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満月の湖畔

湖畔は、明るかった。


満月が、空の真ん中にあって、

湖はそれをまるごと映している。

闇はまだあるけれど、もう怖くない。


こどもは、立ち止まった。

胸いっぱいに息を吸う。


「……ここ、しってる」


声が、夜にほどける。


遠くに、灯りが見えた。

人のいる場所。

帰れる場所。


わたしは、そこで止まった。


これ以上、前へ行く必要はない。

光は、もう道を照らさなくていい。


こどもが、振り返る。


「……ありがとう」

こどもは帰って行った。

見えなくなるまで見送る。



その言葉は、

わたしの光よりも、ずっとあたたかかった。



わたしは、最後に一度だけ、強く光った。

夜に、小さな円を描くように。





それから、湖畔の草の上に降りる。


風が、やさしく吹いた。

水の音が、近くで呼吸している。


体が、軽くなる。


わたしは、思う。


恋をしなかったこと。

それは、欠けていたことじゃない。


わたしは、

だれかの夜を、ひとつ越えさせた。


それで、十分だ。


満月が、湖に揺れる。

光と光が、静かに重なる。



わたしの光は、もう、瞬かない。



でも、夜は暗くならなかった。


こどもは、歩き出す。

振り返らずに。


それを見届けて、

わたしは、そっと息をひきとった。


満足した笑みとともに。


湖畔は、静かだった。



静かで、あたたかくて、

ちゃんと、終わっていた。



蛍は恋をしなかった。

光を導く一生をえらんだ。

蛍は恋をしなかったは番外編を含めて

終わります

読んでいただきありがとうございました

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