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最弱最強の融合師  作者: でんたん
第一章
5/16

4話 魔石

カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!

ツルハシと岩が激しくぶつかり合う音が周期的に洞内に響き渡る。


今回のジスト鉱山の入口周辺地帯及び洞内調査は、当初想定していたよりも大分早く終了。

大量にいた魔物の姿が忽然と消えたというのは奇妙ではあるものの、実際に現地に赴いて現場を観察した結果、確かにそれらの存在は確認できなかったし、特に異変という異変も見当たらなかった。


色々と腑に落ちないところはあるが、無いものは無い。

5人はやはり何らかの理由で魔物たちがこの住居を離れたものという仮説を立てた。


ただ、仮にその仮説が正しければ、ここには彼らが急に立ち去った何らかの理由があるという事でもある。

かなり不吉なものを感じるが、これは帰ってから周辺各村にも報告して一度協議する必要がありそうだ。


以降は日没前にはまた村へ出発するため、短時間ではあるが採掘を実施。

流石聞いていただけの事はあるというか、一度掘ってみれば出てくる出てくる。


カキンッ!


「っしゃ!

 また出てきたぞ!?

 まさにザックザクじゃねぇか!」


「これは水晶か?

 ウィル!

 こっちも出たぞ、急げ!」


「素晴らしすぎる。

 もうここに住んでも良いかもしれない……」


「ちょ、ちょっと待って下さい……。

 多すぎてもう袋が重……」


「俺もここでの採掘は初めてだが、まさかこれほどとはな」


3人衆は完全にお祭り騒ぎ状態。

ウィルは鉱石を収納する麻袋を手に持ちながら、等間隔の場所で掘っている者たちの間を何往復も回収して回っている。

が、既に何度か転倒しており、その度に袋から石がばら撒かれるもので、都度3人からの怒号が飛んでくる。

ガイルも出てくる物のその質と量に愕然としている様子だ。


ここで掘れるのは石炭や鉄などの一般的な資源鉱石は勿論ながら、水晶や翡翠、トパーズにダイヤモンドなど、魅力的で貴重な宝石類も豊富だった。

しかも一度鉱脈に当たると、それがしばらく続いてるため更に大量に出てくる。

まさに石掘り天国だ。


しかし、3人衆はダイヤモンドなんて物がザクザク出てくる状況に喜びを見せる一方で、本当に欲しい物は別にあった。


「しっかし凄えな!

 この調子ならすぐ見つかるんじゃねえか!?」


「あぁ、既に何となく感じている。

 あるぞ、魔石が!!!」


「浮かれるのは良いがお前、それ外でそんなでかい声で喋るなよ……?」


ウィルもその名は聞いた事はあっても、実際に目にした事はなかった。

魔石……。

一体どんなものなんだろう。






この世界には物理的な作用を与えずとも物事の事象に変化をもたらす『魔法』という概念がある。


魔法は一般的に体内に貯蔵している『魔力』と呼ばれるエネルギーを消費する事で発動行使が可能で、それは庭の畑に水をやるためのものから命を奪うような殺傷性の高いものまで、その種類は非常に多岐に渡る。

簡単な低級魔法であれば少ない魔力量で、強力なものであればそれ相応の量を消費する。


しかしながら、魔法はこの世界の生きとし生けるもの全てが使える訳ではなく、大きくはその者の体質や資質、そして何より種族における適正という部分に大きく左右される。

例を挙げるとすれば、長命種の筆頭である『エルフ族』や、人とドラゴンの姿を使い分ける『龍人族』などの古より魔法と密接に関わってきたような種族は適正が高く、次は魔族などが続く。

ちなみに人間の人種族は一部の例外を除き、大半の者は根本的な適正が低い。


そして、魔力にはその元となる『魔素』と言われるエネルギーが介在している。

これは植物や地面、食べ物に生き物の体などあらゆる物質を通過して移動する特性があり、故に魔素は自然界のありとあらゆる場所に存在している。

その上で、種族や資質によっては自身の身の回りに存在している魔素を感知、更には制御する事が可能で、己の体内に魔素を集めてそれを凝縮精製したものが魔力となる。

この凝縮精製の資質があればあるほど強力な魔法が使用可能という訳だ。


つまり魔法を扱える者とは、すなわちこの魔素を感知して操れる者のことを指す。


太古の生物にもこれらは宿っていたとされ、それが死んで地層に埋もれると、通常なら魔素も死体から抜け落ちて四方八方に拡散して行くものだが、どういう訳だか稀に地中内部で徐々に集まり結晶化する事例がある。

長い年月と偶然を経て生まれたもの、それが『魔石』だ。


魔石はその種類によって一定の魔力を蓄えておける性質がある事から、魔法行使の補助に使用する『魔道具』によく加工される。

いわゆる『アーティファクト』というものだ。

これを所有しておけば、本来その身に宿る魔力量を凌駕するような強力な魔法であっても一時的に使用可能となるため、よってその希少性はダイヤモンドなどとはもはや比較にならないほどの代物となっている。






ガキンッ!!!


それまでの掘削音とは明らかに違う重厚感のある音色が響き、ツルハシの先端に現れたのは黒紫色の艶やかな石。

サイズは親指程度だろうか。

それにしては大きさの割には重く、ただならぬオーラを放っている。


「っ!

 で、出た!

 ついに掘り当てたぞ!!!」


「っし、でかした!

 まだありそうな気がする。

 この調子でガンガン続けるぞ」


「やはりあった……。

 マジで凄えなここ……」


3人衆はついに一つ目の魔石をGETしたようで、歓喜の雄叫びを上げている。


ファスト村のような魔法を扱える者がいない地域では無用の長物になってしまうが、大きな街や都市に売れば小さいものでも相当な額になる。

同じ親指サイズだとダイヤモンドが金貨10枚程度の価値があるのに対し、魔石は金貨100枚程になると言うのだから驚きだ。


なお普段やっている漁だと、どんなに大量の時であっても交易に出した後の取り分はせいぜい金貨2〜3枚分ほど。

ちなみに気になるその産出量は、普通の鉱山だと1ヶ所で1個出れば良い方らしい。


そうこうしていると、今度はガイルが小指ほどの魔石を掘り当てた。


「凄い……ですね。

 これが魔石ですか、初めて見ました!

 それにしてもよく連続で見つかりましたね」


ウィルは生まれて初めて目の当たりにする魔石に目を輝かせる。

確かにこれまで見てきた鉱石とは一線を画す独特の美しさ。

でもどこか呪われてしまいそうな、ちょっとした畏怖の念も感じる。

まさか本当にこんな物が世の中にあるなんて……。


「これは結構大きい方なんじゃないか?

 ここまでのサイズじゃなくとも、名のある冒険者なんかだと装備に使っている奴は結構いるぞ。

 しかし見事なもんだ、恐らくまだある」


ガイルもまじまじと魔石を眺めて感動しているが、その様子にウィルは少し違和感を覚えていた。


さっきからあの3人も喜んではいるけど、僕ほどじゃないような……。

よく考えてみると、全員最初から掘っている場所は闇雲にではなく、どことなく場所を決めて掘っている気がする。


「あの、ガイルさん達は……魔石の位置が分かるんですか?」


「いや、きっちり正確な位置や方向までは分からんさ。

 だが、魔石から漂ってくる魔素の流れくらいは何となく掴める。

 まぁ大体の場所を適当に仮定して、あとは運に任せて掘ってるだけだがな」


「なるほど……」


やっぱりガイルさん達は魔素の感知はできるんだ……!

人間はその制御こそ不可能な者が多けれど、僅かな感知程度だったら可能なんだ。

思い返せば村近くの森でゴブリンが出た時も、最初は村人の何人かが変な違和感を感じたとか言い始めて、それで発覚した。

皆んな本当に凄いな。


……でも、僕は違う。

僕は魔素の感知すら一切できないし、この場に魔石があるなんて全く分からなかった。

人種族は魔法の適正が低いというけれど、僕はそういうレベルですらない。


確かに実際に魔石を見ると不思議なオーラみたいなのは感じても、具体的にそこから漂ってくる魔素の濃さとか流れなんてのは全然分からない。

もし今、自分の直ぐ真下に魔石が埋まっていたとしても、それを僕は感じ取る事ができない。

それが彼らならできる。

同じ人間なのに。


雑用仕事はだめ、戦闘力も皆無。

なら、もしかしたら……と、一瞬希望を抱いていた魔法も完膚なきまでに才能が無かった。


はは……今回は自分自身の成長のためにもここに来てるっていうのに。

むしろ更に自信無くしちゃうなぁ……。

僕も何か一つでも得意な事を見つけて、いつかは誰かに頼られるような存在になりたいと願っていたけど、完全な夢物語だ。


この先、僕はどう生きていくべきなのか。

全く分からない…………。


「おいウィル!

 ぼさっとしてんな!

 早く次を詰めろ!」


「……っあ、はい!

 すみません、一杯になったので新しい袋を……」






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






洞内調査を終え、採掘作業に入ってから軽く数時間が経過していた。


当初は短時間で終えるつもりだったはずが、そのあまりにも潤沢に姿を現してくれる鉱石たちを目の当たりにし、気づけば時間はあっという間に過ぎていた。

ガイルでさえ、つい熱が入り過ぎてしまったようだ。

地上では昼間をとうに過ぎ、徐々に夕刻が近付いていた。


「多少時間に余裕を見ていたとはいえ……少々やり過ぎたな。

 流石に今日はそろそろ潮時だ。

 村へ帰るぞ!」


「ふぃ〜!

 もうちょっと掘っていたかったっす!!!」


「残念だけど……まさに想像以上だったっすっね!

 でもこれだけ掘れれば……後が楽しみだ」


「流石に疲れた……。

 だけど眼福眼福……」


「皆さんお疲れ様でした!

 大量でしたね!

 僕も回収でかなり疲れましたぁ……」


今回の成果は鉄類が7割に宝石類が3割入った麻袋がなんと5袋分。

完全に掘りすぎである。

1袋もかなりの重量となり、流石にウィル1人に全て運ばせるのは不可能となった結果、1人1袋ずつ運搬する事となった。


「すみません。

 分かってはいるけど、皆さんにも持たせてしまって」


ウィルが申し訳なさそうにしているが、意外にも3人衆は気にしていない様子。


「ったく仕方ねぇな!

 まぁでも今は良い!」


「あぁそうだ。

 何せ魔石が5個も手に入ったからな!

 凄ぇ良い気分だぜ」


「それに、大事な魔石の入った袋はお前に持たせる訳にもいかないしな……!」


「ははは……そうですよね。

 すみません」


希少鉱石や魔石が主に入った袋を3人衆やガイルが担当、残りの鉄類をウィルが運ぶことに。

彼も確かにそれが妥当だなと納得していた。


「…………」


会話を聞いていたガイルは荷物を背負いながらウィルに対して少し眉をひそめる。






「よし、では隊列はまた同様で入口まで戻る。

 全員かなり疲労しているだろうから、無理はするな」


彼から出発の合図がかかり、全員が来た道を戻り始める。


ウィルは既に大きなバッグを背負っているため、両手で麻袋を抱え込むように持つようにした。

麻袋の大きさ自体はそこまで大きくないものの、ゴロゴロとした石で全て埋まった袋は非常にズシっとくる


「こ、これを村まで」


背中は食料や水が減ったとはいえ、今度は前にこの重さ。

今担いでる重量は前方の4人とほぼ同等か、むしろ向こうの方が今は少し重いかもしれない。

それでも彼らは僕と違って軽々と歩いていく。

流石鍛え方が違うな……。


「いや〜、しかし今日は最高だったな!

 あんなに魔石も鉱石も取れるとは思わなかったぜ!」


「嬉しがるのは結構だが、村に戻るまでは油断するなよ。

 地上に出てからは帰りの道中だってあるんだ」


3人衆は相変わらずホクホク顔で歩みを進めている。

もう頭の中は既に村に帰った後のことで一杯のようだ。


「分かってますって!

 それにしてもガイルさん。

 ここってゴブリンでいっぱいだったって言いますけど、本当にそんな奴ら居たんすかね?

 俺らが入り始めてから魔物の類はまだ一度も見てないし、ただのデカい洞窟みたいすけど」


「結局それは分からなかったな。

 ……だが、何の理由も無くこんな事が起こるとも考えにくい。

 奴らが消えた理由がきっとどこかにあるはずだ。

 それと、帰りは来る時以上に周囲を警戒しておけ。

 今の俺らは全員が荷物持ちのような状態だ。

 この状況で何かに遭遇するのは、ちとリスクが高い」


それを聞いてウィルは確かにそうだと頷く。

全員ここに来る時よりも明らかに荷物が重い。

その上、4人だって少なからず疲労の色は伺える。

一応魔物はいない事が分かってるからまだ良いものの、もしこれで遭遇したら……。


「まぁ大丈夫じゃないっすか?

 いないものはいないんだし、気をつけようがないっすよ」


「むしろこっから唯一心配なのは後方のサポート役だな……」


「はははっ!!!

 違ぇねえ!」


そんな談笑をしながら歩いていく彼らを、後ろから黙って必死に追いかけているウィル。

最後まで嫌味を言われっぱなしだが、正直もうそれを気にかけている余裕はない。

1日中動き回りとっくに体力が尽きているのもあって、少しずつ距離を離されていく。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


結局、今回もあまり皆んなの役に立てなかった……。

採掘のサポートくらいなら僕にも出来るかもと思ったけど……。

さっきからずっと溜息が止まらない。


先頭のガイルは後方から聞こえくる会話に別の意味で溜息を吐きながら先導していく。


全くこいつらは……。

つくづく緊張感の欠片もない……。


しっかし分からんな。

どういう訳だか、これまでいた奴らは嘘だったかのように消えて人が入れるようになった。

中は広大で今だに得体が知れないが、貴重な資源が手に入る。

本当にただの偶然だとしたら、今後は更に採掘に人員を割いていくべきだろうが……。


事が上手すぎるな。

このまま()()起こらなきゃ良いが……。

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