10 デートの取り付け
家に帰ってすぐ、僕は猫目先輩名義のアカウントから、秋本にDMを送った。
内容はシンプルに「デートしませんか?」というものだ。
クラスチャットで女子が使っているイメージの強い絵文字を添えて、中身が僕だとバレないようにする。
夕方に送ったDMは、夜の十一時に返ってきた。バイトが終わる時間だろうか。
内容は──
『じゃあ、春川さんと俺のクラスのやつ入れて、四人で遊びましょうよ!』
「こいつ、春川先輩に会いたいだけじゃないか……?」
ベッドに寝転びながら、僕はスマホの画面を睨みつける。
脈なしなのはわかっていたけれど、猫目先輩を利用するような仕打ちはあんまりでは……?
秋本の返信に顔を顰めていると、ピロン、と着信音が鳴った。
猫目先輩としてやりとりしているアプリとは、別のメッセージアプリから、秋本から僕宛にメッセージが届いている。
『なぁ、今度、春川さんと猫目さんと遊ぶって言ったら、お前も来る?』
俺のクラスのやつを入れて、って僕のことか!
うーん……。
四人で遊びに行くのは全然いいんだけど……いや、よくないか。あの春川先輩がいる。
僕が猫目先輩に近づくことをよしとしていない春川先輩と一緒に遊ぶなんて、なにをされるかわかったもんじゃない。
階段から突き落とされでもしたらどうしよう。
……いや、待てよ。
僕はあることに気づく。
「これだ!」
はやる気持ちを抑えて、猫目先輩として秋本にOKの返信を送る。
僕のほうに来たメッセージにも同じ返事をする。
ダブルデート(?)の日程は、来週の日曜日に決まった。
母さんには、勉強会と言って、出かけさせてもらおう。
早く猫目先輩に連絡しなきゃ!
「……それで、秋本くん、なんだって?」
翌朝、校門の前で、今度は僕が猫目先輩を待っていた。
僕の目を見ただけで秋本の話だと勘付いた猫目先輩は、小声で聞いてくる。
「僕と春川さんを入れて、四人で遊びましょうって」
「よ、四人で……」
ちょっとだけガッカリした様子の猫目先輩。
しかし、まだ話は終わっていない。
「それで、僕と春川さんがいい感じにハグれて、猫目先輩と秋本が二人きりになるように仕向けます」
「な、え、なんっ……!? そこまでしてくれるの!?」
大きな目をさらにまん丸にして、猫目先輩は僕を見つめる。
僕を猫目先輩から遠ざけたい春川先輩。
秋本と猫目先輩をデートさせたい僕。
なんと、利害が一致しているのだ。
僕と春川先輩が、グループから意図的にハグれることで、秋本と猫目先輩はデートができるのではないか!?
これが僕のアイディアだった。
「だから、春川先輩も誘っておいてください。来週の日曜日、午前十一時に駅前集合です」
「ご、ご主人様……」
「はい」
「ありがと〜!!」
「わっ」
感極まった猫目先輩が首元に飛びついてきた。
スレンダーボディの彼女だが、胸の柔らかな膨らみが、僕の胸部に押し当てられる。
首の後ろに腕を回され、頬ずりできるくらいの位置に、彼女の頬があった。
超絶至近距離の美少女に、顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
人生で一度も、女子に抱きつかれたことなんてない。
その初めての相手が、あの猫目先輩になるなんて。
でも勘違いしちゃいけない。
これはご主人様とペットの間での、親愛のハグなのだ。
そして、その時間はほんの一瞬。
女子特有のいい匂いを残して、猫目先輩はパッと僕から離れた。
「本当にありがとう! 春川には話つけておくから!」
「はい、よろしくお願いします。メッセージのやり取りは、辻褄合わせておくので」
「っはぁー、キミは本当にできるご主人様だね」
「それほどでもありません」
猫目先輩にここまで褒められて嫌な気持ちになる男子なんているのだろうか?
僕の人生で二度とない褒め言葉の連続で、幸せな気分になれた。
ダブルデートも、クッキーを食べてしまった罪滅ぼしになればいい。
それでも罪悪感が消えるわけではないが。
「あ、あとさ」
「はい」
猫目先輩は内緒話のように、声をひそめて言った。僕は屈んで、耳を近づける。
「お母さんには、勉強会ってことにしたいから、なにかあったとき、それでお願いできる?」
「……もちろんです」
……僕と同じだ。
ろくに連絡先もスマホに入れられない猫目先輩が、休日に出かけるのは、もしかしたら難易度が高いかもしれない。
とにかく春川先輩をなんとかして、猫目先輩と秋本を二人きりにしてあげるんだ!
しかし当日、秋本は来なかった。
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