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9 撮影会

「……自撮り、下手ですね」

「えぇ〜!?」

 とりあえず一枚、と僕のスマホを使って猫目先輩が自分で撮影した写真は、写真を撮り慣れていない僕が見ても、酷い有様だった。

 まずピントが合わずにブレているし、指が写り込んでいる。

 おまけに被写体は目を瞑っていた。

 写真下手の特盛三点セットって感じだ。


 こんな自撮りをSNSに上げるような人間はまずいない。

 でも、猫目先輩単体しか写っていないのに、自撮りの写真が一枚もないっていうのは、不自然なんだよなぁ。


「先輩! 自撮りの練習しましょう!」

「うえぇ? そんなに下手?」


 女子は全員、自撮りが上手いという偏見を僕は持っていた。

 猫目先輩はあまり自撮りをしないようだ。


 これだけ見た目が良いんだから、自己顕示欲があってもよさそうなのに、と、ここまで考えて気づいた。

 そもそもSNSをやっていないから、自己顕示欲を出す場所がないのか。


「ねぇ〜! 自撮りの練習って、なにをすればいいの?」

 猫目先輩が内カメラ状態のスマホを横に構えて、右に左に動かしている。


「そうですね……。自撮り云々の前に、そもそも撮影が下手なので、まず、指をカメラに入らないように持って……」

「どこ持てばいいの!? ご主人様、持ってよ〜!」

「レンズと反対側を持つんですよ」


 お手本を見せるため、僕がスマホを持つと、猫目先輩がぎゅっと密着してきた。

「わ、先輩、近いです」

「でも近づかないと、わからないよ〜」


 いい匂いがする。

 どんどんうるさくなる心臓の音が、猫目先輩に聞こえないか心配だ。


「ちょっと、一旦離れ……」

 ──パシャ!

「え?」

 シャッター音が、僕のスマホから鳴った。


 僕はなにも操作をしていないから、必然的に、撮ったのは猫目先輩ということになる。

 しかし、彼女も訳がわからないといった表情をしていた。


「今、撮れちゃった? なんで? 音量ボタン押しちゃっただけなのに」

 なるほど。

「僕のスマホは、カメラモードで音量ボタン押すと、撮影できるんですよ」

「えー! 知らなかった! 便利ー!」


 新たな知識を身につけて驚く猫目先輩の横で、僕は撮れた写真を確認した。

 笑顔の美少女と、間抜けな表情の僕のツーショット。


 ……宝物にしよう。


 バレないように、そっとホーム画面の背景に設定して、僕は猫目先輩に向き直る。


「持つ位置を決めたら、ブレないようにしましょうか。さっきはスマホを横にしてましたが、縦にして、下のほうを両手で持つとか」

「なるほど、なるほど!」


 素直な猫目先輩は、両手でスマホを持って、くるくる回りながら、自分が可愛く撮れる場所を探す。


「光が当たって、上から撮ると良いらしいですよ」

「ほほう!」

 SNSで流れてきた知識を披露すると、猫目先輩は感心したようにスマホを上に向けた。

 ちょうど昼間の自然光が、キラキラと猫目先輩を照らしている。


「ここだぁ!」


 ラスボスの弱点を発見して斬りかかる勇者のような声をあげて、猫目先輩はシャッターを切った。


「見て! これ、めっちゃ盛れてない!?」


 そう言って、見せてくれたのは、上目遣いの猫目先輩の写真だった。

 太陽光が彼女の肌色を綺麗に照らしていて、さっきの写真の倍以上可愛い。


「良いんじゃないですか? あとは他撮りですね。僕が撮りますよ」

「いや、もうちょっと撮りたい!」


 猫目先輩は僕のスマホを返してくれなかった。

 しばらく色んなポーズで撮影しては消去を繰り返した彼女は、十何回かのシャッター音のあと、ようやく返してくれた。


「じゃあ、ポーズはお任せするんで……」

「ご主人様の好きなポーズでしてあげるよ!」


 好きなポーズ?

 一瞬、猫の手招きをしている猫目先輩が脳内を通り過ぎていった。

 いやいや、何を考えてるんだ、僕は。

 物理的に頭を振ることで、変な想像を追い出す。


「ご主人様?」

 不可思議な動きをする僕を、不安げに首を傾げる猫目先輩。

 僕は変態的な答えにならないよう、頭をフル回転させた。


「……すみません、そうですね。フェンスに手をかけてるのとか、どうですか?」

「いいね!」

 咄嗟に出てきた案にしては、なかなか良かったと思う。


 確か、CMでやっていたアイドルソングのCDカバーの構図だったはず。

 アイドル並みの顔面偏差値を誇る猫目先輩なら、きっと様になるだろう。


「こんな感じでいいー!?」

「はい、オッケーです」


 猫目先輩は屋上のフェンスに片手の指を軽くかけて、横にいる僕に振り返った。

 僕が見たことあるアイドルのジャケ写は、無表情で曲の雰囲気を出していたが、猫目先輩は薄く笑っていた。


 四月だったら、きっと、桜に攫われてしまうんだろうな。


 良かった、今が初夏で。


 そう思えてしまうほど、猫目先輩の微笑みは、崩れてしまいそうな脆さがあった。

 彼女をここに閉じ込めるように、僕はシャッターを切った。



 最初は自撮り他撮りそれぞれ一枚ずつで十分だと話したのだけれど、猫目先輩が自撮りにハマり、合計五枚が僕のスマホの写真フォルダに格納された。


「五枚あれば、十分ですね!」

「練習の成果だ!」

 ニコニコとピースサインをする猫目先輩は、僕のスマホの画面にも映し出されている。


 学校一と称される美少女の先輩が、なんの取り柄もない僕のスマホに、笑顔を向けている。

 人差し指で画面をスワイプすれば、また違う表情を見せる猫目先輩がいる。


 ……可愛い。


 胸がきゅうと締め付けられるのを無視して、僕は猫目先輩に声をかける。

「午後授業の合間にアカウント作っておきますね」

「ありがとう!」

 昼休みが終わるチャイムに後押しされ、僕と猫目先輩は解散した。


 教室に戻る猫目先輩の後ろ姿を、僕はまじまじと見つめてしまう。

 彼女は後ろ姿さえも、可愛らしい。

 彼女とすれ違う男子生徒が、何人も二度見してしまうほどに。


「秋本、デートしてくれるといいけど……」


 クッキーを食べてしまった罪滅ぼしとして、僕はSNSアプリを開き、「新しいアカウントを作成」の項目をタップした。

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