第2話
この町は海と山の境にある。地方都市という程は大きくないが、名も無い田舎町という程には小さくもない。より海に近い、つまり町の低い部分には大きな半導体工場があってそれを囲むように幾つかの小さな町工場がある。少し離れた海沿いは住所で言うならば隣の市になるのだが工場で出来上がった製品はそこにある港から海外へと輸出される。町には他に産業といえば山の手で少しばかりの蜜柑農家が残っているだけで多くは主が高齢化して年々経るごとに切り売りされて宅地になっていった。
要するに農業から先程の世界的な半導体メーカーの工場がこの町の飯の種に移り変わっていく、その過程にあるということだ。
農地から転用された新しい宅地には所得の高い者が住むようになり、大抵は例の半導体工場の中で背広を着て働くような者達だった。そこで作業服を着て働く従業員はもう少し低い土地の部分に暮らし、工場の脇を流れる川でちょうど町は山側と海側に分けられていた。
クラス委員の長谷 隆の家は海側だ。親父は工場の2代目で半導体工場に部品を納めている。昔は自動車の部品を作っていたが長男が家業を継ぐ意思をみせると、これから先も需要がある半導体工場への仕事に切り替えた。隆は次男だ。
町には高校は2つきり。海側の工業高校と山側の普通科の高校だけ。隆は高校を出たら都会の大学に入ろうと決めていたから工業高校に進んだ兄とは違う山側の高校に進んだ。
ラグビー部に入ると9人しかいなかった部員で自動的にレギュラーになった。しかし隆は部員の勧誘を始めて2ヶ月で部員を20名にすると新品のボールを10個ばかり学校に購入させる事に成功した。父親が工場の仕事を取って来ては、仕事場の機械を入れ替えていく様を真似たのだと隆は言った。
正直で自分の意見を持ち、目標と約束の実行力がある隆はそれ以来、今日まですっとクラス委員であり続けた。