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始まりの光

湖畔は、静かすぎた。


水は黒く、空を映しているのか、深さを隠しているのかもわからない。

風が吹くたび、草がかすかに揺れて、音というより気配だけが残った。


わたしは、その湖のそばで光っていた。

強くもなく、弱くもなく、ただ――そこにいる証みたいに。


今夜は、誰にも会わずに終わると思っていた。

それでいい、とも思っていた。


そのとき。


小さな足音が、土を踏みしめる音が、

湖とは反対のほうから近づいてきた。


「……だれか、いるの?」


震えた声。

闇に溶けそうな、泣くのをこらえた声。


わたしは、思わず光を少しだけ強くした。

月よりもずっと弱い、星よりも低い光。


草むらが、ふわっと照らされる。


そこにいたのは、こどもだった。

大きな目であたりを見回し、足元を確かめるように、一歩、また一歩。


不安が、夜よりも濃く漂っていた。


わたしは思った。

——ここは、迷う場所だ。


湖畔は、始まりと終わりが重なるところ。

一歩まちがえれば、どこへでも行ってしまう。


だから、わたしは決めた。


前に出すぎないこと。

消えないこと。

ただ、道があるよと知らせること。


光を、もう一度だけ、ふるわせる。


こどもが、わたしを見つける。


「あ……ひかってる」


その声は、さっきより少しだけ、軽かった。


わたしは、静かに空を回る。

森のほうへ、細い光の線を描くように。


——だいじょうぶ。

——ついてきて。


そう言えたらよかったけれど、

わたしは言葉を持たない。


だから、光る。


これが、わたしの冒険。

恋をしないかわりに、

だれかを、夜の向こうへ送るための。


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