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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第二章 暗黒竜のひきこもり部屋の主になったった
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第25話 風の魔術師になったった



広範囲に渡って焼け焦げた街道の上空。


2頭のドラゴンが空中で睨みあう。


どちらも全長100m近い巨体、全身を硬い鱗に鎧われ、強大な力と膨大な耐久力(HP)、無尽蔵な魔力(MP)を誇る、この世界の神にも等しい最強の生物たち。


純白のバハムートが顎を開き、口から稲妻ライトニングを吐こうとした途端、漆黒のダークバハムートが頭から突っ込んだ!


黒竜ダークバハムートは、吐きだされた稲妻に全身を灼かれながらも、白竜バハムートの首に牙を突き立てる。


白竜は爪を振るって黒竜を引き剥がそうとするが、黒竜は両前脚の爪を白竜の背中の翼に突き立て、首から牙を離すと、吐息にのせて黒い毒霧ダークブレスを浴びせかけた。


双方とも、物理攻撃ダメージを半減する耐性持ちであるため、牙も爪も決定打にならない。

相手が耐性を持たない属性のスキルによる攻撃――電撃とブレスの応酬が繰り返されることとなった。


白竜の鱗が酸に犯されて黒く変色し、全身に毒が回って行く。


お返しとばかりに白竜の放った電撃が、黒竜の全身を焦がす。


2頭のドラゴンの能力はほぼ互角だが、スキルの特性上、わずかに白竜が有利だった。

白竜の稲妻ライトニングに比べ、黒竜のダークブレスは射程が短く、距離を取られれば拡散して威力も下がってしまう。

そのため、黒竜が互角の戦いをするためには、接近戦をするしかないのだ。


空中で目まぐるしく上下を入れ替え、相手を振り放そうとする白竜と、引き剥がされまいとしがみつく黒竜。


広範囲に亘って無数の雷が大地を焦がし、膨大な毒霧が死の空間を広げる。


その中心では、2頭のドラゴンの巨体が激しく空を舞い、押しのけられた空気は吹き荒れる暴風となって立ち枯れた樹木を薙ぎ払い、焼けた土砂を巻き上げる。


この暴風圏のなかに巻き込まれて、生きていられる者はいないだろう。


その様は、まるで神話に描かれる光と闇の最終戦争のようだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




潜伏しつつ、カゲミツの『聖域』をすり抜ける攻撃を放ってくる勇者。


厄介な相手だが、おおよその居場所の見当を付け、俺が盾になって近付き、カゲミツのブレスで焼き払う、という完璧な作戦を立てた。


しかし、俺の脳内では完璧だった作戦が実際にはうまく行かず、至近距離から見えない斬撃を受け、天狗面を弾き飛ばされて墜落したのだった。




 肩から森に突っ込み、何本かの樹木をなぎ倒しつつ地面に叩きつけられた俺。


 斬撃を受けた左手首と左太股からは激しく出血し、傷口の奥には白い骨が覗いている。

 慌ててヒールを掛けておいた。


 カゲミツの方は、途中で飛行魔法を使い、俺の傍に着地している。


 怪我は無いようだな。

 無事で良かった。


 しかし、チート防御力の俺の体をここまで切り裂くとは、何というチート攻撃力(切れ味)だ。

 矛と盾の争いは、完璧に盾の負けだった。


 ――勇者流剣術、恐るべし。



 弾き飛ばされた天狗面は、200mほど離れた大木の樹冠に引っ掛かっていた。

 俺の翼は自前の飛行能力ではなく、天狗3点セットのおまけエフェクトだから、こういう事態になると使えない。


 身長50m近い今の俺なら、天狗面までほんの数歩の距離だが、立ち上がった瞬間に狙い撃ちされるだろう。


 さっきの斬撃が来た方向に一応注意を向けてみるが、相変わらず探知画面に表示されない。


 敵は、一撃放ったらすぐにその場を移動して潜伏しているのだろう。

 ヒット&アウェイ、ゲリラ戦術って感じか?


 あの後斬撃が来ないのは、移動中なのか、それともこちらを目視しないと当てられないのか?


 この辺りの樹木は、15~25mくらいの高さのものが生い茂っている。


 敵が地面に居るのなら、倒れたままの俺としゃがんでいるカゲミツの姿は、一応樹木に隠されている状態のはず。


 相手にも何らかの探知スキルがあるだろうし、こちらの墜落地点は見当が付いているだろうから、斬撃を放つのに視界を邪魔されない場所を探して近付いてきている可能性が高い。


 俺は、カゲミツを呼び寄せると、どの方角から斬撃が来ても安全なよう、寝そべったままでカゲミツを抱き寄せ、両腕でガードしておく。



「俺が合図したら、指差した方向にファイアブレス吐いて。」


< わかりました! >



 森を焼き払うのは何だか気が咎めるが、向うで大量破壊兵器ズ(2頭のドラゴン)が激甚災害を引き起こしているので、今さらだよな?



 早く勇者を倒してアルタミラの加勢に向かいたい、という気持ちを抑え、じっと息を潜める。



 近くで斬撃の魔力の流れが生じていないか。


 3D画面に敵意が探知されないか。



 俺は集中しながら待ち続けた。


 やがて、寝そべっている俺の頭の方向に魔力の高まりを感じ、探知画面で確認すると、赤い輝点を確認した!


 ――シュバッ


 斬撃が飛来する!



「カゲミツ、あっちだ!」



 カゲミツが口をカッと限界まで開くと、ブワッと炎が吐き出される。


 アルタミラのファイアブレスに比べると、射程も範囲も炎の温度も遠く及ばないが、俺の顔のすぐ前を太い炎の柱がよぎり、熱さで目を開けていられない。


 敵の斬撃に備えて、カゲミツを抱きかかえたまま体を丸めて待つが、いつまで経っても被弾しなかった。



 ギィィッ、どさり。



 背後の物音に振り返ると、樹幹の途中でスッパリと斬られた大木が地面に崩れ落ちたところだった。


(斬撃が、逸れた、のか??)


 俺の首筋かカゲミツを狙ったコースだったはずなのに、上に逸れたようだ。


 ――これは、お互いに向き合って魔法を撃ち合った時に起こる現象と同じかも?


 放たれた魔法を構成する双方の魔力が、正面からぶつかって相殺し合ったり、お互いに弾き合って進路が逸れることがある。

 一部例外はあるにせよ、ドラゴンのブレスも、乱暴な言い方をすれば属性の籠った魔力を吐息に載せて吐き出すようなものなのだ。


 この推測が正しいなら、勇者流剣術の技は、無属性の魔法、いや、剣技を使った物理攻撃属性の魔法、ということなのだろう。


 カゲミツの聖域を透過できるから、正体不明の強力なスキルかと思って焦った。

 属性魔法ではないから遮断できないだけで、魔力が使われている以上はやっぱり魔法、と考えていいのではないか。


 それなら。



「レジスト・サークル!」



 聖魔法の、耐魔法抵抗力を上げる範囲結界だ。


 攻撃を遮断することは出来ないが、属性に関係なく魔法によるダメージをかなり減らすことができる。

 残念ながら、人や物などを対象とする魔法ではなく、ある座標を中心に球状に展開する魔法なので、サークルの外に出ると効果は無いが。


 この中に居れば、あの斬撃で即死する可能性は減ったはず。


 そして、魔法を逸らす方法も推測できた。


 さっきカゲミツの放ったファイアブレスも、敵の居る方向には届かなかっただろう。

 しかし、次は敵の斬撃を逸らして、こちらの攻撃だけ当てることができるはずだ。


 俺は、右手に握った天狗の団扇に目を落とす。



< 次は、俺が団扇を扇いだ後に、アイスブレス撃って! >



 俺の念話に、コクリと頷くカゲミツ。


 この団扇には、風の基本魔法ウインドを放つ機能が付いているのだ。


 死の大空洞で、浮遊魔法で浮いて団扇で風を起こし飛んでいた時には、大変お世話になっている。

 あの時は、惨劇を起こさないよう、そよそよと扇いだことしかなかった。


 今回は、しっかりと体を固定した状態で、少し多めに魔力を注いで扇いでやろう!




 集中して、付近で魔力の高まる瞬間を察知すべく、息を殺して気配を探る。


 いつの間に移動したのか、今度は背後だ!


 魔力の高まりを感じると同時に振り向いて、VR画面でも赤い輝点を探知した。

 ここから300mほど離れた木の陰から姿を現した勇者。


 遮蔽物もなく、カゲミツのブレスの射程内だ。


 ――シュバッ


 俺は膝立ちになると、敵の斬撃を迎え撃つべく、大きく団扇を振りかぶって全力で扇いだ!




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 ゴオォォォォォォォォッ!



 天狗の団扇が巻き起こした大風は、目の前の樹木を何本も根っこから引き抜き、大量の土砂を巻き上げながら、勇者にぶち当たった。


 勇者の斬撃魔法は、完全に打ち消してしまったようだ。


 勇者も風で飛ばされ、背後の木々に何度もぶつかりながら吹っ飛び、地面に落ちるころには土砂や折れた木の枝が降り注ぐ。



「あれ、勇者、生きてるかな?」



 カゲミツは、ブレスを吐くのも忘れて呆然としていた。



< 風の基本魔法でこんな攻撃ができるなんて、非常識です。 >



 出番が無かったことでちょっと膨れているカゲミツ。



(正直、やりすぎたかな。)



 何気に、さっきカゲミツの撃ったファイアブレスより森の被害が大きい気がする。

 俺の脚元から放射状に広がる、植生と表土を剥ぎ取られた荒地。


 立派に災害だ。



 おっと、そんなことより。



(……勇者に、止めを刺さないといけないよな、やっぱり。)



 武器と防具を奪って捕虜にしたとしても、どんなチート能力があるかも分らない相手では安心できないし。


 気が重いが、アルタミラとカゲミツのためだ。

 俺が手を汚すのを躊躇えば、二人が危険に晒される。


 俺は天狗面を回収して収納すると、カゲミツと一緒に勇者が半ば埋もれている場所へ向かった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 探知スキルを逃れて隠れる能力は、本人の意識が無ければ働かないらしく、さっきから探知画面の中に赤く敵性認識された勇者の姿を捉えているのだが。


 思ったよりも華奢な身体つき。


 亜麻色の長い髪。


 そして、十代半ば程に見える幼さの残る顔立ち。



「俺に、子供を殺せってのか?」



 黒髪ではないが、同じ地球から来た転移者・転生者の可能性もある少女を見降ろして、俺は途方に暮れていた。


 とりあえず、武器とめぼしい防具だけ剥ぎ取っておく。


 もちろん、鎧の下には手を付けませんよ?


(しかし、これ、どうしたらいいんだ、マジで。)


 迷っている俺に、カゲミツは何も言わない。

 頼んだら、俺の代わりに止めを刺してくれるだろうけど、それはしたくない。


(やらなきゃ。)


 手が震える。


 この手を振り降ろせば。

 いや、足で踏みつけるだけでいい。


 歯を喰いしばり、足を上げようとしたとき、パチリ、と少女の目が開き、俺と視線が合う。


 どうしよう、命乞いされたら、とてもじゃないが殺せない。



 少女の第一声は。



「あなた、その顔……、もしかして、相澤くん?」













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