つまづく夜
森は、少し開けてきていた。
でも足元は、まだやさしくない。
太い根が、地面をうねるように這っている。
落ち葉が積もって、境目を隠していた。
こどもは、少し安心したせいか、
歩く速さを、ほんの少しだけ上げた。
その瞬間。
「わっ——」
足が、根に引っかかる。
身体が前に傾く。
こどもの手が、宙をつかんだ。
わたしは、反射的に光を強くする。
瞬かせる。
ここにある、と叫ぶみたいに。
こどもは、地面に手をついた。
膝が、落ち葉を押しのける。
どさ、という音。
泣くかもしれない。
そう思った。
わたしは、こどものまわりをゆっくり回る。
低く、近く。
根の形。
枝の位置。
ちゃんと見えるように。
こどもは、しばらく動かなかった。
肩が、小さく上下する。
それから、ゆっくり顔を上げた。
「……いたく、ない」
声は震えていたけれど、
泣き声にはならなかった。
わたしは、光を弱める。
もう、叫ばなくていい。
こどもは、膝についた土を払う。
自分の手を、確かめる。
「だいじょうぶ……」
それは、わたしに言った言葉じゃない。
自分に言った言葉だ。
立ち上がる動きは、さっきより慎重だった。
でも、後ろは振り返らない。
つまづいたことが、
止まる理由にならなかった。
わたしは、少しだけ誇らしかった。
導くって、支えることじゃない。
立ち上がれる夜を、用意することだ。
光は、また前へ進む。
こどもは、ついてくる。
夜はまだ続く。
でも、この足取りなら、大丈夫だ。




