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2話 洞窟調査?

「ガイルさん、お願いします!

 僕を、僕を今回連れていってはもらえませんか!?」


ウィルは先程聞いた洞窟への調査とやらへ同行するべく、村の集会所前に来ていた。

こんな漁村でも一応小さいがこういう施設はある。


もちろん詳しい話はまだ何も聞いていない。


パッと聞いた表面上の話では、魔物で溢れかえっていたジスト鉱山から忽然と連中の姿が消えたので、それの調査。

可能そうなら一緒に、今のうちに希少鉱石も掘ってしまえ!というものだった。


この村は海産交易こそ盛んながら、逆にそれ以外には出すものがほとんど無い。


鉱石系の物資はファスト村の様な漁村ではほぼ無用の長物だが、他の村やそれこそ大きな街や都市が交易相手となれば話は別だ。

もし、そんな新たな交易材料が今後安定的に手に入るようになれば、村の将来はきっと明るくなる。


今だって決して廃れている村ではないが、年々と平均寿命が上がり若者が減ってきている。

このまま漁だけ行っていても、どこまで村が存続していけるかは未知数だ。


とはいえ情報も足りなすぎる。


今までいた魔物が急に消えるなんて、そんな話は聞いた事がない。

魔物同士で争うにしても、同族間ではまずあり得ないだろう。

最近大規模な調査隊とか討伐隊が向かったとか、そういう話も特に耳にしていない。


まず間違いなく、普通じゃない。

明らかに何らかの異常が起こっているであろう場所に行くなんて、絶対に危険だと思うけど。

その実態を把握するための調査でもある。


「んー…………。

 しかしなぁ、ウィル。

 お前本気か?」


ウィルが頭を下げている先にいる男はファスト村村長の息子、ガイル。

年齢35歳、身長180cmのガッチリとした体躯。

日々の漁による日焼けでその肌はかなり黒く染まっており、短髪の黒髪に髭が生えているその容姿はまさに海の男そのもの。


一応今はまだ次期村長候補となってはいるが、父親がその座を退きかけているので、実質的に既に新しい村長のような存在となっている。

村民思いの男でウィルも小さい頃からよく慕っていた存在だ。


そんなガイルは頭を抱えていた。


先日、隣村であるベスト村から連絡が入り、彼は今回の事態を知った。

時折この辺一帯では各村が協力した交代制による洞窟付近の警戒をしていたのだが、最近隣村の者が山に近づいたところで異変を察知したらしい。


通常なら山に近づくにつれ、地下から出てきた魔物が少なからずその近辺の森でも目撃される。

この辺の地域で目撃される魔物といえば、ほとんどはゴブリンの群れ、稀にグレイウルフといった4つ足の狼のようなものもいる。


そして、洞窟内は基本的にはゴブリンの根城だ。


正確な数は全く解明されていないが、一説には数百単位という数が生息しているのではないかとも言われている。

仮にその数が確かだとして、もしそれらの矛先が村に向けられれば、もはや手の施しようがない。


ところがそれらの姿が全く見えないどころか、気配すら消え失せていた。

隣村の者は麓にある洞窟の入口から恐る恐る内部を覗いてみると、これまでの調査時ではギャアギャアとした悍ましい鳴き声で響き渡っていた洞内が、不気味なほどに静まり返っていたという。


本来であればこのような異常事態、各村一体の共同調査隊を結成して久方ぶりの大規模調査といきたいところ。

だが、今はそうもいかなかった。


他の村は他の村でそれぞれの事業が忙しいらしく、ファスト村でもちょうど今が漁のシーズン真っ最中なのだ。

1年で最も漁獲量が上がる時期で、海産交易が盛んな我が村として、この時期の重要性は村の命運を握っていると言っても過言ではない。


つまり、調査に割ける人員が圧倒的に不足している。


確かに異常事態と言えば異常事態だが、今回の件は魔物の姿が消えて周辺が単に安全になっただけとも取れる。

それがどんな理由であれ、今すぐ大勢の手を動員してまで調査を行うというのは、今のこのタイミング的には難しいというのが各村の見解だ。


しかしながら、完全な放置というのもガイルの立場としては心配が残る。

そこで魔物がいないという前提条件の上ながら、今回は極少人数ながら我が村で調査を行う事にしたという訳だ。


「はい!

 今回は人員が足りていないとお聞きしました。

 僕じゃ採掘とかは難しいかもしれないけど…...。

 でも、道中の荷物持ちとか、簡単なサポートくらいならやってみせます!」


ガイルから事情を聞いたウィルは何度も頭を下げて懇願している。

こんな機会、決して逃してなるものかと必死な様子。


「おいおいおいおいおい!

 俺は確か、お前は来るなって言ったよな!?」


「そうだ!

 いっつも何かしらトラブル起こしてるお前が一緒だと、俺らの身が危ないっての」


「ガイルさん、こいつ連れてくのは絶対止めといた方がいいですって。

 手持ち分も減るかもだし……」


現在、集まっているメンバーはガイルとこの3人衆だけのようだ。

彼らはどうしてもウィルを連れていく事に反対しており、ガイルに強く抗議している。


純粋に同行させるのは危険だ面倒だという心配の念もあるみたいだが、どうやら採掘による自分らの取り分が少なくなる事も気にしているらしい。


「んーーそうか……。

 まぁその、なんだ、今回は事情が事情だ。

 確かに人手は足りていない。

 そこに自ら名乗り出てくれるなら、ありがたいのは間違いないが……」


「えっ、ちょっとガイルさん!?」


「もしかして、連れて行く気ですか!?

 こいつを!?」


「俺らだけじゃ駄目なんですか……!」


「お前らさっきからうるさいぞ」


ガイルから思ってもいなかったセリフが飛び出し、慌て始める3人衆。

それは困る、凄く困る、非常に困る!

こんな奴を連れて行くなんて、絶対に許せない。


彼らも以前からジスト鉱山の噂は聞いていた。


一体いつから存在していたのか誰も分からない、今だに謎の多いその洞内では煌びやかな希少鉱石が大量に眠っているという。

もしそれを持ち帰る事が出来れば、普段やっている漁なんかよりもよっぽど金になる可能性が高い。

いや、それどころか大きな街に直接持っていけば莫大な恩恵が得られるに違いない。


どういう訳か魔物がいなくなったという話だが、そんな事情はこの3人にとってはどうでも良い事だった。

欲しい()さえ手に入れば、それで良い。

側から見れば、調査よりも採掘しか目にない様子だ。


いつまでもこの村で年寄り連中と一緒に漁だけやっている訳にもいかない。

それほど今回の件は3人にとって重要な話だった。


そんな一攫千金の希望すらかかっている話だからこそ、他の者に頼むならまだしも、何故よりにもよって()()()なんだと。

何かあったらどうするのかと。


「こいつらは大分気合を入れてるが……。

 今回は言うなれば、少し様子を見に行く程度なんだ。

 掘るのも俺を含めて3人もいれば一先ずは十分だし、荷物持ちも最悪いなくても何とかなりそうなんだが……」


ガイルはありがたいという意思表示はしつつも、遠回しにウィルには諦めて欲しいという様な言い回しをする。

でも、その表情は他の3人とは違っている。


「お願いします! 

 絶対に邪魔にはならないと約束します。

 こういう時こそ皆さんの役に立ちたいんです!」


それでも負けじと真っ直ぐな目を向けて訴え続けるウィル。


3人は手柄が少なくなる事も大分気にしている様子だが、彼自身はそこははなから期待していなかった。

むしろ手柄なんて何も要らない。

この事態に少しでも村に貢献できる事がしたい、ただ純粋にその一心だけだった。


ガイルはしばし考え込んでいたが、しばらくの沈黙の後、ゆっくりと口を開く。






「……なぁ。

 お前、何でそこまで必死に何でもやろうとするんだ?

 最近もあちこち村中を動き回ってるらしいじゃないか」


「っ!

 ......それは」


このところ焦って村中のありとあらゆる雑用をこなして失敗していた姿をガイルには気づいていた。

己の不甲斐なさ、焦燥感、次こそ、次こそはと日々の様々な感情が入り混じり、言葉に詰まる。


「また村のためか?

 恩返しをしたいだけなら、いつも言っているが無理はしなくても良い。

 人には役割ってのがある。

 何かと思い詰めてるようだが、あまり気にするな。

 村の皆もあーだこーだ言ってるが、別に邪険にしている訳じゃない」


あぁ……この人は本当に優しい人だ。

村の皆んなをどこまでも見てくれている。

こんな役立たずの僕にですら、そんな言葉をかけてくれる。

きっと僕はこんな人にはなれないけど、でも、だからこそ!


ウィルはキッとした一際強い眼差しと真剣な表情を浮かべ、言葉を返す。


「……いえ、これは僕自身のためでもあるんです。

 確かに、今まで僕を育ててきてくれた村のために返していきたいという気持ちも当然あります。

 でも色々やってみて、どれも失敗ばかりだった。

 それで分かったんです」


「?」


「僕は失敗しか出来ないのかもしれない。

 今回だって、もし連れていってもらったとしても、正直迷惑をかけてしまうかもしれません。

 でも、だからといってこのままずっと何もしなければ、僕は成長出来ません。

 だからお願いします。

 僕は村のために、自分のために成長したいんです!」


さっきから話を聞けば聞くほど恐怖心は湧いてくる。

それに加え、また役に立てなかったらどうしようという別の恐怖心も。


いつもみたいに皆んなに迷惑をかけてしまうかもしれない。

ガイルさんを失望させ、あの3人からはまた相当な言われを被るかもしれない。

そしたら今度こそ、この村での立ち位置が危うくなるだろう。


怖い。

失敗するのが怖い。


……だけど。

それでもせっかくのこの機会、何故だか『絶対逃しちゃいけない』ような気がする。

何の根拠もないけど、今ここで諦めると僕という存在がこのままで終わってしまう。


そんな気がする。






「はぁ……。

 ほんと、お前は昔からお人好しぶりだけは一人前だな。

 出発は明朝だ、準備しておけ」


「っ!

 あ……ありがとうございます!


ガイルは少しの溜息まじりに同行を許可してくれた。

隣では口を開いたまま硬直している3人衆。


「…………ちょ、ちょちょ、ガイルさん!

 いいんすか本当にこんな奴を!?」


「責任は俺が取る。

 今は只でさえ人手が足りないんだ。

 向こうでは何があるか分からんし、お前らだって荷物持ちは居た方が楽だろう?」


「いや、それはそうっすけど、こいつじゃ絶対に邪魔になりますって!」


「そうっすよ、荷物持ちでさえ何しでかすか分かったもんじゃないっすよ」


「あぁ、何でこんな事に……。

 話さんきゃ良かった……」


どうにも不満気で納得できないという3人衆。

だが、そんな彼らをよそにガイルはウィルに対して念を押す。


「だがな、これだけは言っておく。

 あそこは今だに得体が知れていない場所だ。

 今回は一応採掘も重要な任務だが、情報収集を兼ねた調査でもある。

 話した通り、実際に中がどうなってるのかは行ってみないと分からん。

 つまり、相当な危険が付き纏う。

 何があるか分からない以上、相応の覚悟はしておくことだ」


「は、はい!

 僕、頑張ります!」


ウィルは心の中で歓喜する。


やった……やった!

僕が頼られる事になった。

まさか、こんな機会が巡ってくるなんて。

絶対に上手くやりたい。

いや、やってやる。

もうお荷物になんてなってたまるか!

(荷物持ちなんだけど)


「明日、頑張って皆んなのために働こう。

そうと決まれば早速帰って色々準備しないと!」


洞窟の入口がある山の麓へは村から徒歩数時間。

出発は明日の日が登る前からとなった。




人生には時に大きな決断を迫られる時が幾度とある。

だが、その判断は全て自己責任。

何が起こるのかは実際に行動を起こしてみないと分からない。


それ以上の事態の悪化を恐れるなら何もしないという選択も取れるが、それでは変えられるものも何も変わらない。

果たしてこの選択は、今後のウィルの人生にどんな影響を与えていくのだろうか……。






「ゲギャ……ゲギャ……。

 ゲギャ…………」

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