あまりモノ同士の恋愛模様
「しょっぱっ」
「見てらんねー!」
中学最後になるかもしれない男子バレーの試合の帰り道、紗倉楓は梅干しを食べたような顔をし、楢崎瑆大は目を手で覆ってさっき見た光景を思い出していた。
楓に、ぜってー勝つ試合見にこいよ! と言ってきた幼馴染みと男バレ中学最後になるかもしれないから一緒に見に行こう! とお願いしてきた親友が人三人分の距離を保ったまま、向かい合わせで話している。
「あの距離なんなん?」
「離れてるのに向かい合わせ? しかもあの顔」
「デレデレ」
「照れすぎだろがっ」
そんな二人から20メートルほど離れた所で待っているのが楓と楢崎だった。
ちなみに楢崎の幼馴染みが楓の親友の小森日和、照れて顔を赤くしながら前髪を仕切りに触っている。そして向かいでデレた顔でうれしくて跳ねそうな身体を抑えて変な動きをしている奴が楓の幼馴染みの宮地環太、男バレのエースだ。
しばらく待っていたが日和のポニーテールはゆらゆら楽しそうに揺れて動く気配はないし、環太の変な動きも止まる気配がないのでほっといて帰る事にした。楢崎も同じシャトルバスに乗るから旅は道連れだ。
「いつから付き合ってんの?!」
「しるか! くねくねしやがって、分かりやすすぎだろっ」
「それな!」
ぽんぽんと文句ばかり出てくるがはっきりいって負け犬の遠吠えである。中三の一学期で出来るカレカノは勝者の証、部活を引退し、待ったなしの受験地獄を乗り切るのに恋のスパイスがどれほど助けになるか。
ちなみに今日の試合は第一試合は余裕で勝ち、続く第二試合は前回優勝校をフルセットの末、くだして勝利をもぎ取ったので楢崎と環太の引退はまだ先だ。来週、準決勝と決勝がある。
「あ、ちな来週、うちらいけないよ?」
「コンクールだろ? 知ってる。勝つから、県大見にくればいいよ」
「すご強」
「当たり前」
当たり前なんだ、と頭ひとつ分も背が高い楢崎の横顔をちらっと見た。
環太がレフトのエースでバシバシスパイクを打つ人だとすると、楢崎は環太にボールを上げるセッターだ。環太家族に付き合って小学生の時からバレーボールの試合を見てきた楓からすると、楢崎のトスが上手いから環太たちアタッカーが気持ちよくスパイクを打てているように見える。
「トス、良かったもんね」
「大輝や透のレシーブが良かったからな、上げやすかった。次も勝つ」
「だね! 行けないけど応援してるよ」
「お前もな」
「ん、ありがと」
楓と日和は吹奏楽部に所属していて、来週地区大会のコンクールがある。楓の楽器はトランペット、日和はホルンで同じ金管同士だったのもあり仲良くなり、今では何でも話せる親友、だと思っていたのだけど。
「あーあ、教えてくれてたら環太のダサダサな所いっぱい言っといたのにな」
「へぇ、幼馴染み取られるより親友取られるのが嫌なんだ?」
「当たり前。自主勉も花火大会も一緒に行こうねって言ってたのにさー」
中三の夏休みなんて無いに等しい。部活、部活、大会が終わったら即、受験勉強。学校も無いからグチを言い合える場所もないし辛い夏なのだ。そんな中、日和と一緒に行くつもりだった花火大会は唯一の楽しみだった。二人で浴衣着ようね! って約束もしていたのに。
がくっ、とうな垂れた楓のおかっぱ頭に、ぽんっと大きな手がのった。
「日和と環太にいって、四人で行けば? 俺も付き合うし」
「う……うん??」
(四人でっていってもきっとあの二人はどこかで別行動になるから、楢崎、私と二人になっちゃうけど……え? どうゆう……そうゆうこと?)
自分と一緒に屋台回ってもいいってこと? と楢崎の方を見ると楓の方は見ずにまっすぐ前を向いて歩いている。でも耳が赤い。
「え、楢崎、私のこと好きなの?」
「やめてっ! 直球すぎるだろっ!」
悲鳴のような声がして頭に置いてあった手がぐしゃぐしゃと楓の髪の毛をかきまぜた。
「ちょー!! 楢崎こそやめてよっ ひどっ!!」
「お前の方がひでぇ! 試合でもこんな緊張した事ねぇのに! 殺す気かっっ」
ヘッドロックまがいに身体を引き寄せられ、気がついたら腕の中にいた。ドッドッドッドッと初めて聴く心臓の音。顔がニヤけてしまう。マジか。
「わたし、めっちゃ情緒ないから、これからもこんな風にはっきりいっちゃう人だよ?」
「知ってるわ、体育祭の時もダンス下手な奴らをボッコボコにしながら最後まで面倒見てたろ。あと女子には若干優しい」
「そら女の子はダメなとこはっきり言うとめっちゃ弱いから優しくせな」
「そういう男前な所もポイント高い」
「ポイントて」
「ごめん、照れた。そういう所もめっちゃ好き」
ゴフッ……! と変なところに息が入って悶える。
「やば、直球しぬる……」
「だろ? 反撃してやったわ」
一周回って開き直った楢崎を見上げる。にやにやしている顔が真っ赤だ。さすがキャプテン、不利な状況でもすぐに立て直す。真っ赤だけど。
「あーあ、楢崎に一本取られたー」
「そらこんなチャンス逃すかよ。二人きりになる時なんてなくね?」
「確かに」
楓は日和と楢崎は環太とお互いクラスは違うけれど部活は一緒だから放課後は常に一緒だ。これからは日和と環太が並んで歩いていくのだろう。そして必然的に楓と楢崎も。
「な、俺たちも付き合うでいい?」
楢崎はちょっとだけ眉をハの字にして伺うように楓を見た。少しだけ不安そう。
(いや、言うよ? 私だって。環太応援してたら必然的に視界に入ってくる楢崎がどれだけカッコいいか。アタッカーが目立つバレーの中でセッターがどれだけ大事なポジなのか、見てるだけでもわかるもん)
最初は仕方なく環太の応援に行ってたのに、いつの間にか楢崎を目で追うようになって。
明らかにアタッカーのミスの時にも自分のトスが悪いようにごめんって手で謝る楢崎が、いいなって、ずっと思ってた。
「……うん、いいよ……仕方ないから……」
いった瞬間、恥ずかしさと余計な事いった後悔とで楢崎の顔を見れなくなって胸元に顔をくっつけてぐりぐりする。
「うわぅ、おまっ、ちょっ、ちょっと!」
(わたし! なんでこんな時にまで! すきって言えないの?! もうやだ!)
「ぐりぐりやめって、おい、もう! ちっさ、かわいすぎだろ……」
楢崎はまた楓の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
「いつか好きって言わせてみせるわ、俺のこけしちゃん」
「…………っ……っ……こけしっていうなっ」
「はー、可愛い。やっと俺のもん。これからよろしくな!」
「……ん……」
元気印の楓が頬まで真っ赤にして、小さな声で応える。初めて見る楓のもじもじした姿に楢崎はやたら可愛いを連発して最終的にわき腹をパンチされる。
そんな二人をアリーナの柱の陰から見守っていた幼馴染みたちはハイタッチをしてバスを一本遅らす為に自販アイスを買いに戻っていった。
ぐりぐりしていた楓をみて、日和の方からそっと手を繋いでくれてさー! と環太がノロケて二人のことを見ていたのがバレたのは次の日の部活の帰り道。
四人中三人からボッコボコにされてヒトリぼっちで三人の後を追う羽目になるエースなのであった。




