第27話
「さいとぉ! おはよう」長谷が父親譲りの大きな声で言った。菜摘はその後ろで小さく手を振っていた。
斉藤はバケツを地面に置いて二人に手を上げて答えた。
二人はたくさんの荷物を抱えていた。それは白く塗られた木でできたものだった。
「見ろよ斉藤。これは柵だ。この向日葵の畑を囲むように柵を作ろうと持ってきたんだ」
長谷が得意気な笑顔で言った。幾つもの木の柵を担いだ長谷の顔は汗が噴き出していた。
「そうだったのか、悪いな、本当にありがとう」そういうと、その顔を見て長谷は笑った。
「俺も受験勉強ばかりじゃストレスが溜まるんだよな。」
斉藤もこの向日葵畑に柵があればいいと思っていたが一人でできる事には限りがあった。
実際にはそこまで手が回らなかったのだ。
見ると菜摘はTシャツにジーンズという格好だった。
黒いTシャツから透き通るように白い腕が伸びていた。
「校門の前まで長谷君のお兄さんにトラックで運んでもらったのよ」菜摘が言った。
菜摘とは夏休みに入ってしばらく会っていなかった。
「そうだったのか」向日葵畑の事は長谷家の者にまでは言っていないことだった。
隠す必要はないのだが、あえて言うまでもないと思っていた事だった。
「まぁ、一応ラグビーグラウンドの整備に使うからって事にしてあるんだ」
長谷が言う。明るくて元気というだけではない男だった。
「スポンサーは親父なんだ。受験生だから気遣ってくれるみたいなんだ。柵もすぐに買ってくれたよ」
金に関して迷惑を掛けられないと思ったが、ラグビー部への寄付という事になってるので金は要らないのだと長谷は言った。
気温が上がって作業が辛くなる前に早めに済ませるために三人は作業を始めた。
斉藤と長谷が、スコップで穴を掘った。ざっくりと大きく斉藤が掘ると長谷が大きさと間隔、深さを合わせる。
そこに菜摘が柵を立てる。まっすぐに支えていると長谷が柵の足の回りに土を入れた。
柵は薄い木を組んで軽く低く作ってあり、囲って立てたとしても墓地から向日葵の花が見えなくなることはなかった。
「はい、もう少しね、ちょい右かな?」長谷は作業を進めるのが上手だった。
柵の上下を間違える菜摘の不慣れをからかったりして笑わせたりした。
斉藤もそれを見て笑った。




