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忘れさせ屋  作者: kanoon
5/22

心の拠り所


ピシッとスーツを決め込む。本当に出張ホスト紛いな……と水野は改めて思う。あそこまで小汚くないつもりだ。

「よし、行こう」



ドレスコードのある店に、水野と今日のクライアントは向かった。

食事券を使いたいから愚痴に付き合って、というのが先方の依頼だ。勿論何度となく相談に乗ったり慰めたりしている常連である。


「純くんごめんね。他に誘う人いなくって」

ライアントの川崎夫人が苦笑する。彼女は大手企業の社長夫人であるが、そのために味方が少ないとよく水野に嘆いた。

「いいえ。奥様の力になれるならいつでも」

「ありがとう。あ、好きなもの頼んで頂戴ね」

はい、と答えたものの、彼は金持ち思考ではないためどうしても遠慮してしまう。それを見かねた川崎夫人は適当なものをピックアップした。

「純くん、どうしたら居場所なんて出来るのかしらね」

「居場所、ですか?」

水野は一旦、食べる手を止める。夫人は手で進めるように促しながら頷いた。

「先週ね、夫の親戚が来たの。勿論手厚くもてなさなきゃと思ってそうしたわ。だけど何かが気に障ったようで」

「うん」

「お義兄さんを怒らせてしまったの。だけど心当たりなんてないのよ」

「八つ当たりですかね」

重い溜め息をつく様は、お金持ちだけれど苦労が絶えないことを表していた。

「でも、こうやって純くんと一緒に食事するだけで気が紛れるわ」

「そう言ってもらえると嬉しいです。それが仕事なんで」

それに上品な笑いで返した夫人の目の前に赤ワインが置かれる。水野の前にもフルーティーな香りの赤ワインが置かれた。その横には小さなショコラケーキ。ミントと生クリームが添えられている。

「どうぞ。このケーキとワインの組み合わせが一番好きなの」

「いただきます」

水野は一口ケーキを口に入れて、ワインを嗜んだ。

甘いショコラの味に、果実の甘みが強い赤ワインが混ざる。それがくどくない甘さに変わる。甘いものが好きな水野にとって至福の時だ。

「……美味しい」

「でしょう?」

得意げな夫人に、ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべた。それが一番満足したような彼女も、ワインを口にした。

多少の話はしつつも、その後二人はただ「美味しい」と感想をいいながらデザートを楽しんだ。


「今日はありがとうね、純くん」

会計の終えた夫人が水野に言う。そっと差し出したのは、ワインだった。その中に報酬が入っていた。

「ありがとうございます」

「所長さんと飲んでちょうだい」

「はい、いただきます。またいつでも連絡下さい。優先的に時間あけておきますから」

「ええ、その時はまた頼むわ」

ワインと報酬を受け取った水野は頭を下げた。夫人は晴れ晴れとした笑顔で去っていった。


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