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忘れさせ屋  作者: kanoon
11/22

遠く

(あんなこと言わなきゃ良かった。最後になるくらいなら)

そう思って俯く。

結城はある店の前に立ち止まった。

水野と最後に言葉を交わしたレストランの前で。



この日、結城は黒城に呼ばれていた。「元気がないって聞いたから、会いたい」と言われ、ある店に行くことになった。


『外の空気吸うついでに、大学行ったら?別に馴れ合う必要もないと思うし。』

そう水野に優しく諭されてから、ほんの少しではあるが出席日数を増やしていっていた。

そこで同じ学科の友達が心配していたのだった。


「さおり、急にどうしたの?」

黒城は結城に一切水野の行方は伝えなかった。そして彼女自身も結城と接触する機会をあまり持ち得なかった。

「未来、元気?夏帆ちゃんから元気ないって聞いて、心配したんだ」

「え?大丈夫だよ。大学も少しずつ頑張って行ってるし」

黒城は穏やかになった笑顔を見て安心した。

何度か水野のことを聞かれたときは、もしかして傷付いているのかと思っていた。だがこうして対面すると、そうでもなさそうに見える。

「やっぱり、教えてくれないんだよね」

ふと結城が呟いた言葉が、二人の空気を重くする。

黒城は困ったように目線を巡らせた。

「連絡、とってみたら?」

「……出来ないよ」

黒城の提案に、下唇を噛む。

結城は目の前のパスタを見た。前回水野と来たときと同じもの。

「会って謝りな?確かに純くんは大丈夫だって言ってたけど」

「そう、だよね」

でも怖いんだ、と零す。

黒城は「大丈夫」とは言えなくて、口を閉ざした。

無言で食事を進めていると、黒城が突然ニッコリ笑って言った。

「そうだ!ライブのチケット当たったんだけど、一緒に行かない?未来の好きな人たちの」

「えっ!?行く行く!」

女子らしく目を輝かせて話題に乗る結城。黒城は空気を変えられことにほっと溜め息をついた。


「またメールする!」

「ライブ楽しみにしてるね!」

笑顔で手を振り合った。

結城は久々に気分も良くて、明日からまた頑張れる気がした。



それから結城は今のところ2週間、休まず講義を受けていた。

待ちに待ったライブも一週間後ということで、いつも以上にニコニコとハイになっている。

そんな中、大学の帰り道。

ふと反対側の歩道を見る。

「っ!?」

良く見知った顔。"慧"と同じように突然消えた……

「純くんっ」

でも彼は笑顔で女性と歩いていた。一目で分かる、違う世界の人。

普段とは打って変わった整った雰囲気に、結城は足が竦んだ。横断歩道の手前で立ち止まったまま、彼らを目で追った。

その彼らが出てきたのは、有名な大企業で。

(社長令嬢の……婚約者、とか)

結城はその考えに何故か胸が軋んだ。思えば知らないことばかりなのに、優しくしてくれるからって甘えてた。

路肩に止めてある、いかにもな車に乗り込む。

そのとき、水野と目が合った気がした。直ぐに顔が背けられ、彼は車に乗った。


「近くにいるなら、連絡くらいしてくれてもいいのに」

自分からじゃ出来ないのを棚に上げて結城は思った。


気付けば、始めから見なかったかのように景色は平然としていた。


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