運命的な再会
小綺麗な服を着る。今回は女受けは狙わない。ターゲットの趣味に合わせてある。積極的に狙いにいくタイプではないターゲットに、いかに好かれるかが重要だ。
水野は鏡で一通り確認したあと、ニヤリと笑った。
「自信しかない」
クライアントである黒城主催の合コンに水野は出向く。この前言葉を交わすことに成功したターゲットと、運命的な再会を果たすためだ。
水野が約束のお洒落なバーに着いたときには、ターゲットである結城以外皆席についていた。勿論黒城以外の面子も仕掛け人である。黒城の共通の友達だった。
「初めまして、水野純です」
それぞれ既にに挨拶は交わしているらしく、水野と挨拶を交わしてから本題に入った。
計8人の男女のセッティングで、男女は互いに知らない人同士であり、そこは本当に合コンしてしまおうという魂胆がある。だが事前に結城と水野のことは説明してあるため、手出し禁止というルールだ。(勿論フリは有りである)
「今日はよろしくお願いします」
「お願いしまーす」
カラン、と音を立てて入ってきたのはターゲットの結城だった。
「よーう!」
元気よく手を上げた黒城に、一瞬頬を緩める。黒城の隣に座る二人とも顔見知りなため、多少は安心出来ると感じたのだろうか。家から出たがらない結城をどうやって連れてきたのか黒城は水野には言わなかった。
「先に挨拶済ませちゃったけど、改めて挨拶から!私は黒城さおりです、よろしくね」
「結城未来です、よろしく」
他の人や水野も挨拶をする。水野が名前を告げたとき、結城が微かに目を見開いた。思いがけない人物に驚いているようだった。
「あ、あの……」
「もしかしてあのときの結城さん?」
水野は彼女に先回りして尋ねる。いかにも偶然でびっくりした様子で。
「あ、はい」
「偶然ですね!まさかこんなところで再会するなんて。あの本読みました?」
持ち前の爽やかさと甘さで攻めはじめる。それに押されつつも、以前会ったことで気が緩み始めた結城はおずおずと答えた。
「まだ半分までしか読んでないですけど……」
「面白いですか?もう買っちゃおうかなーと思って」
「面白い、ですよ、結構」
その返事を聞いて満足した水野は、他の女性と会話し始める。解放された結城は黒城に尋ねた。
「あの、水野さんとは知り合いだったんだ」
「うん、先輩の知り合いでね」
年上なの?という顔をする。結城たちは21歳であるが、水野は25歳なのである。だが見た目が爽やかで、今時の草食系なため大学生と間違われることもしばしばある。
「水野さん、年上に見えませんよねー」
いかにも仲が良いという風に黒城が水野に話しかける。それに会話を中断してニッコリ笑った。
「それ、良く言われる。ガキっぽい?」
「良い意味ですよー!」
結城は積極的には会話に参加しなかったが、会話を聞いて笑うことはよくあった。それを見て水野は不思議に思う。鬱いでるような子には到底見えないと。
「結城さん、楽しい?」
お酒を少し口にしながら水野が言う。周りはハイペースで酒を煽っていたために酔いつぶれた者も居る。だが結城は一口も飲んでいなかった。
「お酒は、苦手なだけで……久しぶりに楽しいです」
主に水野や黒城、他の女性陣としか話さず、無理に絡むことを強制しなかったから結城は気が楽だった。そして何故か、水野に親近感が湧いたのだ。
「楽しいなら良かった」
そう笑って、グラスの中のお酒を飲み干す。
そんな意外な柔らかな空気に、黒城はそっと微笑んだ。