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第4話

 境 菜摘の家は、この町の全体を見下ろせる高台の上にそびえるように建っている。

境家は、この町の中心となって常にまとめ役を果たして来た旧家だ。

戦前には付近の農家ほとんどを使う農場経営者であり、戰後に進駐軍が行った農地解体によって資産が分散させられた後も町の町長や組合の長を勤めてきた。

菜摘はこの家で、祖父と祖母、それに母と暮らしている。

父と兄は、それぞれ別々に東京で暮らしており、父は霞ヶ関で役所勤め、兄は駒場の大学に通っている。

祖母や母は菜摘を東京の学校にいかせなかった。

菜摘も父や兄のように東京で暮らしたいと思った事は無かった。

何にも無い町だという人もいる。同級生の中にも大学進学をきっかけに都会へ出て行く者もいる。

でも菜摘は、人一倍この町に愛着を持っていた。

特にこれからの夏の夕陽は最高だ。丘の上から海を見るとすぐに小さな答高島(とうたかじま)が見える。

夏の日の入りでは、夕陽は海と空を真っ赤に染めて、この答高島の脇に沈む。 

島は夕陽に焼かれて黒い塊になり沈む太陽の赤と見事にシンクロする。

菜摘は丘の上からの景色を見て育った。

日が暮れて空が蒼く霞む頃には、点々と家々の窓に明かりが灯るのを見て育った。

工場の終業の頃には帰宅する者達の動く様子がまた明かりとなった。それは町の営みを手のひらサイズで俯瞰してきた事になる。

境家の人間はそうして町全体を愛する対象として育つのだ。



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