表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れさせ屋  作者: kanoon
16/22

変わっていく自分

「いらっしゃい」

ピンポーン、と家のチャイムが鳴ったからドアを開ける。

コンビニの袋を見せるように掲げてから、水野は結城の家に足を踏み入れた。

「もし良かったらと思って、飲まないって言ってたけどお酒買ってきちゃった」

彼は袋から2缶チューハイを出した。一つはもう一つよりアルコール度数が低いもので。

「あ、別に飲みたくないなら大丈夫だよ。一口だけでもいいし」

でも何か相談したいなら、お酒の力借りるのもアリってだけだよ。

そう水野は優しく笑った。

その優しさに少し慣れた結城は、ただ頷いてその缶を冷蔵庫にしまった。

「もう少し後で飲もう」

「おう」

あと、と袋からお菓子とコンビニスイーツを取り出す。

「途中になんもなくて、コンビニのだけどさ」

ロールケーキとクレープ。「私これ食べていい?」と結城がロールケーキを指差すと、「勿論」と返事があった。

「で、どうしたの?」

スイーツを食べようとしたとき、水野は彼女に問い掛けた。

「あの、これ一緒に聴いて欲しいの」

テーブルにカツン、とアルバムを置く。

「CD?」

「慧くんが好きだったアーティストなの。今日見つけて、思わず買っちゃって。でも聴く勇気なかったから……」

「俺でいいの?黒城さんは?」

その問いに、ふるふると首を振った。

「水野くんとなら、大丈夫な気がしたから。良い?」

「勿論どーぞ」

彼の返事に結城は立ち上がってコンポにCDを入れた。

再生ボタンを押す。

「っ……」

流れてきた音楽に動揺する。慧くんと一緒に聴いた歌、初っ端から思い出がある曲だった。

「結城さん?大丈夫?」

「うん」

結城は席に戻ってケーキを口に運んだ。

ふと思い出してしまう。

だけどぐちゃぐちゃになったケーキの姿はなく、食べかけのケーキと本物の甘さが口にあった。

「大丈夫かも」

ぽつりと零した言葉に、水野は首を傾げた。

「今までは、思い出してたけど……大丈夫かも」

バックではスローテンポなミディアムバラードが流れている。

懐かしいとか、悲しいとか。漠然とした感情は心の中をまだ占領はしているものの、取り乱す程のものでもなくて。

「良かったじゃん」

そう言った水野に、嬉しそうに笑った。



思い出に変わっていくのが怖かった。だからいつまでも引きずって、後ろばかり見ていた。

だけどもう大丈夫だ。

どんなに懐かしい、思い出深い曲が流れても、もう思い出にしかなりようがなかった。

あの頃の縋りたい記憶や景色が思い浮かぶ。だけど現実に目をやれば、ニコニコとした水野がいた。

それが"現実"だと、もう結城には理解出来ていた。

(こういうこと、ね)

黒城が言っていたこととはこういうことだったんだ。彼女はそう気付いた。



半缶飲んだ結城は案の定酔い、最終的に「もうだめ!」と水野に取り上げられてしまった。

「えー、まだ飲み足りなあいー」

舌っ足らずな言葉を放ちながら、水野に甘えてくる。彼は溜め息をついて、残りを一気飲みした。

「あー」

「もう寝たらどう?俺はそろそろ帰……って、何してんの」

とろん、とした目できゅっと服の裾を掴んでいた。それに可愛いと思いながらも水野は指を解いた。

「ちょ、何……っ!」

ぐい、と胸元を引っ張られ、前につんのめる。

ちゅ、と柔らかい音。

不意打ちに水野もびっくりして数秒硬直状態だった。

だがその後すぐに聞こえた寝息に、ほっと胸をなで下ろす。


「おやすみ、未来ちゃん。……今のことは忘れてね。いつか俺は君の前からいなくならなきゃいけないから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ