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忘れさせ屋  作者: kanoon
14/22

原因


水野と再会したあと、結城は少しずつ慧が居なくなる前の生活を取り戻しつつあった。

黒城はそんな彼女を見て舌を巻いた。

「流石忘れさせ屋だ。もう大分外にも慣れたし、パニック障害も落ち着いてる。なにより、壁が薄くなった」

「それは良かった」

忘れさせ屋の事務所でコーヒーを飲みながら、彼女は水野に言った。それに彼は微笑みを浮かべる。

「やっぱり大切な人になっちゃったのかな、水野くん」

「それは困るんだけどね……」

「恋愛禁止、か」

黒城は、強い光を宿した目を水野に向けた。あまりにじっと見つめるから、彼はたじろいだ。

「もし相手が好きになっちゃったら、どうするの?」

それには隣で会話を聞いていた鈴木が答えた。

「どんな手を使ってでも忘れさせるよ。時には冷たく当たるとか」

「または別れさせ屋にバトンタッチするとか」

鈴木の言葉を継いで、水野も答える。

「あとはそーだな、結城さんには通用しないと思うけど、夢を語るとか」

「それで、海外留学のフリをする、と」

黒城の言葉に、二人はコクコクと頷いた。

「昔、冷たくして、浮気して、毎晩遊んでってして、向こうが諦めて別れるまでやったよ」

「酷い……」

水野の告白に、黒城は本気で引いたようだった。軽蔑の色が淡く宿る。

それに鈴木も、

「あれはやりすぎだったなあ」

と笑いながら言った。

「俺だって好きでそうしたわけじゃねえし!結構辛かったんだからな」

「優しいもんね、純くんは」

その言葉に、それもそうか、という風に黒城は相槌を打った。

「信用しろって」

にやっと笑った水野は、黒城の肩を叩いた。

「はいはい、信用してるよ」

黒城ものっかって言う。


突然、「あ」と声があがる。

「私お得意様の予約が入ってるんだ。もう行くね」

鈴木はカバンにスマホや小物をしまうと、席を立った。

「いってらー!」

「いってらっしゃい、加奈さん」

黒城と水野も手を振り、鈴木は事務所を後にした。

「あの二人、お似合いだなあ」

なんて、出てからクスクスと笑いながら依頼人に電話を掛けた。



「慧くんと出会う前の彼女、どんな子だったの?」

無くなった二人分のコーヒーカップに、水野は中身を注ぎながら問いかける。

「んー、別段今と変わってるわけじゃないけど――あ、ありがとう――今より友達は多かったかな。割と活発というか、行動力もあったし。人を惹きつける子だった」

「へえ」

「でも依存しちゃうんだよね。私とか、慧くんとかに。私もそんなに一緒にいてやれるわけじゃなかったけど、友達としては他にも依存してて」

「うん」

「でも慧くんに会って、付き合ってから慧くん一筋。彼氏ってデカいんだなって思ったよ」

一旦一息置く。黒城は丁度良い温度になったコーヒーを口に入れた。

「これじゃいけないって見てて思ったけどね。寂しがりに拍車がかかって、なんかもう、見てらんないって」

「うん」

「慧くんに『甘やかさなくていいから』って言ったの。束縛激しすぎて彼の時間奪ってる気がしたから。そしたら『大丈夫』だって。『俺も傍に居たいし、そうやって求めてくれるのも嬉しい』って」

「偉いというか、凄いというか」

俺には無理かも、という水野に、当たり前じゃんと黒城は笑う。

「もし、別の理由で亡くなったなら、あそこまで落ち込まなかったと思う」

「え?」


「慧くんが死んだのは、未来の所為なの」


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