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忘れさせ屋  作者: kanoon
9/22

MISSION DEFAULT


水野と黒城がバーで会った数日後。

お昼に暇だからと、午前中に講義の終えた結城を水野が誘った。大学は都心にあったので、付近のお洒落な店に連れていったのだった。


「イタリアンで良かった?」

「はい」

大人しくついてくる結城に、振り返って水野が尋ねる。嫌そうな様子でもないのでそのまま店に入って席に着いた。

「そろそろ敬語、やめない?もっと仲良くしたいし」

「えっ、あ、うん」

急な提案に少し驚いたようだが、たどたどしく敬語を外して返事をした。

「水野くんって、何の仕事してるの?」

結城は、水野の安っぽいスーツを見て尋ねた。「ああ、」と一瞬スーツに目をやってから答える。

「小さい事務所のね、ただの事務員」

高卒だから、と苦笑いする。

勿論、ターゲットに正体を知られてはいけないパターンの依頼だから嘘なのだが。

結城はそうなんだ、と返事をした。

「結城さんのこと、もっと教えてよ。あの日もそんなに自分のこと話さなかったでしょ?」

左手に顎を乗せて水野が言う。それに結城は気まずそうな目を一瞬浮かべたが、「こないだ言ったけど」と前置きした。

「私、少し前に彼氏が亡くなって。本当は後を追おうか迷った。だけどさおりや他の人に止められて。……水野くんは、私がそういうことをしたら怒る?」

「俺?」

急に振られて少したじろぐ。だが数秒考えて水野は答えた。

「怒るよ、そりゃ。友達の立場なら、必死で止めるし、怒って諭す。……もし好きな人を置いて先に死んでしまっても、俺はそんなこと望まない」

「そうだよね……」

「もしかして、まだそんなこと考えてたの?」

その問いに結城は首を横に振った。

「ううん、大丈夫。さおりを裏切るなんて出来ないから。水野くんがそう答えてくれると、なんか慧くんの答えな気がする」

和らいだ表情に、水野は眉をひそめた。

「どういうこと?」と聞く前に、結城が笑って言う。

「やっぱり似てるんだよね、水野くんと慧くん。いつも優しくて、温かい目をして、私の難ある性格を肯定してくれた」

「そうなんだ」

何て言ったらわからない。流石の水野も上手い相槌が分からなかった。

「でもね、」

「ん?」

「優しすぎるのは、だいっきらい」

食べてる途中で、フォークを置く。結城は下を向いたまま立ち上がった。

「え?結城さん?」

「ごめんなさい」

早口で謝って頭を下げる。そして直ぐに出口に走っていった。

その早さに水野は引き止められないまま立ち尽くす。

「泣いてた、よな」

申し訳ない気分になりながら、ほんの少し残されたパスタを見る。

「折角なら食べていけば良かったのに」

最後になるくらいなら、さ。

水野はため息をついて、自分の皿に残ったパスタを口に入れた。



水野には何となく分かっていた。

自分を見ていると、結城が少なからず揺れていることを。

勿論素でも紳士的であるよう勤めているし、女性には割と優しくするタイプだとも思う。

だが忘れさせ屋であるために、クライアントが心を許しやすい性格を作り上げる。過去の恋愛を参考にしながら。

結城には"慧"しか居なかった。だから黒城から聞いた性格を主に模した。

ターゲットが"慧"に固執している以上、"慧"を彷彿とさせるものに目がいくはずだ、と。

だが水野の作戦は半分成功であり、半分失敗だった。

気を引かせることには成功した。計算通り、結城は水野の偽った性格で"慧"を重ねた。

けれどその鍵では、先に行くことは出来なかった。

愛するが故に、その優しすぎる性格が憎かったのだ。結果論としては、彼女を置いていってしまうことになったから。

深入りを避ける傾向にある結城は、これ以上引きずると深入りしてしまうと感じたのだった。

これはミッション失敗かもしれない、と思った彼は、後日黒城に話をすることにした。


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