第93話 参加者になったった
ちょっと短いですが、書けた分だけでも更新していこうかと。
復讐に逸る炭鉱族の女戦士ブレタが吸血聖女に突進するも、返り討ちに遭って頭を潰されそうになった瞬間。
バシンッ
分厚い肉がぶつかり合うような重い打撃音と共に、2人の美女の繊手――拳と掌――が打ち合わされていた。
拳と掌の衝突が起こした衝撃波によって、店内を照らし出す数本の燭台が掻き消され、残った灯によって女たちの影が揺らぐ。
「やめときなさいよ。マズい酒が余計に不味くなるわ」
それはまるで、なにかの宗教画のような情景だった。
力なく仰向けに横たわる、冒険者装束の女戦士ブレタ。
その上に馬乗りになる、黒い修道服の金髪美女マリナ。
そして、マリナの拳を受け止めた、白いローブ姿、褐色肌に銀髪の美女、アルタミラ。
スラリとした立ち姿の神秘的な褐色美女は、闇そのものが形を取ったかのように、何の気配――予備動作や体重移動、魔法の発動――も感じさせず、いつの間にかそこに立っていたのだ。
(アルタミラの動きが、全く見えなかった? いや、それよりも、あの好戦的で知られる闇神竜が、吸血聖女を攻撃する機会を見過ごしてまで、初対面のブレタを助けた!?)
吸血聖女の登場。
ブレタの突出。
そして、誰より率先して暴れまくると思っていたアルタミラが、何故か戦いを収めようとしている。
(この女は、誰だ? 本当にアルタミラなのか??)
顔を見間違えようはずもない。
過去に再転生して以来、夢にまで見た愛しい女だ。
何者にも膝を屈することの無い、精気に満ちた力強い眼差し。
くっきりと秀でた形の良い眉、通った鼻筋、ほっそりとした頤。
スラリと伸びた肢体(ついでに俺の目を捉えて離さない、たわわな胸の果実と締まったウエストと豊かなヒップ)。
そして、ヤサグレた飲んだくれ女冒険者のような振る舞いをしていても、みすぼらしく汚れた旅装でも、隠し切れない気品と気迫。
瑞々しい美の化身が、そこに立っていた。
(まるで女王、いや、女神……)
背筋にゾクゾクするような慄きが走る。
いつの間にか目を奪われ、食い入るように彼女を見詰めていた。
俺の知っている駄竜さんは、おっちょこちょいで好戦的で、愛情深くて情熱的で、脳筋でうっかりな、愛すべき残念美人だったはずだ。
だが、俺が知っていたのは、彼女のほんの一面に過ぎなかったのかもしれない。
(こんな、神々しく、近寄りがたい顔も持ってたんだな)
などと見惚れていたら、アルタミラと目が合った。
まるで初心な中学生のように、心臓がドキドキと高鳴ってしまう。
(もしかして、彼女も俺のことが気になるのだろうか?)
「そっちの2人もワタシと遊びたいのかしら? いいわよ、吸血聖女だけじゃ物足りないし。街の外で相手してあげる」
おぅふ、そっちか。
好戦的なのは変わってなかったな。
俺に特別な何かを感じてくれるんじゃないか、とちょっとでも期待した自分が恥ずかしい。
「……クッ、舐めるなァッ!」
パンチを受け止められて放心していた吸血聖女が、アルタミラの言葉で我に返った。
マウントポジションでブレタに跨っている状態から、クルッと後転して床上で立ち上がり、距離を取る。
トントンと軽くステップを踏みながら、ボクシングのファイティングポーズのような構えを取るマリナ。
そこから、怒涛の連撃が始まった。
バキッと石造りの床に亀裂を入れる踏み込み、ブンっと空気を切り裂く音と共に、白くて長い脚がキレイな弧を描き、繊手が突き出される。
アルタミラは反撃せず、ひたすら避けるだけ。
中段突きからの飛び蹴り、空中で転換し着地するなりの上段廻し蹴りに続く膝蹴り、ロングフックから後廻し蹴りに肘打ち。
駆け引きも間合いも無い、相手の反撃を考えず、1人で演武しているような無茶苦茶な攻撃だ。
彼女の動きについていけない修道服が、突きや蹴りのたびにビリビリと裂けて襤褸クズと化していく。
肌の大半が露出したその姿は、艶めかしく、いっそ煽情的とさえ言えた。
だが、マリナが動く度に、分厚い木のテーブルが粉砕され、石造りの壁に穴が開き、空気が衝撃波でビリビリ震える。
高位アンデッドの身体能力にモノを言わせたパワーとスピードには、ゾッとするような破壊力があるのだ。
まだかすりもしていないが、人化状態でこの攻撃を受ければ、アルタミラといえども無事には済まないのでは……
「何をぼうっと見てるんですのっ? 勇者のお二方、闘いに参加して下さいましっ!」
「へっ? 俺ら??」
「……すまん、ヨシーロ。聖女殿の要請を無視しては、殿下のお立場が悪くなる!」
チキリ、と音立ててオリハルコン刀の鯉口を切る、狼獣人の女剣士ナブラ。
いつの間にやら、アルタミラvs転生者3人、という流れになりかけている!?
(くそっ、せっかくアルタミラと接触するチャンスだったのに! どうしてこうなった? ……とにかく、この状況はマズイ!)
「策を練っても、考えた通りには行かない」というナブラの予言?が的中し、もう「アルタミラを説得する」、なんて言ってる場合じゃなくなってしまった。
彼女を本気で怒らせ、神竜の姿で暴れられたら、ダークブレス1発で街は全滅だ。
「おぃヨシーロ、何やってんだ、とっととズラかろうぜ!」
店主も他の客達も、ただ床に伏せてブルブル震え動けなくなっている中、匍匐前進?で這って逃げて来た熊獣人の冒険者・ミハイロフ。
そのミハイロフに引きずられて来たブレタ(熊、グッジョブ!)は、いまだにダメージが抜けず身動き出来ないようだが、幸い命に別状はなさそうだ。
「いや、俺にはやることがある。すまないが、ブレタを連れて逃げて欲しい。報酬は、外に居る鎧着たハゲのおっさん(クリーグ)から受け取ってくれ」
「金さえ貰えりゃ文句はねぇ。――死ぬなよヨシーロ、炭鉱族の姉ちゃんは任せな!」
「……ジョシュ、ごめ、ん」
「いいんだ、コルスたちを頼む」
俺は、胸ポケットを押さえて中に入っているモノの感触を確かめながら、ブレタとミハイロフを見送った。
懐にあるのは、酒場に入る前にナブラから受け取った、一方通行の『簡易転移結晶』。
(今は街を――ブレタやコルス、殿下や伯父を含む、この街の住人の命を――守るのが最優先だ。なんとか本格的な戦いを回避しなければ!)
吸血聖女に加勢してアルタミラと戦うのは論外だが、「皇位継承のため、暗黒魔竜討伐に参加」している第2皇子・トウマ殿下の立場を考えれば、聖女の協力要請を無視できないというナブラの心中も分かる。
この場を丸く収めるには、
(引っ掻き回して、ドサクサに紛れて彼女たちを引き離すしかない!)
いつでも抜刀出来る態勢のナブラを横目に見ながら、俺は闘いに割って入る覚悟を決めた。
アルタミラがマリナの攻撃を避けるばかりで、暴れ出す気配の無い今がチャンス。
転移結晶の宝玉を握りしめると同時に、いつも首から下げている『あるモノ』を取り出す。
コイツで、街の外に待機している『切札』を呼ぶ時が来たのだ。
ずいぶん間が空いてしまって、ホント申し訳ないです。
スランプだ、忙しい、ストレスには勝てなかったよ、と言い訳してるうちに余計に書けなくなってました。
至らない点は多々あるかと思いますが、これからは、とにかく物語を完成させることを目標にしようと思います。(まだ先長いんだよなぁ^^;
この小説は、自分にとっても大切な処女作です。
エタらないように頑張りますので、今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いしますm(₋₋)m




