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最弱最強の融合師  作者: でんたん
第一章
9/15

8話 融合という力

【いや、脱出って言ってもどうすんだよ。

 ここは完全に四方八方が囲まれてしまってる。

 もう道なんかないぞ?】


「あ、そうだった!

 いや、どうしよう?」


【ぅおいっ!

 結局ノープランかよ!】


自分から言ってみたものの、確かにその通りだ。

周りに道はない。

今いるこの空間は言わば、地下深くにヒッソリと佇んでいる出入口のない狭い小部屋みたいなもの。

あのフロアや周辺の坑道も仮に全部埋まってしまったとすれば、そもそも道を探そうという事自体が無駄かもしれない。


【……ったく。

 大体さっきからのこの体と状態は何なんだよ。

 こんな魔法、人間はおろか他種族でも聞いた事ないんだけど。

 いい加減教えてくれないか?】


「ごめん、僕も実は分からないんだ。

 君と一緒に崩落に巻き込まれて、気づいたらこの体だった。

 今でもまだビックリしてる」


【はぁ?

 何だよそれ。

 でも、お前がやったことだろ?】


そう言われても分からないものは分からない。

考えても仕方ないか。

よし、とりあえず色々と試してみよう。


まず、この体は人間の僕とゴブリンの彼が融合して形作られているものと思われる。

見た目に両方の特徴が反映されているから恐らく間違いない。

そして、体は1つでも意識はそれぞれが共存、念話という形で双方の意思疎通もとれる。

体の制御は……これはさっきから僕の意思で自由に動かせている。


「ねぇ、この体そっちは動かせる?

 変な感覚とかはない?」


【いや……動かせないな。

 これまで感じたことのない妙な感じはするけど、不思議と不快でない。

 というかむしろ、正直謎の心地良さみたいなのさえ感じる……】


なるほど、今のところ体を自由に動かせる権限は僕の方にあるらしい。

謎の心地良さっていうのはよく分かんないけど、嫌な感じがしてないなら一先ず安心。

あとはこの体で何が出来るのかだけど……。


ん?

そう言えば最初から当たり前のように彼と話せているけど、普通魔物との会話なんて不可能なはずだ。

それにこの空間、よく見たらヒカリゴケなんてどこにも残っていないのに目が見えている。

今ここは完全な真っ暗闇のはずなのに。


「えっと、君は人間と話せるような特別な魔法を持っていたりするの?

 それに君達は暗い場所でも目が見えるって聞くけど、今のこの視界も普段のものなの?」


【はぁ、ただのゴブリンが魔法なんて使える訳ないだろ?

 俺ら魔物がコミュニケーションとれるのは同じ魔物だけさ。

 目は確かに人間なんかよりは多少暗くてもそれなりに見えるけど、流石にここみたいな一切の光源が無い暗闇だと視界は大分落ちる。

 お前が俺と話せているのにも驚いたけど、それ以上にこのクリア過ぎる視界……。

 お前何者なんだ?

 本当に人間か?】


「な、なるほど。

 人間かどうかについては今は何とも言い難いけど……」


つ、つまり……。

この体になったことで、元々彼が持っていた能力を僕も使えるようになったってこと?

それなら会話が成立している事にはとりあえず説明がつく。

対して暗視能力はあるにはあるけど、本来この環境だと彼らでもそこまでは見えないらしい。

それなのに、今の僕らにはハッキリと見えている。

単純に融合した相手の能力を使えるようになっているだけではないと……?

うーん、まだ分からない事が多いな。


それに何よりこの姿。

仮にここを脱出して地上に戻れたとしても、このまま村になんて帰ったら……。

いやそれはダメだ!

元の体に戻るのは不可能なのかな?

融合できるなら、逆にその解除もできないと。

僕の元の体とゴブリンの彼の体に……。


ウィルが何気なしに双方の体を分離するイメージを思考した、その瞬間。

突然、体全体が眩く光り出したかと思えば、一瞬グラッと自分の中の2つが離れ出すような不思議な感覚。

本当に不思議な感覚だけど嫌な感じはしなかった。

そして、急にそれまで見えていた視界が真っ暗になる。


「わっ!?

 な、何も見えない!?」


……これは。

もしや戻った!?

試しに耳や爪を触って感触を確かめる。

うん、真っ暗で何も見えないけど、慣れ親しんだ感触。

指先は鋭く尖ってなんかいないし、耳だって丸みを帯びた普通の形だ。

やっぱり戻れてる。

という事は……。


「ゲギャギャギャギャ!?

 グギャギャ!!?」


わーーー!!!!!?

やっぱり目の前にいる!!!

相変わらず暗闇しか見えてないけど、確実にそこにいる!!!

戻る!

やっぱり戻る!

融合融合融合融合融合!!!!!


すると先程と同様に、自分と側にいたゴブリンの2つの体が一瞬光り、今度は2つが溶け合っていくような感覚を経て、視界が元に戻った。


【うわ!

 今度はまたこれか!

 ほんといい加減にしろよ!

 奇怪すぎるだろ!】


ゴブリンの彼の声が再び聞こえ始める。

またかなり驚かせてしまったみたいだ。

……僕もだけど。


だけど、これで少し分かった。

『融合』と『解除』は僕が思考すれば自由にできるみたいだ。

そして解除して元の体に戻ると、僕は彼の能力が使えなくなる。

実際、解除した瞬間に視界が効かなくなったし、彼の言葉もまた認識できなくなってしまった。

ならとりあえず、地上に出るまではこの状態でいた方が良さそうだ。


「ごめんごめん。

 だけど、お陰でちょっと分かってきたよ。

 うん、これならいけるかもしれない!」


辺り一面360度が岩という岩で閉ざされている地下空間。

普通なら絶望的もいいところな最悪のシーンだ。

ここから脱出とか助かろうなんて、そもそもそんなのを考える事自体がおこがましいと思い知らされる程。


だけど、この力とこの体。

そして、この『爪』があればいける気がする。

何の根拠もないけど。


ウィルは壁に近寄っていく。


【おいおい。

 いけるって、まさか本当にここから脱出するつもりか?

 周り見えてないのか?

 岩石に囲まれた空間なんだぞ!?

 そもそも、もう道だって残ってないってさっきも言ーー】






「道が無いなら、掘ればいいんじゃないかな?

 こんな立派な君の爪だってあるんだしさ」






途端にゴブリンは絶句する。


【…………は?

 いやいや、だから岩だぞ!?

 そりゃ俺らの爪は獲物を狩るには丁度良いけど、流石に岩なんてーー】


彼が言い切る前にウィルは、岩壁に爪先を当て力を入れてみる。

すると、ビキビキと音を立てながら岩の中へ爪が簡単に食い込んでいく。

そのまま更に押し込むように力を加えると、爪を入れた部分を中心に放射線状のヒビが一面に入り、次第にそこからガラガラと音を立てて崩壊を始める。

結果、目の前に小さな空間が現れた。

1メートル先くらいまでの空洞が掘れただろうか。


【嘘……だろ?

 そんな……!?】


「うわ、やっぱり君のこの爪凄いよ!

 ちょっと力は要るけど、これなら進めていけそうだ!」


ゴブリンがまた別の意味で絶句している中、ウィルはその体を使って掘削を開始した。

目指すは地上!






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキ。

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ。

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ。

ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキ。

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ。

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ。

ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキ。

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ。

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ。


僕らはガンガン岩に穴を開け、抉り、ひたすら掘進。

両手を思い切り目の前に突き刺し、切り裂いていく。

目の前にあるのが岩だという事を忘れてしまうくらい、簡単に砕け散っていく。

続けていくうちに掘進スピードも少しずつ上がっていった。


「僕もまさかとは思っていたけど、本当に驚いたよ!

 これならドンドン進める。

 段々とコツも掴んできた気がする」


【し、信じられない……。

 爪で岩の中を掘っているだって?

 いくらこの妙な姿で俺の真似をしているからって、何でこんな事が出来るんだ!?】


ウィルはゴブリンの特徴が入ったこの体を巧みに使いこなしていく。

ゴブリンの彼はそのあまりの衝撃的な光景と器用さに開いた口が塞がらない。

そして、ある種の畏怖の念も抱いていた。


普通こんな事をしようとしたらとっくに爪の方が砕けてる。

流石に強度おかしいだろ。

相変わらず視界も訳分からないくらい鮮明だし。


しかもなんだ、さっきからのこの異常に慣れた体の使い方は?

こいつは俺の体を扱うのは初めてなんじゃないのか?

それをいとも容易く使いこなしている。

いや、むしろ俺より使いこなしている気が。

何だよこれ。

こんなのもう…………()()()()()()()()()()()()()()!!!


「ふぅ、流石にずっと動きっぱなしは疲れるな。

 ちょっと休憩するか」


掘削の手を止め、ふと後ろを振り返ったそこには長いトンネルが出来上がってきていた。


【な、なぁ。

 色々とまた聞きたい事はあるけど、何でそんなに体の使い方が上手いんだ?

 お前さっきまで人間だったんだろ?】


「え?」


ウィルはふと我を思い出したかのように表情を固める。


すっかり掘るのに夢中になっていた。

そう言われれば、確かにそうだ。

人間とゴブリンは体型こそ少し似ているけど、細かな体の動かし方とか、それこそ爪の扱い方なんて僕は知らなかった。

今まで人間として生まれ育ってきたんだし。


……でも、融合すると何故か無意識的にその体の特徴や使い方が分かる。

まるで元からその体で生きてきたかのように、自分の手足のように自在に操れている。


そして、ある意味一番謎であった部分。

能力によっては、融合する元の相手が持っていたものよりも更に強力な状態で扱えていた点。

彼も驚いていたように、暗視能力は完全な暗闇でも視界が見えるレベルになり、爪だって岩をも簡単に貫き切り裂けるまでの強度になっている。


……大方分かってきた気がする。

この融合という力。


最初は単純に融合した相手の能力を使えるようになるだけのものだと思っていた。

でも、違う。

色々試してみた結果、これは恐らく……。






融合することで、その対象が持ち得ている能力を更に強力なものに引き上げた状態で、己のものとして行使できる力!






これはまだ推測。

まだこのゴブリンの体でしか試せていないこと。

もしかしたら、今この時がたまたまなのかもしれない。

でも、仮にこれが他の対象でも通じるとしたら?

元の人間のままの僕は変わらず最弱かもしれない。


でも、この力を上手く使えれば……あるいは?

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