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11 3人でデート!?

「え……? 秋本くん、来られなくなったの……?」

「はい……」

 猫目先輩の悲痛な表情を見たくなくて、僕は地面に視線を落とした。


 秋本にドタキャンされた。

 急に家族で出かけなきゃいけなくなったらしく、来られなくなった。


 文面から「本当に申し訳ない」という気持ちが滲み出ていたが、それをスマホで連絡できない猫目先輩に知らせるには、僕は待ち合わせに行かなければならなかった。


「……そっかぁ」

 諦めたような納得できないような猫目先輩の呟きを聞いて、僕はちょっとだけ目線を上げる。


 私服の猫目先輩はかなり可愛かった。

 通り過ぎる男たちが、少年からおじさんまで、皆二度見して振り返る。


 胸にリボンがあしらわれた白い五分袖のワンピースは、膝が隠れるくらいの丈で、真っ白な猫目先輩の髪色と肌にマッチしていた。

 清楚感と透明感が倍増され、消えてしまいそうなほどだ。


 いつもはストレートな髪の毛も、毛先がわずかに内側に巻かれている。よく見れば、化粧もしているようだったが、よく見ないとわからないレベルだ。まつ毛が長くなり、頬は桃色に染まり、唇は赤ピンクっぽくなっていた。

 けばくなってはいない、ナチュラルなメイク。

 けれども、確かに学校の猫目先輩よりも可愛くなっている。


 今の彼女に「付き合ってください」なんて言われたら、断れる男が地球上に何人いるのだろうか。

 今日のために、気合を入れてきたのが伝わってくる。


「ご家族の都合じゃ、仕方ないね」

 口元は笑みを崩さないまま、猫目先輩はうつむいた。

 猫目先輩は、がっかりしているし、悲しんでいるけれど、後輩である僕がいる手前、気まずくならないように、泣いて愚痴りたいのを我慢しているのが分かった。


「あらら〜、先輩との約束をドタキャンとはね〜」

「春川先輩……」


 猫目先輩の背後から、彼女の肩に顎を乗せて、春川先輩が笑っていた。

 春川先輩のタレ目が、猫目先輩からは見えない位置から、鋭く敵意を持って僕を睨みつける。


「せっかく来たんだから、猫目、私と遊ぼうよ〜」


 僕には用がないとでも言いたげに、猫目先輩を自身のほうに振り向かせた。

「…………」

 女子同士の親友二人で休日を満喫するというのなら、後輩で男の僕はお邪魔虫だ。


 帰るしかない。


 元々、秋本のドタキャンの連絡をするためだけに来たのだから、目的は達成されている。

 僕は踵を返して、猫目先輩達に背を向ける。


「三人で遊ぼ!!」


 そんな僕を、猫目先輩が呼び止めた。


 足を止めて振り返ると、さっきまで沈んでいた猫目先輩は、いつの間にかいつもの明るい表情を取り戻していた。


「春川も、ご主人様と仲良くなりたいって言ってたじゃん! 良い機会だし、三人で遊ぼうよ! ね! ね!」

 猫目先輩は僕と春川先輩を交互に見やる。


 珍しく、春川先輩は苦笑いを浮かべていた。

 春川先輩は、猫目先輩には僕への敵意を隠しているのだから。

 春川先輩が休日に僕と遊びたいわけがない、なんて、口が裂けても僕からは言えないのである。


「いや、私は興味があるって言っただけで……」

「同じじゃん!」

 まったく違う。

 春川先輩の言っている興味とは、猫目先輩に近づく変な虫がいる、と注意を引きつけられたって意味であって、好意的な意味じゃない。


「ご主人様は? いいでしょ?」

 猫目先輩は春川先輩からの了承も得ないで、僕に話を振ってきた。


「ぼ、僕は……」

 猫目先輩の期待に満ちたキラキラした瞳。

 その後ろにいる、春川先輩の嫌悪に満ちたどろどろした目。

 二人の先輩を見比べて、どうしようもない僕は、


「僕は、どっちでも大丈夫です……」

 と、判断を彼女達に委ねてしまった。


 途端に、猫目先輩の口角は上がり、春川先輩は肩を落とした。

「じゃあ決定だね! お昼食べよ! わたし、お腹すいた! あ、あそこのファミレス行こ!」

「ちょ、ちょっと〜! 猫目〜!?」


 ドタキャンのショックはどこへやら、猫目先輩は有無を言わさぬ姿勢で、僕と春川先輩の手を引っ張って行くのだった。



 ファミレスで注文を終えた後の沈黙が、少し苦手だ。

 だが、猫目先輩がその場にいる限りにおいて、沈黙が発生することは滅多にない。


「観たい映画があるんだよね」

 と、猫目先輩は唐突に言った。


「なんの映画〜?」

「『十日後に死ぬ花嫁』!」


 春川先輩の問いかけに、猫目先輩は嬉しそうに答えた。

 それは僕もCMで観たことがある。


 あらすじは、ほぼタイトルまんまなのだが、視点が斬新だとSNSで話題になっていたはず。

 普通、花嫁が死ぬ映画といえば、その恋人である彼氏視点で語られるのだが、この映画の視点はブライダル業界で働く一人の女性だ。


 余命があと十日しかない女性の夢。


 結婚式を挙げたいというその夢を、式場は十日で叶えられるのか、とかなんとか、ブライダル業界の大変さを知ることができるらしい。

 どんな結婚式にしたいか、などのヒアリングを通して、主人公とともに、花嫁の人生や彼女の人間関係を振り返る感動もの。


「猫目、そういう泣ける恋愛もの好きだよね〜」

「今回は泣けるだけじゃないって話題なの!」

「はいは〜い。食べ終わったら、それ観ようか〜」


 先輩達の会話に入れないまま、次の予定が決まってしまった。

 上映時間までファミレスで時間を潰し、僕達は映画館に向かうことになった。



 映画館を出た僕らは、三人とも疲れた目をしていた。

 目が疲れたんじゃない。

 心が疲れたんだ。


 ……とんでもない映画だった。


 女性向けのお涙頂戴恋愛映画だと思って、油断していた。

 映画の後、どこに行くのか知らないが、なんとなく駅前を歩く先輩二人に、僕はなにも考えずについていく。


「えぐかった……」

 脱力したように呟く猫目先輩に、春川先輩が頷く。

「まさか、十日後が余命じゃなくて、花嫁が自殺する日だったとはね〜」


 確かに、医師に余命を告げられた描写はなかった。

 周りの人間には秘密にしている余命を、花嫁の結婚式を担当した主人公にだけ明かすのも、今思えば伏線だったのだ。


「素敵な旦那さんに愛されて、虐待をしてきた両親も亡くなって、これから幸せになるぞってときに、どうして自殺しちゃうんでしょうかね……」

「まぁ、感じ方は人それぞれだから〜」

 僕の感想に、春川先輩が相槌を打つ。


 猫目先輩がいる前では、あからさまに僕を邪険にはしないらしい。大人の対応だ。

「あぁ〜! 暗い話はもう終わり! プリクラ撮ろ! プリ!」


 映画のオチに衝撃を受けてぐったりしていた猫目先輩が、痺れを切らしたように声を上げ、僕は驚いた。


 ぷ、プリクラ!?

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