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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第二章 暗黒竜のひきこもり部屋の主になったった
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第24話 壁の勇者になったった



 朝日を浴びながら上空をゆったりと舞う、純白のバハムート。


 最大級のジャンボジェットサイズの巨体が、俺達の頭上で滞空している。


 これだけでかいモノが頭上を飛んでいると、それだけですごい威圧感を感じるな。

 しかも、探知画面で確認するまでも無く、明確な敵意を放っているのだから、なおさらだ。



「アイザルト、アンタの心配事が一つ減ったわ。


 こいつがワタシとカゲミツを狙ってきた『敵』の一人よ。」



 アルタミラを殺した敵!


 彼女とほぼ同等の力を持つこの神竜バハムートなら、確かにそれも可能かもしれない。


 だが、



「どうして、ここにアルタミラが居ることが判ったんだ?」



「さぁ?

 でも、バレちゃったんだから、ドラゴンの力を隠す必要も無くなったわね!」



 そうか、俺が「ドラゴンの力を隠して」と頼んだから、人化したままで騎士達を……。

 ちゃんと、俺の言ったこと、気に留めててくれたんだな。


 いや……今は、そんなことよりも、目の前の敵に備えなければ。



 バハムートはグワッと口を開くと、こちらに向けて念話を放ってきた。



< 息災のようだな、アルタミラ。

 てっきり息絶えたものと思っておったが。 >



「どの口がそれを言うのかしら?


 前回は、アンタと勇者4人がかり、執拗にワタシの寝室まで押し入って嬲り殺してくれたわね。

 今度はアンタがくたばる番よ!」



< 盟約に縛られず、我が『死の大空洞』まで降りることができれば、完璧に止めを刺しておったものを。


 ……まぁ、よい。

 今日は、そなたに用があって参ったのではないのだ。 >



 ん?

 アルタミラに用が無いなら、何しに来たんだ?



< 聖属性を持つその『忌子』。

 テリトリーに近付いたのを、気付いて追ってきたのだ。


 ……よもや無事に孵っていようとはな。


 そやつをこちらに寄越すがいい。

 さすれば、そなたに手出しはせぬ。 >



 聖属性を持つ、っていうと、カゲミツのことだ!



 ……迂闊だった!


 俺達がアイギスまで往き来したお陰で、こいつを連れて来てしまったのか。


 しかし……カゲミツが忌子って、どういう意味だ!?


 俺は前に進み出て、カゲミツを庇うよう背中に隠す。



「カゲミツをどうする気だ?」



 ――あっさり無視されました。

 確かに俺、雑魚だけど、ちょっと凹むわ。



「この子は忌子なんかじゃない。

 ワタシと勇者ヨシーロが待ち望んだ命、この世界からワタシ達への贈り物だわ!

 アンタの好きになんてさせない!」



 アルタミラは一歩も退く気は無い。



< 母の愛は盲目、というわけか。


 だが、聖属性の者など、本来この世界にあってはならぬ者。

 その肉体は、聖神と邪神、どちらを降ろすこともできる『器』たりえるのだ。


 かつての悲劇を忘れたか? >



 かつての悲劇……。

 俺の知らない過去で、何が起きたんだ?


 カゲミツが、俺の背中にキュッとしがみつき、ふるふると、小刻みに震えている。

 落ち着かせようと手を握ってやると、ギュッと握り返してきた。



< 我とそなたの間に生れし者が、その身に邪神を降ろし、この世界を無に帰そうとした時の事だ。


 あの時、我らはこの世界の全ての力を結集し、邪神と化した我が子を『世界の臍』で討ち取った。 >



 ギリ、と歯を食いしばるアルタミラ。



< あれから、世界の臍は邪神の終焉の地として、高濃度の魔素溜りと化し、生命の育たぬ『死の大空洞』となった。


 そなたは、盟約により、邪神が復活せぬよう死の大空洞を監視する守護者となった。

 そして我は、二度と我が子の終焉の地に足を踏み入れぬとの盟約を結んだ。


 それがどうだ?


 この世界を守護する一翼であるそなたが、よもや再び『邪神の器』と成りうる者を世に送り出すとは。


 これは、責務の放棄、いや、世界に対する裏切りではないか! >




「あの時、もっと他にやり様があったはず!


 ワタシ達がしっかりあの子を守っていれば、あんな事にはならなかったわ!


 この子――カゲミツは、邪神なんかにさせやしない。

 絶対に守りきって見せる!」



< 世界を滅ぼす『邪神の器』となりうる者を放置することなどできぬのだ。

 邪魔をするなら、前回同様、そなたも排除するまで。 >



 おいおい、「なりうる」って可能性だけで、生存すら許されないのか?



「ちょっと待てよ!

 前回の聖属性持ちがそうなったからって、カゲミツが邪神になるとは限らないだろ?

 むしろ、聖神が宿る可能性だってあるんじゃないか?」



< もはや言葉は尽した。


 ――我は光の神竜バハムート。

 光神の意思を代行する者なり。

 秩序を守り、この世界をあるべき姿へと導くことが我の使命。


 災厄の芽、摘み取らせて貰うぞ! >



 俺の発言は安定のスル―かよ!



 バハムートが一際大きく顎を開くと、口の中に光が集まる!


 ブレスが来る!?



「カゲミツ、聖域サンクチュアリを!」




 俺が指示するまでもなく、即座にカゲミツの聖域が展開された。

 聖属性以外の全属性攻撃を遮断する結界だ。



 バハムートの顎から放たれた、無数の稲妻ライトニングが、辺り一面に炸裂する!


 光った、と思った瞬間、千の落雷。

 周囲一面に電撃が走り、轟音と共に大地を揺るがした。


 街道に散らばっていた騎士達の肉体など、黒こげになって、もはや地面と見分けも付かない。

 街道沿いの樹木も落雷でなぎ倒されていた。

 焦げた肉の臭いとオゾンの香が漂い、森のあちこちから火の手があがる。



 ――だが、聖域の中には被害は及ばなかった。


 光属性のドラゴンの固有スキルは、ブレスではなく電撃だった。


 俺もアルタミラも、光属性攻撃には耐性が無い。

 カゲミツが居なければどうなっていたことか。


 俺は、ほっと胸を撫で下ろした。

 正直ちょっとちびったが、腰が抜けなかっただけ良かったとしよう。


 一方、アルタミラは、すぐさま戦士の貌を取り戻した。



「アイザルト、周りに他の敵、居る?」



 しっかりしろ、俺!

 頭を振って自分の頬をはたき、気合いを入れる。


 前回は勇者が4人居たって話だった。

 もしチート勇者が何人も付いてきてるならヤバいことになる。


 探知スキルで周囲を探ったが、



「周囲に反応は無い!」



 アルタミラとバハムートの能力はほぼ互角。


 バハムートには闇属性攻撃の耐性が無い。

 アルタミラとは、お互いに天敵になる相手だ。


 1対1なら角で魔力回復できないアルタミラが不利かもしれないが、カゲミツの聖域と俺のヒールがあれば、圧倒的にこちらが優位だ!



「のこのこ1人で現れたのが運の尽きね、イクシオル!


 この前の借り、きっちり返してやるわっ!」



 好戦的な笑みを浮かべるアルタミラ。


 うわ、何か、俺ら悪役っぽいんですけど。


 しかし、アルタミラの言う通り、ラスボスが1人で現れたのはチャンスだ。


 3対1とか卑怯かもしれないが、アルタミラとカゲミツが、今後安心して暮らせるようになるためなら、俺だって戦ってやる!



「アイザルト、カゲミツ、二人とも、出し惜しみ無しで行くわよ!」



 アルタミラとカゲミツが、空中へと飛び上がる。



「 「  人化、解除!  」 」



 二人の周りに空間の裂け目が現れると同時に、その姿が揺らぎ、眩い光に包まれた。


 やがて、巨大なモノ達が光の中から形を取って現れる!


 一つは、黒い鱗に覆われた力強くも美しい、一頭の巨大なドラゴン。

 闇の神竜ダークバハムートのアルタミラ。


 もう一つは、黒い鱗に覆われた、背中に蝙蝠のような翼と尻尾の生えた銀髪の巨人の女。

 神竜人カゲミツ。


 二人は寄り添い、即座にカゲミツが聖域を展開する。



 そして俺は。


 ……ちょっと出遅れていた。



 天狗3点セットは、一度収納してから取出さないと、巨大化した俺のサイズに合わせてくれないのだ。

 3点セットと、ついでに服も収納してから人化を解除する。


 そして3点セットを装備して翼を呼び出し、二人の後を追おうとした瞬間。



 ――シュバッ!



 背後から、強力な魔力の迸りを感じとった俺は、後方を振り返る。

 一瞬だけ、探知画面に赤い輝点を感じ取ったが、すぐにロストした。


 魔力の流れが向かう先は――、



「カゲミツ、危ない!」



 無形の刃が、カゲミツの背中を抉る!



「< ふみゃぁぁぁぁ!? (きゃぁぁぁぁ!?) >」



 噴き出した大量の血が、空中で赤い霧と化す。


< カゲミツ!? > 

「まずい! ヒールっ!!」



 なんだ、今の一撃は?


 致命傷になってもおかしくない傷だったが、なんとかヒールが間に合ったようだ。


 俺とアルタミラは、カゲミツの体を隠すように、前後から挟んで敵と対峙する。


 アルタミラはバハムートと向き合い、俺は背後の見えざる敵へ体を向ける。



「『聖域』を展開しているのに、どうして魔法攻撃が通り抜けてきたんだ!?」


< あれは、属性魔法じゃありませんでした!

 カゲミツは、あんな攻撃を受けたことはありません。 >



 大空洞での訓練中、威力弱めの魔法でアルタミラと模擬戦してたもんな。



< アレは、勇者流剣術よ、たぶん。 >



 やはり勇者が来ていたのか!


 冒険者のマウザーが、『魔力の流れを剣技で誘導し、全身の力に乗せて打ち出す――剣魔一如の境地』とか説明してくれた厨二勇者剣術。


 普通に魔法でいいんじゃね?と思っていたが、まさかこんな強力な技だったとは!



「探知画面で確認できないんだ。

 さっき攻撃した一瞬だけ写ってたんだけど。」



< 『隠密』とか『潜伏』とか、ステルス系のスキル持ちよ、きっと。 >



 くそっ、バハムートの会話は、勇者が狙撃するポジションに着くまでの時間稼ぎだったのか!?



< ふん、一撃で仕留められなかったか。

 だが、いつまで守りきれるかな? >



 そう言うと、突っ込んでくるバハムートの巨体。


 カゲミツを挟んだままで避けることはできず、思わずバラバラに回避する俺達。


 そこへ、カゲミツを狙って飛来する見えない斬撃。



「カゲミツ、避けろ!」



 カゲミツの前に割って入る俺の左腕に、刃が食い込む!



「ぐあっ!?」


< おとーさん? >



 この世界に来てから一度も怪我をしなかった俺の体から、血が流れ出る。


 腕を切り落とされるほどではないが、骨まで達する傷だ。

 すぐにヒールを掛ける。


 しかし、チート防御力の俺にこれほどの深手を追わせるとは。


(――死の大空洞で見たアルタミラの切り傷はこれか!)


 惨たらしいアルタミラの遺体を思い出し、俺の中で怒りが膨れ上がる。



「アルタミラ、バハムートを抑えてくれ!

 俺とカゲミツで、勇者を倒す!」



< わかったわ。

アイザルト、頼んだわよ! >



 『寡兵を裂くのは悪手、多兵で各個撃破すべし』みたいな話を何かで読んだが、ここはカゲミツを守るのが最優先だ。


 聖域でライトニングを無効化できる以上、勇者の攻撃の方が脅威となる。

 先に勇者を倒すべきだ!


 アルタミラにバハムートを牽制してもらっている間に、俺が盾になってカゲミツに攻撃させよう。


「カゲミツ、俺の背中に貼り付いててくれ。

 敵に接近したらブレスで攻撃だ!」


< はい、おとーさん! >


 さっき、斬撃を発する時に敵の反応があった場所は、バハムートのライトニングの範囲から外れた森の中だ。


 焼け焦げていない森の辺りにおおよその見当を付け、そこに向かって飛ぶ俺とカゲミツ。


「この辺りか?」


 カゲミツにブレスの指示をしようとした瞬間。



 ――シュバッ!



 左下方からの斬撃。


 カゲミツの盾になっている俺が邪魔で、先に排除しようとしたのだろう。


 俺の首筋を狙った必殺の一撃!



 だが、魔力の流れを感じ取った俺は、空中で急制動を掛け、上方へ回避する。



 ――シュバッ、シュバッ!



 さらに追撃が2つ。


(避けきれない!)


 背中のカゲミツと首筋だけでも守ろうと、斬撃の来る正面を向き、両手を首筋に交差させて身構える。


 一つは俺の左太腿を切り裂き、もう一つは左手首をかすりながら、天狗面を弾いた!


「しまった!」


 ――天狗面が外れ、翼が消える。


 俺とカゲミツは、樹木をなぎ倒しながら、大地に叩きつけられた!







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