハムートの左翼の根元に斬りつけた。
相対速度が遅い上に片手斬りなので、あまり深い傷ではない。
ただ、ドラゴンの飛行は魔法で行っているとはいえ、旋回や滑空などで翼も使っている。
少しでも相手の機動力を下げられればラッキー、程度の一撃だ。
< この羽虫が、チョロチョロと! >
イラついたバハムートが雷撃しようと口を開いた時には、カゲミツの聖域の中に飛び込んでいた。
「アルタミラ、カゲミツ、ただいま。」
< あっさり撃ち落とされて、何やってんのよ?
べ、別に心配なんてしてないわよ!? >
< お帰りなさい、おとーさん! >
二人とも、まだまだ余裕たっぷりだ。
アルタミラの背中に乗せて貰い、カゲミツに覆いかぶさるようにして、バハムートにムラクモを向けて牽制する。
ここからは、念話のみで作戦会議といこう。
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【提案1】
・アルタミラとカゲミツの持つ、バハムートに無効化されない闇属性の攻撃手段のうち、最も威力が高いのはダークブレスである。
・しかし、高速で移動しながらの空中戦では、ブレスは効率が悪い。
⇒威力が低くても、闇属性の攻撃魔法を確実に当てていったらどうか。
【提案2】
・物理攻撃は、耐性によりダメージ半減されてしまう。
・勇者流剣術を参考に、ムラクモに魔力を通して斬れば、バハムートに無効化されない無属性の魔法攻撃になる可能性がある。
⇒3人分の重量と速度を生かしたアルタミラの突進力に、魔力を流したムラクモの斬撃を乗せれば、大きいダメージを与えられるのではないか。
< って感じなんだけど、どうかな? >
バハムートの爪や尻尾の一撃を、ムラクモで受けたり流したりしながら、俺の考えたことを提案してみたんだが。
< ん~、闇属性の攻撃魔法で威力が高いのは『シャドウフレア』なんだけど、座標指定なのよね。
空中戦で相手に当てるのは不可能だわ。
アイツの魔法抵抗力を考えると、他の魔法だとダメージは与えられないかもしれないし。
闇魔法での攻撃は有効とは思えないわ。 >
< カゲミツは闇魔法のLV低いので、……すいません。 >
< そ、そっか。
じゃあ、ムラクモに魔力を通して斬る、ってのはどう? >
< 勇者流剣術に目を付けたのは悪くないわね。
でも、武器に魔力を通すだけじゃ、魔力で強度の上がった武器による『物理攻撃』にしかならないわよ? >
まじっすか!?
前提になってた仮説崩壊、涙目ナウ。
< じゃあ、ダークブレス主体の持久戦で行くしかない、ってこと? >
< まぁ、ちょっと待ちなさいよ。
武器に魔力を通すだけじゃダメだけど、もう一段階進めて、『武器に魔力を纏わせる』ことができれば、魔力を使った攻撃になるわね。
無属性の魔法攻撃、って言い方が正しいかどうかは分らないけど。 >
『武器に魔力を纏わせる』、か。
< なにそれ、全然やり方分んないよ? >
< 実はワタシも良く知らないのよね。
ヨシーロは、勇者流剣術の基本だって言ってたけど。
とりあえず、武器に魔力を限界以上に流し込んで溢れさせてみたら? >
ヨシーロって、元ダンナの勇者か。
一体どんな人物だったのだろう。
いつか聞いてみたいような、聞きたくないような。
……おっと、今はそれどころじゃない。
ムラクモに魔力を流し込むに従い、明々と輝く刀身。
さっきは、これ以上は入りません、みたいな抵抗を感じたら止めていたのだが、今回はそれ以上に送り込んでみる。
輝きを増しながら、小刻みに振動する刀身。
(大丈夫か、壊れるんじゃないの、コレ?)
それでも魔力を送り続けているうちに。
ヴォォォンッ!
ス○ーウォーズのラ○トセイバーのような音と共に、輝く刀身は、光の刀へと姿を変えた!
良く見れば、今まで刀身の内側で輝いていた魔力が溢れだし、凝縮されたままで刀身の外側を覆っている。
< それよ、それ。 出来たじゃない! >
これが、『武器に魔力を纏わせる』状態か。
さっきまではムラクモを『右手で握って振り回している』感覚だったのだが、今はムラクモが『右手の延長』のように感じる。
握っている右手は新しい関節で、切っ先が指先になったような感じだ。
(これなら、……斬れる、ような気がする!)
バハムートが爪で斬りつけてきたので、棟ではなく刃で受け流すようにムラクモで受けると、
ズシャッ!
硬い鱗に覆われたバハムートの左前脚が、何の抵抗もなく斬り飛ばされた。
「グゴァァァァァッ!?」
噴き出した血が、霧となって後方へ流れ去る。
バハムートは、慌てて距離を開けようと上昇した。
「アルタミラ、追撃して!」
< まかせなさい! >
追う者と追われる者が逆転した。
急旋回したアルタミラがバハムートの真後ろに付け、俺がムラクモを振るう。
しかし、バハムートは巧みにムラクモの斬撃を避け、急上昇、急降下、急旋回と機動力を生かしてこちらを翻弄する。
――懸念した通り、やはりムラクモの斬撃が当たらない。
アレを試すしかないか。
< 提案3だ!
バハムートの飛行魔法に干渉する魔法を撃ってみる。
今から天狗の団扇でウインドぶっ放すから、体勢崩さないように気を付けて!
隙が出来たら、一気に突っ込んで! >
< 基本魔法で何する気?
あ、でもアイザルトの魔力量なら……、分ったわ! >
MPはほぼ満タンで、20万以上ある。
ムラクモに送り込む魔力量は、角のおかげで回復する量で充分補える。
次の一撃で決めるためにも、団扇に籠める魔力はケチらずに大盤振る舞いといこう。
前方を飛ぶバハムートに向けて、大体9割くらいの魔力を籠めて、左手の団扇を思いっきり振った!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
凄まじい突風に、吹き飛ばされてバランスを崩すバハムート。
追いかけるこちらも乱気流に突入しバランスを崩しかけるが、
< 今がチャンスだ! >
< 突っ込むわよ! >
体勢が崩れることを想定して備えていた俺達と、自分の飛行魔法が乱されるという想定外の事態に隙を見せたバハムートとの差が、斬撃のチャンスをもたらした。
団扇を収納し、この戦闘で初めてムラクモに両手を添える。
アルタミラが、バハムートの背後から下方前方へとすり抜けていく。
袈裟斬りや水平斬りでは刃筋を合わせづらいので、大上段に振りかぶって、真っ直ぐに振り抜いた。
――ザシュッ!
鍔元付近から物打ちまで、刃渡りを存分に利用してバハムートの巨体を切り裂く。
背後から右腰に斬り付け、そのまま背中から肩甲骨のあたりまで、ほとんど抵抗も無く一刀両断!
「< ゲグガァァァァァァァッ!(バカなっ!) >」
傷口から内臓をはみ出させ、血を撒き散らしながら墜落して行くバハムート。
「やったか!?」
ムラクモを収納し、成長痛に備える。
LVの高い相手を倒すと、一気にLVが上がって、体を引き裂かれるような痛みを覚えるのだ。
バハムートの巨体が大地に激突した瞬間、全身を激痛に包まれ、俺は意識を失った。
次話で2章終了します。
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