第10話 魔神になったった
天狗の団扇を回収した俺は、3点セット装備で翼を出し、左手に子ドラゴンと人化したアルタミラを乗せ、「暗黒竜の巣窟」を目指して飛翔した。
辿り着いたのは、暗黒竜の巣窟最下層、ドラゴンゾンビに遭遇した「大広間」。
ここは、元々アルタミラがねぐらとして居座っていた場所でもある。
大広間を拠点にして、しばらくは子ドラゴンの育児(LV上げ)と、この世界について無知な俺の教育が行われる予定である。
童貞の俺としては、美女のアルタミラと一緒に寝起きすると考えただけでwktkしてしまうんだが。
ちなみに、アルタミラが人化したのは、魔力の消費を押さえるためだ。
竜の巨体を動かすのは、筋肉だけでなく、魔力を行渡らせることで可能となるのだそうだ。
実際、神経の伝達速度で筋肉を刺激して動かすだけでは、脳から肢や尻尾の先端まで伝わるだけでも結構なタイムラグとなる。
魔力――イメージしたものをそのまま物理現象へと変える力――の流れに筋肉の力を乗せることによって、ドラゴンの巨体があの反応速度で動くのだ。
もちろん、ドラゴンの肉体そのものが、魔力と相性がいい、ということもあるらしい。
ドラゴンにとって必要不可欠な魔力、その素となる魔素を吸収するための「角」は、ドラゴンにとってまさに生命線とも言える。
アルタミラは、その大切な角を、俺との主従契約の証として、伝説級のアイテムに変えて俺に捧げてくれたのだ。
アルタミラが恩着せがましく俺をこき使うと発言したお陰で、あの場はあまり重く考えなかったが、よく考えてみたら、これって大変なことなんじゃないだろうか。
(もしかしたら、あの言動も、俺が負担に思わないように気を使ってくれたのか?
――いや~、それだけは無いわ。アルタミラだし。)
角に頼らない魔力回復――生命体であれば自然に行っている魔素吸収でも魔力は回復するが、ドラゴンの巨体を維持し動かすには全く不足している。
俺が魔力を送れば十分な量を供給できるが、俺が付きっきりでいるのは現実的ではない。
そこで「人化」である。
人化は亜空間収納に近いスキルで、自分の肉体の一部のみを現界に残して人型をとり、本体は休眠状態にして専用の亜空間に保管することができる、というものだ。
高位の竜や魔族が休息したり療養する際は、魔力消費を抑えるために人化することが多いらしい。
ひどい怪我をした竜が、人化して里に下りたところを里人に助けられ、お礼に財宝を授けた、なんて昔話もあるそうな。
まぁ、人化すると角の魔素吸収能力やブレス系のスキルは使えないし、本体に比べたらHPや筋力が大幅に下がるというデメリットがある。
もっとも、防御力や魔法攻撃力には影響しないので、魔法を使う人型の存在としてもかなりの強者ではある。
今のアルタミラを鑑定すると、
≪アルタミラ≫
種族: ダークバハムート(人化中)
LV: 935
――――――――――――――――
【ステータス】
HP : 11000/11000
MP : 198000/198000
力 : 192
体力 : 923
知力 : 710
精神 : 557
器用さ: 423
速さ : 355
運 : 73
――――――――――――――――
【スキル】
・ダークブレス LV 100 (人化中使用不可)
・ペトロブレス LV 100 (人化中使用不可)
・アイスブレス LV 100 (人化中使用不可)
・ファイアブレス LV 100 (人化中使用不可)
・トルネードブレス LV 100 (人化中使用不可)
・念話
・人化 (使用中)
――――――――――――――――
【魔法】
・闇魔法 LV 97
・地魔法 LV 88
・水魔法 LV 42
・火魔法 LV 65
・風魔法 LV 100(MAX)
――――――――――――――――
【属性】
闇
――――――――――――――――
【耐性】
闇・地属性の攻撃無効
魅了・麻痺・毒・睡眠の状態異常無効
――――――――――――――――
【加護】
闇神
――――――――――――――――
100万超えてたはずのHPが1万ちょい、力も弱体化したアンデッドの状態で800弱くらいあったのが192とか。
うん、十分強いだろっ!
人族の魔法使いなら、きっと最強クラス。
チート勇者は知らんけど。
まぁ、ずっと人化したままということはなく、1日1回は竜化して死の大空洞に降り、俺や子ドラゴンの戦闘訓練をしてくれる予定である。
その時の魔力消費分くらいは、俺が責任持って補給させてもらおう。
そして、気にはなったが後回しにしていた俺自身の鑑定。
LV935のデスバハムートを倒したことで、大幅なLVUPをしたはずだ。
それに、さっきリザレクションを掛けた時も、俺の体の節々が痛んだ。
あれが成長痛の軽いものだとすると、蘇生に成功した時もLVが少し上がったということだろう。
合わせてどれくらいLVが上がったのか。
心眼スキルで鑑定してみよう。
≪アイザワ ヒロト≫
種族: 魔神(固有種)
LV: 112
――――――――――――――――
【ステータス】
HP : 111040 / 111040
MP : 81130 / 121000
力 : 115
体力 : 1000
知力 : 5
精神 : 1000
器用さ: 4
速さ : 114
運 : 2
成長ボーナスポイント:111
――――――――――――――――
【スキル】
・心眼 LV30(MAX)
・亜空間収納 LV3
・全方位探知 LV7
・念話
・人化
――――――――――――――――
【魔法】
・聖 LV100(MAX)
――――――――――――――――
【属性】
闇
――――――――――――――――
【耐性】
闇・地・水・火・風属性の攻撃無効
石化・魅了・麻痺・毒の状態異常無効
――――――――――――――――
【加護】
闇神
風神
――――――――――――――――
LV112か!
もう今さら驚くことはないが、HP、MP凄いな。
たしかLV1の時、HP40だった記憶がある。
どうやら、1LV上がる毎に、HPが1000ずつ増えたようだ。
MPもきっと同じだろう。
そして、MPの回復量もハンパ無い。
見ているうちにどんどん回復していき、やがてMPも満タンになった。
心眼スキルと聖魔法のLVも上限まで上がっていた。
聖魔法の種類も増えているだろうな。
後でじっくり確認しよう。
しかし心眼スキルは30でカンストかぁ。
今まで正確に表示されなかったせいで勘違いもしたが、これでもう、俺の目をごまかせる者はいまい!
って、ん、あれ――?
……俺の種族が。
「マジン」じゃなくって『魔神』になっちゃってるんですけどぉ!!?
「ね、ねぇ、アルタミラ。
ま、魔神って何かな?」
「ん~、そりゃ魔族の神とかじゃないの?
まぁ、でもそんな奴見たことも聞いたことも無いわね~。
この世界には、聖・邪・光・闇・地・水・火・風の8柱の神しか居ないわよ。」
「じ、じゃあさ、魔王なんてのは、どうなってるのかな?」
俺は、このタイミングで嫌なことを思い出してしまった。
俺をこの世界に送り込んだ天狗コスプレ公務員、自称「風神ティタンダエル」。
アイツは確か、「この世界では、現在、魔王爆誕イベント開催キャンペーン中ですよ~。あなたの世界からも、転生して勇者になっている方が大勢いらっしゃいますよ~!」とかなんとか言ってやがったよ、こんちくしょうっ!
「あ~、魔王ね。
時々、魔物や魔族の中から強大な力を持つ者が現れて、魔王を名乗ることがあるわ。
人族の世界にちょっかい掛けては、あっさりボコられて消えていくわね~。
まぁ、ワタシ達竜族には関係無い話かな。
特に被害も無いし。
で、アイザルトはどうして魔神だの魔王だのが気になるの?
もしかして配下に加わりたいとか?
やめておきなさいよ、アイツらどう見ても勇者の噛ませ犬よ。」
その通り、噛ませ犬だよな。
【異世界転生して、キミも魔王を倒す勇者になろう!】みたいなイベントのために、俺はこの世界に生まれてきたんだ。
「ねぇ、アルタミラ。
何て言ったらいいのか分らないんだけど。
……しいて言うなら、キミの瞳に映ってるのが魔王?」
「何でそこで疑問形なのよ。
って、まさか!?
この子が魔王のはず無いわ!
神竜と勇者の愛の結晶なのよっ!!」
「< ふみゃ~? (な~に?) >」
「いや、子ドラゴンじゃなくって、こっちこっち。
……俺、『魔神』なんだって。」
「はぁ?
何いってんの?」
「だからさ、俺が、『魔神』なの。
今まで気付かなかったんだけど、鑑定スキルのLVが上がったら分っちゃったんだ。」
【キャンペーン中だから、いつもの魔王よりランクが上の魔神を用意しました!】ってか?
「だって、アンタ、丈夫なことと聖魔法が使えること以外、何の特技も無いんでしょ?
それでどうやって人族を滅ぼす魔物の軍団の王だか神だかになれるわけ?」
「俺だってそんなことしたくないよっ!
でも、俺は勇者達に倒されるために、この世界に生み出されたんだっ!!」
どーゆーイジメだよ?
ひでぇよ、あんまりだろ……。
「で、アンタはどうしたいの?
自分が魔神だって分ったら、やりたくなくてもその役を演じるの?」
「やりたくないよっ、そんな役!
誰もいない荒地みたいな場所にぼっちで放り出されて、子ドラゴンやアルタミラと出会って、仲良くなって。
アルタミラは俺の事バカにするけど、主って言ってくれて。
子ドラゴンは、お母さんって言ってくれて。
友達みたいに、家族みたいになって。
嬉しかったのに。
色々教えて貰って、一緒にこの世界を見て回りたかったのに!
魔王になって勇者に倒されるなんてイヤだっ!
この世界でみんなと生きていきたいよっ!」
――バシャッ!
突如、俺の顔面に直径5mくらいの水球が浴びせられた。
「少しは頭が冷めた?
アンタ、ワタシとの契約、忘れたの?
ワタシはアイザルトの剣。
ろくな攻撃手段のないアンタの代わりに戦ってあげるわよ。
ワタシはアイザルトの盾。
アンタの方が丈夫かもしれないけど、いじめっ子から守ってあげるわよ?
アンタの泣き顔は闇で隠してあげる。
ふらついたらアンタの足が踏みしめる大地になって支えてあげる。
こんなふうに顔を洗う水だって用意してあげるし、凍えたアンタを暖める炎にだってなってあげる。
洗濯物を乾かす風だって起こせるのよ?
どう、こんなイイ女いないでしょ?」
「アルタミラ……」
「ワタシが――ワタシとこの子が、アイザルトの味方になってあげる。
アンタのやりたい事、やればいいじゃない!
もう一度聞くわよ。
アンタは、何がしたいの?」
「……一緒に、この世界を見て回りたい。
アルタミラ達と一緒に、この世界で生きていきたい!」
「ふん、上出来ね。
ワタシも、時々お忍びで人化して世界を旅したくなるのよね。
アンタも人化して、勇者達が待ちくたびれて忘れるまで、魔神だってばれないようにしてりゃいいのよ。」
「……うん、ありがとう、アルタミラ。」
そうだな、魔神役なんてドタキャンしてやる!
「落ち着いたみたいね。
とりあえず、出来ることからやっていきましょう?
手始めにワタシの寝室の掃除と、宝物庫の仕分け、あと、ドレスを見付けたら洗濯しておいてね。」
心配げに体を摺り寄せてくる子ドラゴンの背中を撫でつつ、腰に手をやって胸を張るアルタミラを見下ろして、美人はドヤ顔しても美人だなぁ、なんてことを思った。
注:ドラゴンが魔力で身体操作する件について――
アンデッドドラゴンの場合は、魔力ではなく「邪神の傀儡」というスキルで動かされています。
そーゆー設定なんですってば。
主人公、ちょっと情けないでござる、の巻。ですが。
実は、設定としては魔神≠魔王で、今回のは主人公の勘違いです。
しいていうならまだ出てきてない人が魔王です。たぶん。