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最弱最強の融合師  作者: でんたん
第一章
8/17

7話 ゴブリンとの融合

シン……と静まり返った洞窟、もとい地下空間。

光と言えるものが一切存在しない。

まさに暗黒の空間。


その中でソレは意識を取り戻す。


何だ?

静かだ。

何も聞こえない。

さっきまで何してたっけ。

僕は一体?

ん……僕?

そもそも僕って何だ?


…………だめだ、分からない。


気がついたらここにいた。

でもここが何処なのか、何をしていたのか、自分は誰なのか。

思い出せない。

というか、今自分は一体何に困惑しているのかすら、いまいちよく分かっていない。


そうこうしていると無意識的に体を動かそうとしたのか、手に何か当たったのが分かった。

冷たくザラリとした見覚えのある感覚。


これは……土?

それとも砂かな?

更にその感触を確かめようとすると、次は小さな石のような物に触れた。

ゴロッゴロッと小さく音を立てているので間違いない。


うん、動く。

掴める。

手が動く。

よし、次はそのままゆっくりと目を開けてみる。


…………あれ?

目を開けたと思ったのに、真っ暗な景色には何も変化が起こらない。

どういう事だろう。


だが、しばらくそのまま暗黒を眺めていると、次第に目に何かの輪郭が滲むように見え始めた。

……これは岩?


時間が経つにつれ、どんどんハッキリと見えてくる。

眼前には何の変哲もない岩が、ただ一杯に広がっているだけの無機質過ぎる光景が広がっていた。

どこをどう見ても同じ見た目の岩、岩、岩。

完全に岩しか見えない。


っ!


僕……。

岩……。

真っ暗……。

地下……。

洞窟…………!!!


急に曖昧だった記憶が連鎖的に蘇り始める。


そうだ!

自分は『ウィル』という名前、ファスト村に住んでいる。

確か皆んなとジスト鉱山っていう洞窟に来て、色々あって逃げて変な空間に出て、魔物に遭って、それで……。

死んだ、よね?

最後は皆んなを逃してゴブリンと一緒に崩落に……うん、覚えている。

じゃあここは死んだ後の世界?


…………いや、岩しか見えないし。

そんな訳ないか。

いくら考えても分からない。


その光景をまたボケッと見ていると、今自分は仰向けで横になっていることに気づく。

体全体に力を入れて上体を起こし、立ち上がってみる。

特に問題なく立つことが出来た。


よし、立てた。

何か少し変な気もするけど……周りを見ても特に何もない。

かなり狭い空間みたいで、どこかに行けそうな道というのも見当たらない。

もしかして崩落の際、偶然何かの拍子で助かったのかな?


…………いや、仮にそうだとしても、もうこれほとんど生き埋めの状態じゃんか。

体もどこも痛くないし、本当に一体どうなってーー


ん?

体が痛くない?

そういえば最後はもう満身創痍の状態だったのに、怠い感じもしないし疲れてもいない。

すこぶる快調。

少し気を失っていたくらいで、こんな事ってある?


そう思いながら何気なく自分の両手に視線を移したウィルは表情が固まる。






………………………………へ?






その自身の手は長らく見慣れていた肌色だったものとは打って変わり、薄い緑色に変化していた。

指先には鋭く伸びた爪もある。


なんだ……これ……?


驚愕したのはそれだけではなかった。

よく見ると、肌の色が変化しているのは手だけではなく全身。

変に長く伸びた尖った耳。

少し身長も短くなっているようで、目線も今までよりも低くなっている。

最初立った時に感じた妙な違和感はこれのことだった。


目を疑いたくなるような現実にウィルは呆然としながらも、この見た目の特徴には少々思い当たるところがあった。

そう、『ゴブリン』だ。


まさか、僕は死んでゴブリンに生まれ変わったとか?

そんな……いや、でも!?


暗い緑色の体色に4本の指に生えた鋭い爪、子供のような低い身長にずんぐりとした体型、不恰好に長く伸び尖った耳などの特徴に確かにこの体は似ている。

しかし、完全には全ての特徴は()()()()()()()という点が更に頭を混乱させる。


いやいや、ゴブリンって言ったらああいう姿だ。

でもこれは少し違う。

肌も緑っぽくはなってるけど、あそこまで暗い色ではない。

身長だってそれっぽく縮んでいるけど、体型は普通の人間のそれに似ている。

爪は今まで見ていた自分の物とは思えないほど硬く鋭い見た目をしているけど、指も普通に5本あるな。

耳は触ってみた感じそこまで変わってないかな。


つまりこれは……。

何だろう?

元の人間だった時の体にゴブリンの特徴が所々入り混じっているような状態ってところかな。

それならこのどっちつかずの見た目にも納得がいく。


言うなれば、融合?


……はぁ、とんでもない事になった。

こんな魔物とか現象なんて今まで聞いたことがない。

どうしてこんな事に。


そういえば最後に一緒にいたのはあのゴブリンだった。

あいつは……見当たらない。

僕だけが助かって、あいつは埋もれちゃったのかな?

いや、でもそれならこれは……。


グルグルと思考を回していた、その時。






【ここはどこだ!?

 あれから一体どうなった!?】






「うわあっ!!!???」


【ぎゃあっ!!!???】


狭い暗闇のこの空間の中、突如として発せられた声にウィルは心臓が飛び出しそうになった。

聞き覚えのない声だけど、どこか子供っぽい感じ。

その声の持ち主はウィルの叫び声に呼応するように同じく悲鳴を上げてきた。


「まさか、魔物!?

 さっきのゴブリン!?

 一体どこに!?」


【うわっ!

 何だ、体が勝手に!?】


必死に周囲を見渡してみても、それらしき姿は見当たらない。

どんなに探そうと、やはり何もいない。


これは…………。

ウィルの頭の中である1つの憶測が浮かぶ。


これは単なる憶測だ。

何の根拠もない。

だけど、もしそれが本当なら。


何とか心を落ち着かせ、ゆっくりと聞いてみる。


「き、君は僕の中にいるのかい?」


どこにも姿が見当たらない何かに向かって1人話しかける。

側から見たら完全に痛い独り言状態。

この様はあまり他人には見られたくないかな……。


【な、何を言っている?

 お前は誰だ?

 さっきからどこに隠れている?

 それに、この変な魔法は何だ!?】


返答が返ってくる。

やっぱり、そういう事なのかもしれない。

かなり混乱しているみたいだけど、それはこちらも同じ。

このまま会話を続けてみよう。


「僕はウィル、ウィル・ストール。

 今日この洞窟にやってきた人間だよ」


【っ!

 にん……げん、だと?】


『人間』というワードを聞き、その声は急に怒りを露わにした激しい口調に変わる。


【まさか、さっきの人間共か!

 となれば、お前はあの時の!

 くそ……何が望みだ!?】


その言葉でウィルの憶測は確信に変わった。

だけど何故ここまで怒っているのかは分からない。

それに望みって何のこと?


「ちょ、ちょっと待ってよ。

 僕は別に君に危害を加えるつもりはない。

 少し話をしたいだけなんだ」


【ふざけるな!

 俺らの住処を荒らしまくった挙句、勝手に踏み入ってきやがって!

 どうせあのヤバい()()()()だって、お前たちの差金なんだろう!?

 お陰でここにいた皆んなは全滅したんだ!】


……何を言っている?

ウィルは彼の言っている事が理解できない。

もはや会話が成立していない気さえする。


確かに僕らはここに潜入してくるのに彼らの許可なんてのは貰っていない。

あくまで消えた魔物たちの調査という名目でやってきた。

でも決して荒らしてなどいないし、一度も接触しなかったのだから当然危害を与えた訳でもない。

それに水の魔物って?


【あぁもう、何なんだよ君は。

 訳が分からない……】


そう心の中でゴブリンの声に対し、ウィルはボソッと呟いた。


【訳が分からないのはこっちなんだが!?】


!!!

え、僕今、声に出していた?


いや、出していない。

心の中で呟いただけなんだけど、もしや聞こえていた?

でも今までの色々な考え事に対しては何も反応が無かった。

もしかして、喋らなくとも心の中で伝わったり……?


【ねぇ、これって聞こえてたりする?】


【は?

 聞こえてるけど。

 ほんとさっきから妙な奴だな】


やっぱりそうだ!

相手に対して心の中で明確に話しかけようとすれば、口で言葉にしなくても意思疎通ができる!

差し詰め『念話』ってところかな?

さっきからのこの姿にしろ念話にしろ、僕、何かの魔法が使えるようになった?

いや、こんな魔法なんてある?

......まぁ、僕の方は普段は普通に声に出して喋っても良いか。


とにかく疑問はいくらでも湧いてくる。


でも、一先ずこのままでは会話にならなそうだったので、僕は最初から全てを彼に伝えることにした。

自分のこと、村のこと、今回なぜここに来たのか。

洞窟内に勝手に入ってきてしまった件については素直に謝った。

少しずつ話を進めているうちに、徐々に彼の方も色々と話をしてくれるようになった。


まず、ここに住んでいた彼らゴブリンの一族は、別に住処を移転した訳などではなかったらしい。

むしろこのままずっとこの場所に住み続けていく予定だった。


しかし、ある時を境に洞窟内に異変が現れた。

壁や地面が歪み、移動し、変形していく。

戸惑いながらも彼らは洞内を逃げ回る日々を送っていたが、次第に1匹、また1匹と仲間の姿が消えていった。

そうやって徐々に数が減っていった最中、奴が現れたという。






水の魔物。






「水の魔物……。

 さっき言っていたやつだよね?」


【あぁ。

 俺たちは魔物の中でも一際弱い種族だから、生きるためには必ず集団で過ごしているんだ。

 他の場所やそれこそ地上には強い奴らが沢山いるしな。

 だが、あいつはそんなレベルじゃなかった】


正直イメージが全く湧かない。

でも『水』と聞いて、洞内を歩き回ってきた僕もいくつか思い当たる節はある。

元々水があったとは思えないような場所で所々が濡れていたり、時には溜まっていた箇所がいくつかあった。

特にあのフロアなんて、もはや水没状態。

だとしたら、あれらが?

一体何者?


その水の魔物っていうのがいたとして、この洞窟の異変とか君たちが消えていった事とはどう関係しているの?」


【俺は見たんだ……。

 大きな水の塊が蠢いているその姿を!

 あいつは、仲間を見つけてはそれを自分の体内に取り込んでいった!

 元々とんでもない魔力だったが、皆んなが呑まれていく毎にその力は増していったんだ。

 ここの異変だって奴の仕業だよ。

 最初はあいつ自身が動き回ってたみたいだが、そのうち洞内を何かの魔法で変異させて俺たちを逃げ回らせ、そして広い空間に誘導してから一気に襲いかかる。

 正真正銘のバケモンだよありゃ】


なるほど……。

まさかそんな事態になっていたなんて。

そうなるとあの広いフロアは、例えるならそいつの『捕食部屋』ということになる。

地下にある洞窟を変異させる魔法なんてのも驚きだけど、そんなことをすれば崩落があちこちで発生しても確かにおかしくはない……。

でも、気になることがもう1つ。


「だけど、僕が君に会った時はその水の魔物っていうのはあの場にいたの?

 周りは確かに水浸しだったけど、それらしいのは見かけなかったような……」


【俺もよく分からないんだが……。

 どうも奴は一定量以上の獲物を取り込むと、一旦捕食を止めて一時的にどこかへ身を隠しに行くんだ。

 あの時俺は最後に残っていた仲間達とあの場に誘導され、目の前で皆んなが呑まれていくのを見ていた。

 そして俺が最後の1匹になった時、偶然そのタイミングになったらしく、間一髪のところで助かったんだ。

 …………そして、その後にお前らが急に現れたって訳だ】


言葉にならなかった。

突然自分らの住処に現れたソイツは場を荒らしながら一方的に仲間を蹂躙していき、最後の仲間まで目の前で捕食され、ギリギリ助かっと思えば今度は知らない人間達が急に現れたんだ。

そして、僕が彼に会ったあの時の様子は、酷く体を震わせ混乱し怯えていた。


僕達も知らなかったとはいえ、どうやら最悪なタイミングで遭遇してしまったらしい。

そりゃ確かに今度は僕らに襲われるだろうと錯乱してしまっても無理はない。

しかも、最後は彼を一緒にこのよく分からない状況にも巻き込んでしまった。


「そうだったんだ……。

 色々と教えてくれてありがとう。

 そして、ごめん。

 辛いことを聞いちゃって」


【いや……。

 話を聞いた限り、お前のせいではない。

 元々は一族で住処を守れなかった俺らの責任だよ。

 でも、もうここには誰もいないだ。

 これからどうすれば……】


ゴブリンの彼は話してみると案外話が通じる相手で、僕のことも許してくれたみたいだ。

でも、とりあえず大体の話は分かったけど、いつまでもこの場所にいるのはマズいのでは?

その水の魔物とやらはどうやら相当厄介な存在らしいし、僕も出来れば会いたくない。


今のこの周りは静かだし、異変という異変は特に起きていない。

これは彼が言っていた何らかの理由で奴が身を隠している時間の最中なのかもしれない。

だけど、もしまた行動を開始したらいずれこの場も危ないか?

この状況と身体のことは依然として全くの謎だし、まだ本当に驚いているけど、ここでこのまま何もしないでいるのは良くない。

となれば。






「ねぇ、とりあえずさ。

 一緒にここから脱出しない?」


【……は?】

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