接触
水野の思いついた方法は、成功率の分からないものだった。
彼が情報の中で目に留まったもの。
『週に2度、図書館に行く』
数日後、水野は結城未来の利用する図書館に居た。
来たら、良い具合に接触を図れるか計算しておく。何度かのシュミレーションを終えたところに、ターゲットがやってきた。
「ミッション開始」
口角を上げて、彼女に近寄る。水野はタイミングを見計らった。
ベタだが少女漫画のような接触が一番だろう、文学少女を惹きつける展開にするつもりだった。
「あっ」
彼女が数㎝背伸びをする場所にあった本を、水野がひょいと取る。勿論その時に微かに指に触れるのは忘れず。
「えっ、あ、すみません。貴女もこれを?」
「はい……あ、でも大丈夫です」
変なテンパり方をした結城は、ぺこぺこと頭を下げながら去ろうとする。
「あー、ちょっと待って」
その彼女の腕を純が掴む。
「俺いつでもいいんで、先借りていいですよ」
「でも」
いーのいーの、とニコニコ振る舞うと、結城は挙動不審ながらも薄く笑った。それに水野は一層笑みを深める。
「ありがとうございます」
そう言ってカウンターに行く彼女を、本を探すふりをしながら待った。きっと一言声を掛けるだろうと思ったから。
案の定結城は遠慮がちに水野の近くに寄って、「ありがとうございました」と言ってきた。
「大丈夫です。あ、俺は水野純です。」
「わ、私は結城未来です」
挨拶はちゃんとしてくれるんだな、と思っていると、「失礼します」とすぐに帰られてしまった。
「よく分かんないやつ」
溜め息をついた水野は、報告のために事務所に戻ることにした。
「で?ちゃんと接触出来た?」
「出だしは上々だけど、あの子可笑しい。なんかやりにくそう」
それでもやるけどねー、と手を上げてピースをする。
「明日はお得意様。頼んだわよ」
バシン、と所長に肩を叩かれた水野は「痛いよー」と苦笑いで返事をした。
「たまには飲みなさいよ」
少しだけど、と鈴木加奈に半分くらい酒が注がれたコップを渡される。この同僚も翌日に仕事が控えてはいるのだが。
「うん、じゃあ頂くよ」
ザルなわけではない水野は、次の日が仕事なため少しだけ口にした。
「この仕事ってさ、別れさせ屋と違って感謝されることが多いじゃない」
「ああ」
「それが好きなのよね」
突然の語りに、水野は一瞬動きを止めてから柔らかく笑った。
「俺もこの仕事が好きだ」