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泣きそうな夜

森は、進むほどに音を増やした。


足元で、小枝が折れる。

どこかで、羽ばたく音がする。

見えない何かが、すぐそばを通り過ぎた気配。


こどもの歩幅が、少しずつ小さくなる。


「……ねえ」


呼ぶ声が、わたしに向く。

でも、返事は返せない。


その代わり、わたしは光を揺らした。

点じゃなく、円になるように。

包むみたいに。


こどもは、胸の前で手をぎゅっと握った。


「まちがってたら、どうしよう」


その言葉は、夜より深いところから落ちてきた。


森の中では、正しい道も、まちがった道も、

見た目はほとんど変わらない。

だから、人は不安になる。


足が止まる。

肩が、小さく震える。


泣く前の沈黙。

声がこぼれる、その一歩手前。


わたしは、こどもの目の高さまで戻った。

前に行かない。

後ろにも行かない。


ただ、そこにいる。


光は、強くしない。

でも、消さない。


——だいじょうぶ。


言葉にできないかわりに、

光で、息を合わせる。


ひとつ、ふるり。

もうひとつ、ふるり。


こどもの呼吸が、少しずつ揃ってくる。


「……ひかり、いる」


そのひと言で、わたしは満たされた。


涙は、こぼれなかった。

目の奥で、きらりと揺れて、止まった。


泣かなかったことが、強さじゃない。

泣かなくてすんだことが、救いだ。


わたしは、また少し先へ進む。

光を残して。


こどもは、遅れてついてくる。


森はまだ暗い。

でも、夜はもう、独りじゃなかった。


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