既視感
そろそろお開きにしよう。そう黒城が言い出して、皆それぞれに席を立った。黒城が「会計は、」とレジに向かえば、「既にお連れ様が払われました」とのこと。外に出ていた全員の元に彼女が行くと、なんてことないように水野が待っていた。
「あの、お金ありがとうございます」
「いーえ、今ちょっと財布の紐緩いんで。俺、結城さん送っていきますね」
行きましょう、と結城に声をかけると、「お疲れ様でした」と皆に手を振って帰路につく。
「また遊ぼうねー!」
解散する前に、全員が互いに連絡先を交換していた。何故だか皆このメンバーが楽しかったのだった。
「送ってもらっちゃって、すみません」
結城も大分慣れたのか、始めよりも砕けた雰囲気を醸し出している。声に自信はないが、どもることはなかった。
「いいんです、同じ方向なら当たり前ですから」
静かに歩いていく。会話もほどほどだが、二人にとって居心地の悪いものではなかった。
ちら、と水野が結城を覗く。彼女の頬は緩んでいて、水野も思わず笑みが零れた。
「楽しかったですね。メンバーみんな良い人だったし」
「はい」
結城は返事をしたあと、ハッと口を噤む。何かあったのかと水野は彼女を見つめた。暫くしてポツリと言葉をもらした。
「私、大切な人を亡くしたんです」
「うん」
「その人に、水野さんが似てるんです……あの人、貴方みたいに優しかった」
水野は何も言えなかった。ただ、優しく結城を見ていた。
彼は全て知っていたが、結城が喋ることを促した。
「だから、今日来て良かったです。あの人と違うって分かってるけど、同じように接してもらえて嬉しかった」
「そっか……。もし良かったら、また会いましょうよ」
「はい、是非」
最寄りの駅まででいい、と結城に止められ、水野たちは別れた。
ターゲットの最寄り付近に借りたホテルに着く。
「『任務完了』っと」
水野は携帯を取り出すと、所長にメールを送った。
まずは彼女との距離を縮める。そして、好きなときに呼び出せるような立ち位置につけておく。
それが今回の手順だ。距離感を間違えてしまったら、もうそれは任務失敗と言える。しかしそこは水野である。情報を駆使して彼女の理想の形になるのはお手の物だった。
『お疲れ様』
と返ってきたメールを一瞬見て、水野はベッドに倒れこんだ。