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最弱最強の融合師  作者: でんたん
第一章
2/25

1話 ウィル・ストール

その日も少年は小さな小屋で目を覚ました。


窓から朝日が差し込み、外では木々に止まった小鳥たちが鳴いている。

いつもと変わらない朝。


「ん……朝。

 起きないと……」


重い瞼を擦りながら、少年は起きようと体をモゾモゾとベッドの中央から端へ移動させていく。

端に着けばそのまま足を下ろして立つだけという何の変哲もない動作。


しかし、まだ寝ぼけているのか少年は足を下ろすのを忘れてそのまま直進。

次の瞬間、バタンッ!という音と共に体が地面に叩きつけられる。


「〜〜〜〜〜っ!

 …………つっ〜〜〜!!!」


どうやら頭から盛大に逝ったようだ。

何をやっているのだろうか、この少年は。


朝のウトウトしたまだ少し気持ちの良い状態に、突如として襲いかかる壮絶な痛覚。

当たり所が悪かったのか、しばらく悶絶して動けなかった。


でも、お陰でビックリするほど目は覚めた。






痛みも引いてきた所でドアを開けて外に出る。

扉を開けた瞬間、肌に当たってくる朝のそよ風がとても気持ち良い。


彼が出てきたのは頑張って2人がやっと住めるかどうか程度の、こじんまりとした木造の平家の家。

建てられてから大分時間が経っているのか、かなり年季の入った見た目であちこちが痛んでいる。


色褪せた屋根に苔むした外壁。

そんな家の目の前には小さな畑。


周囲は木々に囲まれており、すぐ近くを可愛げな小川が流れている。

数分歩く距離先には集落が見え、更にその向こうには海が広がっている。


「久しぶりに良い天気」


雲1つない晴れ渡った快晴。

ここのところ雨続きだったようで、久しぶりの好天だ。


「さて、今日はどうしようかな。

 村の皆んなの迷惑にならない事、なんかあったかな?」


朝早々からそんなマイナス的な思考で始めているこの少年。

名前を『ウィル・ストール』。


18歳の人間で身長は160cmくらい。

痩せ型の頼りない体型に、焦茶色の髪に茶色い瞳。

特徴らしい特徴もない顔立ちで、いかにもどこにでもいる普通の少年。


彼が住んでいるこの場所は『ファスト村』。

この世界の東に位置する大陸の中で、更に東の辺境に位置した海が非常に近い村だ。

ウィルの家は村のメインストリートから少々離れた、最も端にヒッソリと隠れるように立っている。


「多分何も無いかもしれないけど……。

 とりあえず、今日も村の方へ行ってみるか」


ウィルは服を着替え、今日も村の中心地へ赴く。

村の人たちの手伝いをしに。


ここは200人程度の人口があり、主な産業は漁という典型的な漁村。

近隣にも点々と幾つか村はあるが、この辺ではここが最も海が近いため、海産物による交易が盛んとなっている。

宿屋や食堂など基本的な公共施設はあるが、村自体はよくある小規模なものだ。


また、村から北の方角には徒歩数時間の距離に複数の山が連なった山脈が見える。

海に山脈が面しているという珍しい地形の近くにファスト村は位置し、周囲は豊かな森が広がっている。


そんなこの村でウィルは村民に育てられた。

親という存在にではなく。


赤子の頃に付近の森で捨てられていた所を偶然村人に発見され、そのまま成り行きでこの村で育てられた。

小さい頃は皆に可愛がられ、それはそれは大切にされていた。


しかし人間は成長するもの。

10歳くらいにもなれば、もう立派な村の労働力として様々な期待をされるようになる。

当然、彼もそうだった。


それくらいの頃から少しずつ村の事業や村民の雑用的な仕事をするようになったのだが、これが今のウィルの状況を生む事になった。

何をやっても、何をやらせても、ウィルという少年には才能が無かった。


「おはようございまーす!

 先日はすみませんでした!

 次こそ上手くやってみせるので、また何か森で採取してくる物とかありませんか?」


「げっ!

 ウィル!

 もう必要なもんは揃ったんだ、しばらくは他を当たってやれ!」


「以前はすみませんでした!

 井戸はダメでしたが、また他に仕事があれば僕にやらせてもらえませんか!?」


「いや〜ウィル。

 もう他の者に頼んでしまったよ、すまんね」


「あ、あの!

 次から気をつけるので、屋根の修理くらいまた僕にやら」


「結構!

 結構だから!

 それでなくたって何かと怪我されるんだから!」


「………………。

 やっぱりあれだけ失敗続きなら、そりゃそうだよね。

 僕って何でこんなに本当に何も出来ないんだろ」


最初こそまだ若いからという理由で色々やらせてもらっていたものも、何度も何度もいつまでも全く仕事が上達しない彼に対して村人たちも次第に呆れていき、とうとうウィルは誰にも期待されなくなっていた。


村民たちは流石に村から彼を追い出すなんて事はしなかったが、明らかに村のお荷物的な存在にはなっていた。

ただ、当の本人もそれは自分が痛いほど理解しており、極力村に迷惑をかけまいと、ある時から住居を村はずれにあった古家に移した経緯がある。


この村は自分をここまで育ててくれた。

恩は感じているし、当然それは返していきたい気持ちがある。

でも、何かと行動するとその気持ちが全て裏目に出る。


そんな調子で気付けば年齢も18になり、もうほとんど大人だ。

それなのに、このていたらく。

ウィルは長らく無能な己にもどかしさを抱えていた。






「よぉ、ウィルじゃねえか!

 今日こそは何か村の役に立てたのか!?」


「いや、そんな訳ないだろ!

 あのウィルだぜ?」


「むしろ何かあったら村がひっくり返るぞ……」


村の中心地で空を見ながら気を落としていた所に3人の男たちが寄ってくる。

彼らはウィルに普段から絡んでくる若手の3人衆だ。


「いえ……今回もだめでした」


「あははっ、そうだろうそうだろう!

 そうこなくっちゃな!」


「むしろ安心したよ、それでこそ俺たちのウィルだ。」


「やっぱり相変わらずの貫禄だな……」


毎度の事ながら、非常に嫌味この上ない言い方をしてくる。

彼らには日常のストレス発散の対象にも見られているのかもしれない。

だがウィルとしても、別に間違った事を言われている訳ではないとも認識しており、何も言い返せない。


そのまま俯きながら気を揉んでいると、彼らの足元にこの漁村に住まう者としては似合わない物がある事に気づく。

木製の長い持ち手の先に突起のある金属製のヘッドパーツ。


(あれ、これって…….。

 つるはし?)


なぜ今、岩を掘る道具であるそれを持っているのか。

彼らだって普段は漁に出ている事が多い。


「あの、それって?

 何に使うんですか?」


ウィルは先の罵倒も忘れ、思わず疑問を問いかける。

よく見れば3人全員が1本ずつ持っている。


「あ?

 あぁ、お前知らないのか!

 俺らは漁は一旦中止で、これから『ジスト鉱山』に向かうんだよ!」


村の北側へ徒歩数時間の距離に位置する山脈。

標高はそれほど高くはなく、特に山の名前なども無い、一見すると何の変哲もないただの山脈。


しかし、その地下には未だ誰も最深部が分からない程の広大な地下洞窟が広がっており、そこでは希少な鉱物資源が産出されるという。

その洞窟の事を、この周辺地域の住民の間では『ジスト鉱山』と呼んでいた。


漁は中止?

確か今は漁のシーズン真っ盛りで、人手は足らないほど忙しいはず。

しかもジスト鉱山って……。


「な、何ですかそれ、漁は良いんですか?

 しかもあそこって、確か魔物が沢山いる場所じゃなかったですか?

 危険ですよ!」


ジスト鉱山は昔から周辺各村との共同調査を何度か行っており、その結果、内部にはゴブリンなどの魔物が普段から大量に巣食っている事が判明している。

そのため資源的な価値は確かに大いにある場所なものの、その危険性故に普段近寄る者は誰も居ない。


それだけでなく、稀に外に漏れ出てきた魔物が村周辺まで接近してくるという事案も過去に何度かあった。


1年くらい前に近くの森でゴブリンが3匹現れた時は、村の主力10名程で対処に当たった。

ファスト村の中に魔物討伐の専門職は居ないが、ゴブリンは数いる魔物の中でも最下位レベルに位置する種別。

大人が10名もいれば何とか討伐し切れる。


しかし、比較的弱いとされるゴブリンでも魔物は魔物。

ちょっとした油断が命取りとなる。


当時はウィルも村を守るため、畑のクワを持って同行した。


流石に主力の大人たち10名が動員された事により何とか事なきは得たものの、その中で唯一自分だけが負傷。

魔物の本能とも言えるものなのか、即座に群れの中で最も弱い存在と判断され、真っ先に襲われた。


直ぐに周りが駆けつけ何とか軽傷で済んだもの、あの時ほど自分の無力さを感じた事はない。

全てにおいて村の皆んなの足を引っ張ってしまう。


それをきっかけに村の若手の間では、いつの間にかウィルに『最弱』なんてあだ名が付いていた。


「うるせぇ、良いんだよ!

 最弱のお前と一緒にすんな。

 それに今回は特別な事情なんだ。

 何せ、ガイルさん発案の話だからな!」


「ガイルさんが?」


ガイルとはファスト村現村長の息子の事だ。

父親がほぼ引退しかけており、時期村長候補で村民からの信頼も厚い。


「あぁ、何でも最近その魔物共の姿が何故か急に消えちまったって話だ!

 だからその調査も兼ねて、採掘に行くわけよ!」

 

『本当に魔物が消えたなら今のうちに掘り放題だろ?

 もしかしたら『魔石』も手に入るかもだしな」


「まぁ流石に人員は足りてないみたいだが……」


3人衆は楽しそうにペラペラと話す。

採掘は村として掘るという一応の名目があるが、当然労働した者にはそれ相応の対価も支払われる。


「っ!?」


人員が足りていないという言葉に反応するウィル。

これはまたとないチャンスでは?


……しかし、今までいた大量の魔物が急に姿を消した?

そんな事があり得るのだろうか?


ウィルはどこか得体の知れない恐怖に駆られる。

だが、同時に何故か興味を惹かれる部分もある。


「おっと、今はガイルさんとの会合に行く途中だった。

 じゃあな。

 この後もウィル君は……まぁ無理なく頑張りたまえ!」


「あの……僕も」


「分かっていると思うが!

 お前は付いてくるなよ?」


「え……」


反射的に口が出てしまった。

しかし、向こうは速攻で拒否してくる。


「魔物がいなくなったとは言え、あそこは危険な場所には変わりない。

 村の大事な宝であるウィル君に怪我されちゃ困るからな〜?」


「言わなくても分かるだろ……?」


「…………」


3人衆は何が何でも自分の同行を許すつもりはないらしい。

自分だって本当は分かってる。


でも、何故だろう。


そんな危険な場所、正直怖い。

仮に同行させてもらえたとして、果たして自分に何が出来るだろうか?

またいつものように、迷惑をかけてしまうだけなのでは?


でも、もしここで何かしら成果を出せれば、少しは村の皆んなに報いれるかもしれない。

ずっと何も出来なくて情けなかった自分が、少しは変われるかもしれない。


僕はこれ以上、村のお荷物でいたくない!!!

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