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異世界転生して○○になったった(仮)  作者: 太もやし
第二章 暗黒竜のひきこもり部屋の主になったった
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第15話 文明人になったった

 マウザーの率いる冒険者PTが、「暗黒竜の巣窟」にほど近い集落へ戻ってきた時、ちょっとした騒動が起きた。


 大柄なマウザーと長身のシグが、皮の敷物を纏って現れたのだ。

 どう見ても山賊か野伏せりである。


 異様な風体の4人組の姿が集落の入り口に現れた時、女子供は家に立てこもるか、野良仕事をしている男衆を呼びに走り、男衆は鋤や鍬、斧、弓などを手に集まってきた。


「私達は、先日、首都からこの集落へ転移し、暗黒竜の巣窟へ向かった冒険者だ。

 怪しい者ではない!」


「マウザー、あんた、冑被ったらどうだぃ? 

 そのナリでそのツラじゃ、野盗か落人かクマにしか見えないよ。」


 コルスが茶々を入れる。


 彼らがこの集落を立ったとき、最も目立っていたのは、煌びやかな金属鎧に覆われた大柄な騎士だったのだ。

 コルスはその時フード付ローブで容姿を隠していた。

 ブレタのハルバードは注目を集めていたのだが、柄の真ん中でへし折られたため、穂先だけを持ち帰っている。

 今はコルスから借りているローブの下にあるが、ローブを肌蹴るわけにはいかない(痴女確定である)。

 そして、シグは、本人が思っている程PTの中で目立っていなかったので、村人の記憶には残らなかった(斥候としては優秀である)。


「そ、そうか。

 この姿に冑か……誤解を解くためだ、仕方あるまい。」


 左手に持っていた大剣を鞘ごと地面に置き、巻き付けていた皮の敷物を脱ぐと、破れて血に染まったインナーが現れた。


 取り囲んでいた村人はドン引きである。


 背中に背負っていた盾を外すと、背嚢から凹み傷の付いた頬金付の冑を取出し、装着。

 留め具が歪んでしっかり固定できないので、手で支えるしかない。

 血塗れのアンダーシャツにステテコを履いた大男が冑を両手で頭に宛がっている姿に、困惑している村人達の中から、幾人かの声が上がる。



「あー、いたいた、あの冒険者PTの。この騎士様に見覚えあるだよ。」

「強そうな騎士様だと思っとったが、案外そうでもなかったんかのぅ?」

「しっ、聞こえたら斬られてまうど、しかし、この姿は……」



 村人達の視線から警戒心が消え、残念なモノを見る目に変わる。



「誤解を解いてくれて何よりだ。

 村長への取次を願おう。


 ……それと、雑貨屋はあるだろうか?」





 辺境の集落に、雑貨屋は無かった。

 月に2~3度、行商人がやってくる程度である。

 服を諦めたマウザー達は、転移石を使用するため、村長の屋敷へ来ていた。



 転移石は、国の厳重な管理下にある。


 転移石を起動する核石コア・ストーンを練成するために必要な魔結晶は、生成される核石の10倍の量が必要とされる。

 非常に高価なのだ。


 また、軍事利用が可能な移送技術であるため、一般民衆に操作方法は秘匿されている。

 各転移石には、諸王国から専任の転移担当貴族官2名が派遣され常駐しており、転移担当官が自らの官籍認証カードで本人確認しなければ、コア・ストーンに魔力を送り込むことができない仕組みとなっている。

 そして、転移担当官は、転移希望者の身分証(冒険者ギルドカードなど)と、領主の代理である村長の署名捺印がなされた書類を確認しなければ、決して転移石を起動してくれないのだ。



「男物の服2着に女物の服1着を、この皮の敷物2枚と交換して貰いたい。」


 村長から必要な書類を受け取ったマウザーは、その場で物々交換を願い出た。



「よろしいのですか?

 こちらにかなり有利な取引でございますが?」



「首都をこの姿でうろつくわけには行かない。」



 警備兵さんこっちです、と言われるのが目に見えるようだ。



「しかし、高名な『仕えずのマウザー』様のパーティーが、これほど装備を破損されるとは。

 よほど危険な任務だったのでしょうな?」



「その呼び方はやめてくれ。


 俺はただの『放浪騎士』。

 どこにも雇ってもらえない、ただの素浪人だ。」



「ご謙遜を。

 かつて、クヴェルガ併呑の際、『100人切りのマウザー』と恐れられ、後に聖鋼重装騎士団のスカウトや、辺境伯からの仕官の誘いを断ったと聞き及んでおります。

 確か、勇者様の遺した剣術の達人であるとも。

 何と言いましたかな、『無敵素敵最強無双勇者流剣術』、でしたかな?」



「『神伝無双最強無敵勇者流剣術』、だ。

 そんなことより、この角を見てくれ。」



 マウザーの視線を受け、シグが腰のポーチから角を4本取出し、机の上に置いた。



「これは……!

 ダークラプトルの成体のものですかな?

 群れで行動し、その危険度はブラックドラゴンの幼生体にも匹敵するという……。


 よく4人PTでご生還なされましたな!」



「ヤツらはアンデッド化していたからな。

 アンデッド共はお互いに関心を持たず、生者を滅することにしか興味が無い。

 連携さえされなければ、各個撃破することは不可能では無いのだ。

 お陰で装備がこの有り様だが。」



「さすが、ベテランの冒険者は違いますな。」



 青ざめた顔で角を眺める村長。



「暗黒竜の巣窟は、いまや『死竜の巣窟』だ。

 村の者にも、近付かないよう伝えて欲しい。」



「承りました。

 さっそく、周知を徹底させるよう、手配しておきます。」



 その時、ノックと共に下男が入ってくる。



「失礼しますだ。

 マウザー様御一行に、転移石の準備が調ったとお伝えせよ、と言われて参りました。」



「よろしい。

 それと、皆様にお召物をご用意して差し上げなさい。

 客間へお通しして、そちらでお召し換えを。」




――――――――――――――――――――――――――――





 ガイエナ諸王国の首都アイギス。


 首都の転移管理局は、この国で最大規模の転移施設である。

 主要都市との間に設置された直通の専用転移室が20部屋、辺境からの乗り入れ型転移室が10部屋。

 使用されている核石の総量を金銭に換算すると、国家予算の10年分に匹敵する。


 今、辺境からの乗り入れ型転移室の一つが封鎖され、こちらへの転移者を迎え入れる準備が進んでいた。


 転移室の床は、埋め込まれた転移石を中心に、直径4タルの魔法陣が魔結晶を練りこんだ塗料で描かれている。

 転移者が他の物質と融合してしまわないよう、十分な余裕を持たせるため、一回に転移できる人数は5人まで、持ちこめる荷物は300グルド(300kg)までと定められている。


 魔法陣の規模が小さいのは、諸王国の「転移に関する安全配慮義務と転移施設の維持運営管理に関する通則法」、――長ったらしいので略して「転移法」――で厳格に定められているためだ。

 転移における事故が起こった際の被害を最小限にとどめるためと、万一、敵対勢力に転移施設を押さえられた場合に、兵員や武器の大量輸送を防ぐ意味合いがあるのだ。


 転移管理官が、魔法陣から離れて部屋の入り口付近――安全圏まで退避し、起動した転移石を見守っている。


 辺境のアンケロ村からの念話通信を受けたのは30ハザン(30分)程前。

 転移室には、貴族ですら滅多に所持できない長距離念話用の魔道具が常備されているのだ。

 核石に魔力を流し込み、転移石が完全に起動するまでに掛かる時間は10ハザン程度。


 しかし、転移には、送る側と迎える側の両方で転移石を起動する必要があるのだ。

 こちらの転移石が起動する前に送る側が転送した場合、転移者は亜空間を彷徨うはめになる。

 或いは、転移管理官が核石に魔力を送り込み、転移石が起動しかけた瞬間に転移者が送り込まれた場合、転移管理官と転移者が融合し、大抵の場合両者とも即死することになる。

 そのような事故を防ぐため、転移管理官にはマニュアルの厳密な遵守と、細心の注意力が必要とされるのだ。


 やがて、魔法陣全体が赤く発光し、空間の揺らぎと共に、4人の人影が実体化した。



「ふぅ、相変わらず、転移ってやつには慣れないぜ。

 なんか体の一部が無くなってたりしないよな?」



「シグは、もしかしたら脳みそを置いてきたんじゃないかぃ?」



「コルス、おめぇさんはその小ジワを置いてきたらどうだ?

 そうしたら口説いてやんよ!」



「シグ、コルス、遊んでる暇は無い。

 ギルドへ出頭するぞ!」



 現れたのは、ローブを着た魔術師が1人と、どう見ても農夫にしか見えない3人の男女。


 ポカンとしている転移管理官に、村長の許可書類を提出し、冒険者ギルドカードを掲示すると、ちぐはぐな4人は慌ただしく走り去った。





――――――――――――――――――――――――――――






「――報告は以上です。」



 冒険者ギルド、局長の執務室。


 執務机の向うに座り、マウザー達の報告に長い耳を傾けていたのは。


 流れるような眩い金髪、碧色の瞳、人を惹き付けて止まない美貌、そして、長さ15セトル(15cm)はあろうかという尖った細長い耳。


 アイギス冒険者ギルド局長、ハイエルフのグリューネワルトであった。



「そうか、暗黒竜の巣窟を攻略した者の噂は本当だったか。

 暗黒魔竜の死骸が無かったということは、やはり素材目当てだったと見るべきか?」



「おそらくは。

 暗黒魔竜については、アンデッド化を心配する必要は無いでしょう。

 

 それよりも、眷属のアンデッドドラゴン共の数が問題です。

 我々が死闘の末無力化したダークラプトルのゾンビだけでなく、ブラックドラゴンのゾンビがうろついています。

 シグが探知したところによれば、30タル級のものも居たようです。」



「攻略者達は、並のドラゴンの素材に見向きもしなかったということか。

 それだけのドラゴンの角を集めれば、首都の執政予算規模の金額になるだろうに。」



 軽く頬杖を突き、机の上に並べられたダークラプトルの角を眺めるグリューネワルト。

 思わずため息をついてしまう程の美少女だ。


 エルフの大半は風属性であるが、稀に光属性の者が生まれることがある。

 一般のエルフよりも魔術に長け、寿命も長い。

 一族の中でも貴種とされ、長じれば族長として一族を率いることを期待されている者、それが「ハイエルフ」である。

 一般的に森の中で静謐な暮らしを営むエルフ達の中にあって、若いハイエルフは将来族長となるための修行としてヒューム達の社会で揉まれる経験を積む。


 ただし、ハイエルフの「若い」は500歳未満を指すのだが。


 グリューネワルトも、見た目は17~8に見えるが、本当の歳は誰も知らない。



「やはり、諸王国軍に頼るしか仕方あるまいな。

 頭の痛いことだ。

 欲に目のくらんだ冒険者が暗黒竜の巣窟に潜れば、将来のアンデッドの素材を増やすだけだろう。

 角を掠め取ることに、国もいい顔をするまい。


 マウザー、開発担当貴族のエンフィールド伯への報告に同行せよ。

 貴殿ほどの武芸者が危険性を訴えれば、伯の楽観論も改められよう。


 コルス達は、任務の報奨と、角の代金を受け取っていけ。

 アイテム鑑定のウェブリーと、会計のスコットに話は通してある。


 以上だ、解散。」


 



――――――――――――――――――――――――――――





「やれやれ、冷や汗もんだぜ。

 何とかばれなかったな。」



「シグがそんな殊勝なタマかぃ。

グリューネを見て鼻の下伸ばしとったろぅ?」


 任務達成の報酬で1人金貨20枚、角の査定額が1本につき白金貨1枚(金貨100枚)。

 金貨換算で1人あたり120枚もの報酬を手にしたシグは、完全に舞い上がっている。



「俺、この戦いが終わったら、グリューネたんにプロポーズするんだ。」



「大金手にして浮かれてるんじゃないよ。

 そういうこと言う奴は早死にする、って勇者の口伝にあるの知らないのかぃ?

 シグが洞窟に持ち帰る補給物資を買い揃える約束だ、しゃっきりしな。」



「へいへい、分ってるよ。

 んじゃ、酒や食料はうちの『ステアー親父の満腹亭』で揃えさせてくれよ。」



「ちゃっかりしてるねぇ。ブレタはどうする?」



「防具とハルバードの柄を注文してくる。

 柄は、木じゃなくて総ミスリル造りにする。」



「なるほど、これだけの資金があれば、装備をランクアップするのもいいねぇ。

 そういえば、聖者様は服が欲しいって仰ってたね。」



「それなら、俺がいい店知ってんよ!

 アイギスの若者達の間で人気沸騰中、異世界の愛の詩を染め込んだシャツとか、流行の最先端行ってる店だぜ?

 『下男にも礼服』、フルチンの聖者様も、生粋のアイギスっ子に早変わりだ!」



「そ、そうかぃ、あんたに任せるよ。」



 若者の服装にはついていけないねぇ、と思いつつ、コルスはブレタを見送り、シグと後で落ち合う約束をして別れた。




――――――――――――――――――――――――――――






 俺は、子ドラゴンと一緒に自宅警備に励み、アルタミラと大空洞で訓練をし、ドラゴンゾンビの塩漬け肉の串焼きを食べ、子ドラゴンに魔力を送って、「さあ、アルタミラとイイことしようか!」という時に現れたコルスとシグを、恨みがましい目で迎えた。



< 聖者様、御所望の品々の一部をお届に上がりました。 >



< お、おう。

 ありがとう。(早く帰れよ!) >



 シグが、何かドヤ顔しながら、荷物の中から何かを引っ張り出している。


 興奮気味に、何か自慢しているようだ。


 いいから早くお帰り下さいやがれ!


 しかし、シグが取出した物を見て、俺は驚愕のあまり硬直した!



「これは、現代(元の世界)の洋服!?」



 しかも、何やら文字が書かれたプリントシャツとかだ。


 書かれているのは、


「酒が好き、世話が好き。」

「武士道」

「あなたを犯人です。」

「メタボだっていいじゃない、

 中年だもの。

 かつを。」




――これ、日本語だよ!?





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