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18 告白

「おはよ、ヒイラギ!」

「……おはようございます」


 眩しい。

 笑顔が、とても眩しい。


 いつも通り校門で僕を待っていた猫目先輩は、僕を勝手に名付けたあだ名で呼んだ。

「ん!」

「お持ちします」

 差し出される重たいスクールバッグにも、もう慣れた。


 僕は猫目先輩のスクールバッグを受け取って、二人分の荷物の重さを肩に感じながら、下駄箱に向かった。

 下駄箱の扉を開けると、また、一枚の手紙が入っていた。


「……はぁ」

 さすがにもう騙されないぞ。


 朝からご機嫌な猫目先輩が、まだ靴を上履きに履き替えているのを確認してから、手紙を開く。


 ──「昼休み、ラウンジに来い。猫目には、用事があるって言って、誤魔化せ。春川」


 今回は本当に春川先輩からの呼び出しだった。

 手紙の終わりにきちんと書かれた『春川』の文字は、疑いようもない。

 そもそも、手紙とは形容したものの、手紙とは言い難い四つ折りにされた一枚のルーズリーフ。

 かつて、春川先輩が嫌がらせをしてきたときに使用していた紙だ。

 春川先輩の筆跡は知らないが、前回のわざとらしい丸文字より、ちょっと汚い字が本物の女子っぽくてリアルだった。

 僕はルーズリーフを四つ折りにたたみ直して、スクールバッグにしまった。


「ヒイラギ、行こ!」

「はい、行きましょうか」

「えへへ!」

 猫目先輩が、笑いながら、僕の腕を組んでくる。


 彼女の体温が二の腕から伝わってきて、心臓がドキンと一際大きく跳ねた。

「ね、猫目先輩!?」

「なに? どうしたの?」


 ……落ち着け。

 自分に言い聞かせる。ニヤけそうになる顔面に、力が入る。


 勘違いするな。

 この人が好きなのは、秋本なんだ。


 これは、猫目先輩にとって、スキンシップの一種に過ぎない。

 猫目先輩は、僕を信頼してくれているんだ。


「な、なんでもないです……」

「? そう?」


 猫目先輩はなんてこともなさそうに、ぎゅっと僕の腕をより抱き寄せた。

 ドキン、と心臓が一段大きく跳ねる。


「せ、先輩……!」

「ん?」

「……っ」

 その顔は、反則じゃないか。

 楽しそうな猫目先輩を見ると、なにも言えなくなってしまうのだった。



「どうして私があんたと付き合っていることになってるのか、説明してくれる〜?」

 昼休みのラウンジで、僕を待ち構えていた春川先輩は、単刀直入に言った。

 この時間のラウンジは、生徒で溢れかえっている。人目があるせいか、彼女は笑顔の仮面を貼り付けたままだった。


 それより、なぜ春川先輩がその嘘を知っているのだろう。

 春川先輩と付き合っている、という嘘を教えたのは、秋本だけだ。


「……秋本から聞いたんですか」

「まずは、質問に答えてくれるかな〜?」

「…………」


 言い逃れも、言い訳もさせてくれそうにない。

 僕は覚悟して、息を吸い込む。


「猫目先輩が秋本と付き合えるように、秋本の恋を終わらせようとしました」

「秋本が失恋すれば、猫目とくっつくと思ったの?」

「はい。可能性は上げるかな、と」

「バカじゃないの? 本当に、人間関係をパズルみたいだと思ってるんだね」


 春川先輩は呆れながら腕を組んだ。

「秋本は、私に告白してきたわよ。断ったけど」


 告白?


 想い人が彼氏持ちだと言われてなお、玉砕覚悟で告白したのか。

 僕には考えられない。

 秋本は、自分の気持ちにけじめをつけたんだ。

 でも、その真っ直ぐさによって、春川先輩に全部バレてしまった。


「だから、言ったでしょ」

 春川先輩がわざとらしく大きなため息をつく。

「あんたには、猫目を幸せにできないって」


 まただ。

 春川先輩は、そうやって、行動する前に諦める。

 

 自分で言うならともかく、己の無力さを他人に決めつけられるのは、僕はもう嫌なんだ。

 自然と、拳に力が入ってしまう。


「どうして、そうやって、なんでも出来ないって、決めつけるんですか……! やってみないとわからないじゃないですか……!」

「面倒臭いやつだな」


 春川先輩は、吐き捨てるように言った。

 その態度に、僕は煮え切らない感情になる。


「春川先輩こそ、どうして、そこまで猫目先輩に固執するんですか」

「……は?」


「いくら親友と言っても、高校が同じになっただけの友達ですよね?」

「……だから、なんであんたは、どこまでも神様気取りなんだよ」

 笑顔を崩さなかった春川先輩の顔色が、変わった。


「私は、猫目のことが好きなの──恋愛的な意味で」

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