第13話
斉藤祐樹が相談を持ちかけると言ったことが不思議でならない。一言でいうと不似合なのだ。
長谷隆は何度か斉藤の顔と菜摘の顔とを交互に見やってしまった。
「悪いけど着いて来てくれないか?」 斉藤は、長谷と菜摘とを連れて歩き出した。
ついに、斉藤の休憩時間の謎が判る。菜摘は一番後ろを歩いた。でもそれは謎なんだろうか。毎日の事で慣れっこになっていたし、休憩時間に斉藤がいなくなる事が当たり前なるとあれこれ詮索しなくなっていた。
その行動がいつものこと、になるまで続けた事で謎が薄まるようだった。
しかし、前を歩く長谷と斉藤はいつもよりちょっと早足である。長谷は謎を知りたがっているのだろう。
実に長谷は興味を失っていない。
長谷が思うだけでなく、菜摘も含めて誰の目から見ても斉藤祐樹は自分の世界を持っている。転校してくる前にどんな風に暮らしてきたかはよく分からないが普通の高校生にしてはちょっと大人びていた。
それは、煙草を吸っているとか、酒を飲んだ事がある(のではないか)という事を言いたい訳では無い。
長谷は自分たち高校生がまだまだ子供だと思っている。それは自分自身を説明したり表現するときによく分かる。
自分の事を人に説明するために好きな服装や、好きな歌手、映画が何か、部活は何をしているか。その類型で自分はこういう人という説明をするのはまだ自分自身の中に人に説明する何物も無いからだ。
しかし、斉藤は自分の話をあまりしなかった。転校してきた自分の居場所をクラスメートとの関係性の中で位置づけるなら、自分の種類を曖昧ながら説明したりするはずだろう。だが斉藤は全く気に留めるようにみえない。
長谷は、斉藤が自分自身をどう思っているのか知りたかった。
斉藤はやや早足で廊下の奥の鉄の扉を開けた。そこは非常階段でふだんは誰も使用しない。
内側から扉にバーを通して開かないようされている。
鍵が掛かっていない事すら長谷も菜摘も気にも留めなかった。
斉藤は簡単にバーを引き抜いて外へ出た。
長谷も菜摘もこれまで一度も来たことが無かった。
生徒も職員も誰にも利用されていない学校の敷地の一番奥に通じる通路だった。
途中から舗装されておらず、雑草が伸び放題になっている。
山を切り開いて建てられた学校はすぐ裏に林があり、学校の敷地として植林された場所との境界は曖昧だ。
山なのか学校内なのか区別の付かない場所になってくる。
錆びたフェンスが境界を表しているようだった。
それは一部が朽ちており簡単に林に入っていけた。斉藤は一人分の幅しかない獣道を登っていく。
長谷も菜摘も斉藤を止めようとしたが、声をかけてもずんずんと奥へ歩いて行ってしまう。
声が届くようにと、後を追っていくとそれだけ林の奥へはいってしまう。そして斉藤は湿って緩い土の上を歩いていき、長谷と菜摘は声をかけながらさらにまた奥へと後を追わざるを得なかった。
実際には林の奥といってもそれほどではない。歩き慣れないからそのように感じるだけだ。
しばらくして、斉藤は陽当たりの良い草っぱらに出た。
2人がそれを追う。
「ほら、見てくれよ、ここなんだ。」
斉藤がこちらを見た。長谷と菜摘は数えきれない程たくさんの向日葵の花の前に立っていた。
広さは学校の教室の広さ程度しかない。
しかし、その林の樹々が途切れた平坦な場所が黄色い向日葵の黄色で埋め尽くされていた。
草っぱらなんかじゃなくヒマワリの群生地だったのだ。
「うわぁ、すごい」菜摘が思わず口にした。大輪の向日葵の花がこっちを向いて揺れていた。
長谷も、こんな場所が学校のすぐ裏にあるなんて知らなかったので驚いていた。
「相談ていうのはさ、この向日葵の事なんだ。」
斉藤が、またニヤッと笑った。




