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最弱最強の融合師  作者: でんたん
第一章
18/24

17話 忍び寄る剣

先の一部始終を見ていた少女はただただ驚愕していた。


あの重量級の化け物を、喉元を一噛みしただけで倒してしまった。

多少身体能力が高いのだとしても、たかが1人の獣人がアレをこうもアッサリと。

限られた魔力とは言え、私の三重の炎球砲撃でもかすり傷一つ付かなかったのに。

まるで御伽話のように現実味が湧いてこない。

こんなの、きっと誰に話そうと信じてもらえそうにないわね。


分かる事はただ1つ。

ただひたすらにこの人は強い。

理屈をあーだこーだ考えるのが馬鹿馬鹿しくなるほどに。


「も、もう大丈夫だよ!

 あの、君、怪我とかしてない!?」


獣人はそう言いながら私の元へ駆け寄ってきた。

少しオドオドして頼りなさそうな表情をしながら。

どうやら私の事を気にかけてくれているらしい。


…………変な人。

あんなに強大な力を持っている癖に、不思議なくらいに何の圧も感じない。

それどころか、どこまでも広がる優しさみたいなものを感じる。

ますます分からない。


「え、えぇ。

 私は大丈夫よ。

 その、助けてくれてありがとう」


少女に怪我が無いのが分かると、獣人は大きく溜息を吐きながら安堵した。


「気にしないで。

 間に合って本当に良かったよ。

 近くを通りかかったら凄い音と悲鳴が聞こえたから、急いで走ってきたんだ」


「そう、だったのね。

 ……あの、それであなたは何者なの?」


「あぁー…………えと、僕はウィル・ストール。

 まぁ、ただの獣人だよ」


彼はどこか明後日の方角へ視線を逃しながらそう言い、それ以上の事は喋ろうとしなかった。


「ウィル……ふーん。

 よろしく、私はセシア。

 セシア・ローグストよ」


「そっか、よろしくね、セシア!」

 ところでセシアはここで何をしていたの?

 あそこに何か落ちているけど」


ウィルが近くに落ちているカゴに目を移しながら尋ねた。


「あっ、そうだった」


セシアはハッとした様子でいそいそとカゴを拾い上げる。

そのまま中を確認し、内容物の無事を確かめると安心した様子で答えた。


「私はこの近くのベスト村出身なの。

 今日は薬草の採取に来ていたのよ。

 ほら、カゴに色々入ってるでしょ?

 それで採取も終わって帰ろうとしていたところ、アレに襲われたって訳」


「へぇ、そうだったんだ……」


ウィルは驚いた。


ベスト村……。

ファスト村の西側にある隣村だ。

ファスト村は海に面した立地もあり主な産業は漁業だけど、それに対してベスト村は畑や家畜を飼育している農村と聞いている。

距離にして10kmくらい離れているけど、仮にも自分が住んでいる隣村にこんな凄い人が居たなんて。


「あの、実はここに駆け付ける寸前に少し見えたんだけど。

 手から火を出していたよね?

 その……セシアは魔法を使えるの?」


「え、えぇ……まぁ。

 ほんの少しだけどね」


「やっぱりっ!?

 す、凄いね!

 僕ら人間は魔法適正が皆無とされているのに、セシアはあんなに見事に魔法を扱えるなんて!

 僕、人間でちゃんと魔法を使えてる人なんて生まれて初めて見てさ!

 ボールみたいな火、あれ綺麗だったよ!

 それを何個も作るのも凄いけど、合わせて大きくしたのは威力を上げるため!?

 しかも風を操るような魔法も使ってなかった!?

 凄い、本当に凄い!

 魔法はどうやって使えるようになったの!?

 僕は全然ダメで、何かコツとかあるのかな!?

 しかも────」


ウィルは完全に舞い上がった様子で、いつにも増して饒舌に言葉責めをする。

目をキラキラと輝かせ、まさに羨望の眼差しだ。

そのあまりの勢いに圧倒されるセシアは徐々に頭がクラクラしていく。


「ちょ、ちょっと、ちょっと、ちょっと!

 少し落ち着いてっ!

 そんなに早口で沢山聞かれても答えられないから!」


「っ……ご、ごめんなさい。

 その、あまりにも興奮しちゃって……」


「ていうか、『僕ら人間は』って何言ってるの?

 あなたは獣人じゃない。

 まぁ、適正の話で言えば人間も獣人も同じようなものらしいけど」


「ぅあっ!?

 え、えっと…………そう!

 そういう意味で言ったの!」


ウィルはビクッと体を震わせながら冷や汗を滲ませた。


「はぁ……まぁ良いわ。

 確かに、人間でここまでハッキリ魔法を扱うのは珍しいらしいわね。

 普通は周囲に漂う魔素を感じる程度がせいぜい関の山だって言うし。

 でも特異体質か何かなのか、私は昔から何故か出来たの。

 まぁ魔力操作は得意だけど、肝心の私の魔力量が少な過ぎるのか、直ぐに魔力切れになっちゃうんだけどね」


「やっぱりそうなんだ! 

 いやいや、魔法を使えるってだけで十分とんでもない事だよ。

 あれだけ使えたら日常的に色々な面で活用出来そうだし、羨ましいよ。

 あーでも魔力、操作?

 魔力量?

 正直僕は聞いてもよく分からないけど、つまりセシアは天才って事なんだね」


「…………あの、本当にさっきから何を言っているの?

 さっきの戦闘、あなたの方が凄いでしょ。

 いえ、凄いってレベルじゃないわ。

 私みたいに属性系は使ってなかったみたいだけど、あれは身体強化系の魔法なんでしょ?

 じゃなきゃ殴るだけであの馬鹿みたいに硬い皮膚にダメージは通らないし、ましていくらなんでも牙なんかで……。

 獣人でありながら私なんかよりもよっぽど強力な魔法を使ってたじゃない」


それを聞いてウィルは呆然とした。

彼女が何を言っている事が分からない表情。


え、僕が?

僕が魔法を使っている?

いや、そんなはずはない。

僕は魔法適正が全くの皆無なんだ。

その証拠に魔素だって微塵も感じられない。

でも、現に魔法を扱える彼女が嘘を言っているとも思えない。


今までの流れからすると、それもきっと今のこの姿のせいなんだろう。

魔物は大なり小なり魔力を宿しているとされるから、だとすればこの融合で素体が持ち合わせている魔力が底上げされていても不思議ではない。

まぁ要するに、僕1人だけの力ではないんだ。

このグレイウルフの力を借りているだけに過ぎない事。


「えっと……うん、君の言う通りだと思う。

 僕は多分何かしら魔法を使ってたんだろうね」


「はぁ?」


「正直よく分からないんだ。

 魔法を使おうとして何かをしている訳じゃなくて、ただ単に体を動かしているだけというか……。

 その……無意識なんだよ、全部」


これを聞いたセシアは思わずギョッとする。


「……じょ、冗談でしょ?

 あんな恐ろしい程の魔力を発揮しておいて?

 魔法ってほら、体内で貯めた魔素を魔力に精製して、体中に張り詰めて放出するものでしょ!?」


「ごめん。

 わ、分からないです……。

 ぶっちゃけ魔素と魔力の違いもよく分からないし……」


「…………そ、そう」


完全に呆れ返ったセシアはしばらく言葉が出なかった。


はぁ、信じられない……。

私じゃなくて、あなたみたいな人の事を本物の天才って言うんじゃないかしら。

確かに私は人間でありながら魔法を使える。

そういう星の元に生まれてきたのかもしれない。

でもこれは、生まれてこの特性に気付いたその時からずっと、努力をしてきた甲斐あってのもの。

今でこそそれなりに扱えるようになったけど、別に最初からだった訳じゃない。


それなのにこの人は、分からないだの無意識だの軽く流してくれる。

人の今までの苦労を何だと思ってるのよ。

……ほんっと、不思議な人ね。


「あなたが何故そんな目で私を見てくれるのかは分からないけど、そんな良いものでもないのよ。

 ……これのせいで村の連中には不気味がられているし」


「え?それってどういう──」


その時、彼女の名を叫ぶいくつかの声が聞こえてきた。

どうやら複数の男のものだ。


「セシアーーー!

 どこにいるセシアーーー!!」


「ごめん、連れが来ちゃったから私もう行くわね。

 今日は本当にありがとう」


「あ、そ、そっか。

 うん、じゃあまたね……」


彼女は呼び声に呼応するかのように立ち去ろうとしたが、最後にもう一度こちらを振り返る。


「あ、そうそう。

 この辺の森なんだけど、ここ数日の間で魔物の数がやけに多くなってきているから気をつけて。

 しかも、その魔物達が()()()()にされた死体があちこちで見つかっているの。

 あれはきっと同族の仕業じゃない。

 妙な魔法の痕跡らしきものもあったし……何かいるわね。

 何者かは知らないけど、十分注意してちょうだい。

 …………まぁあなたなら大丈夫でしょうけど、一応ね。

 それじゃ」


そんな忠告を残した彼女は、呼び声の方角へ走り去っていった。


魔物が多くなっているのは周辺の村にも既に知れ渡っているのか。

だけどそれらが真っ二つの死体になってる?

妙な魔法の痕跡というのも気になる。

何者なんだ?

気をつけなければ。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






空が紅く染まり、まもなく日没になる頃。

ウィルは再び1人トボトボ歩いていた。


あぁ、一時はどうなるかと思った。

危ない面はあったにせよ、何とか名前以外の素性は隠せた。

向こうも特に踏み込んでこなかったのは幸運だった。

あの状況で洗いざらい事情を喋っても、場が色々ややこしくなるだけだったろうし。


だけど……セシアか、とても不思議な子だったな。

自分と同じくらいの年齢だったし……。

思い返せばファスト村では僕とちゃんと話してくれる同年代はいなかったっけ。

いつも無能な僕は基本皆んなに避けられていたしね。


彼女が僕と同じ人間でありながら、魔法を使えるという事実には本当に驚かされた。

悲鳴が聞こえたから何事かと思いきや、急いで向かった先には得体の知れない大きな猪に狙われていた少女がいた。

あんなに大きな猪は見たことがない。

皮膚もゴツゴツしていて見るからに硬そうだったし、まず間違いなく普通の獣じゃないだろうとは思った。

後から話を聞いてみれば、とても恐ろしい魔物だったと。

確かにあの様相は普通の人間なら勝ち目はないだろう。

僕だって、あんなのに遭遇したら一目散に逃げる。


魔法が使える彼女だって、最初は必死に逃げ回っていた。

いや、今思えば彼女だからこそなのかもしれない。

強力な魔物というのは魔法を扱う者にとって、直感的にその危険度を大方認知できるんだろう。

だとすれば魔法を使えない僕以上に恐怖だったはずだ。


対してこちらは融合のせいか、アレをいくら見ても何の脅威も感じなかったけど、これは単純に好都合だ。

双方の魔力云々なんかよりも、恐怖を感じないというのはそれだけ思い切った行動が取りやすい。

今の僕なら何とかなりそうだし、直ぐに助けてあげよう。

そう思っていた。


ところが次の瞬間、突然彼女は手先から火を出した。

一瞬何かの幻覚かと思ったけど、何度見てもあれは火だった。

しかも次第に数が増えていき、やがて球状の形を成して、それを相手に放った。

素早い突進には何やら奇怪な動作で回避していた。


間違いない、あれは魔法だ。

まさか実際の魔法というものを連日この目にする事が叶うなんて。

あの回避は周囲の木々が揺れていたし、何か空気を操作していたとか?

あれはまるで、あの時のノーベさんに近しいものを感じた。


あんな人がいるんだ。

僕みたいに借り物の力じゃなくて、自分自身の力で。

きっと相当な鍛錬をしてきたんだろう。

常人以下の僕にはとても耐えられないような研鑽の連続だったに違いない。

同じ同年代として、己の無力さを改めて思い知らされたような気がした。

あの姿勢、僕も今後見習わなければならない。


……出来ればもう少しお話してみたかった。

また会えると良いなぁ。






【で…………。

 いつ俺を解放すんだよ?】


「ん、誰?」


感嘆したばかりの思い出に浸っていると、どこからともなく聞こえてくる声。


【お・れ・だ・よ!

 お前の訳の分からない異様な術で拘束中の俺だよ!!

 結局こんな1日中連れ回しやがって!!!】


「あ。

 ご、ごめん。

 色々考え事してて。

 忘れてた……」


【……何だと?

 この俺を忘れて、た?】


「本当にごめんって!

 で、更に悪いんだけどさ。

 やっぱり明日の朝までこのままでいさせてくれない?」


【な!?

 テメェ……俺が身動き取れないのを良いことにっ!】


「いやぁ、ほら、もう夜になっちゃうし。

 あんな怖い魔物がこの森にいる事も分かったんだし、せめて今日は一緒にいた方が安全だと思ってさ」


【一緒にいた方がって……。

 はぁ、本当にお前は何者なんだよ。

 …………分かった、もう少しだけだ】


「えっ……ありがとう。

 ……案外素直だね?

 てっきり、もう少し反発されるかと」


【うるせぇ!

 俺の体をこんな人間みてぇのに変えた事には未だ我慢ならん。

 が、どういう原理かは知らんが、お前さんはあのロックボアーを最も簡単に殺して見せた。

 俺らは群れで相手してもどうなるか分からん奴を、だ。

 ……この状況で逆らうほど俺も馬鹿じゃねぇよ】

 

「あー、うん……。

 何かごめん。

 た、助かるよ」 


という訳で、今日はこのまま彼との融合を継続する事になった。

まぁ嘘は言っていないし、現に僕も本来の生身でこのまま夜を明かせる自信はない。

何かしらの素体と融合しているこの状況はシンプルに助かる。

このまま何とか今夜を乗り切りたい。






それからまた数時間歩くと完全に日は暮れ、森には再び夜が訪れた。


そういえば今日は丸1日ほとんど融合体で過ごしている。

これにより、また新たな気づきがあった。


セシアと別れて、しばらく歩いていた時から思ってはいた。

どんなに歩いても動いても、疲れないのだ。

疲労感というものがまるで感じられない。

いや、そういう概念自体が欠落していると言っても過言ではない。

まだまだいくらでも動けそうだ。


冷静に考えてみると、こんなに1日中動き倒したのは初めてだった。

普段の自分ならまず保たない。

とっくの昔に体力も気力も尽きて根を上げている。

これも融合の賜物?


主体だけの状態なら、いつもと何ら変わりのない最弱の自分。

でも、体を預けてくれる素体さえいれば、何者にでもなれる力。


気づいたのはそれだけじゃない。

この融合体の能力というのは、恐らく融合する素体によって大きく左右される。

カエルやホワイトファルコンも元の生物とは思えない程には凄かった。

しかし、魔力を持つ魔物は更に別格だと感じた。


魔物では比較的弱いとされる彼らで、これなんだ。

もし、それ以上の強力な種族や人物と融合したら……。

つくづく底が知れない力だ。


……それにしても、最初に村を出発してから今日で何日経ってしまったことか。

今日こそ戻る予定だったのに、何だかんだしているうちにまた夜になってしまった。

明日には良い加減帰りたい。

けど、村では僕は完全に死んだ扱いになってるんだろうなぁ。

じゃ、若干帰りにくいかも。


ウィルはいくら歩き通しても疲れが湧いてこない体のせいで、逆にいつ立ち止まれば良いのか分からなくなっていた。

もういっそこのまま朝まで動き通そうかとも思ったが、流石にそれは止めておこうと無理やり足を止める。


「この辺でいっか。

 全然疲れてないけど、形だけでも横になっておこう。

 ただ、眠くもないんだよなぁ。

 …………ん?」


適当に見つけた木の下で横になろうとした瞬間。

20mほど先の草むらで何か大きなものが2つ地面に置かれているのが見えた。

気になって近寄ってみると、徐々に見え覚えのある質感の体が見えてきた。


「え、これって……さっきの?」


そこにあったのは、自身も日中に倒した魔物。

あの岩のようにゴツゴツとした皮膚、大きな牙が2本、間違いない。

ロックボアーだ、他の個体もいたのか。


襲ってきそうな心配は最初から無かった。

相変わらず大きな体ながら、さっきから微動だにしない。

既に息絶えている。


しかしながら、その状況は誰もが一目見て異様なものと感じる状態だった。

その体は中心を境に綺麗に分裂しており、上半身と下半身とで2つの部位となって鎮座していた。

更に特出すべき点が、それらは驚くほど綺麗な切断面をしている。

肉や臓器、果ては骨まで、当然あの皮膚も関係なく全て。

まるでよく砥がれた包丁で野菜を切った面のように一刀両断されていた。


普通に考えるなら何者かによって斬られた、という事になる。

だけど、この硬い巨体を?

一体どれだけの腕利きの剣士なら成せるのか。

その辺にいる平凡な者では不可能、多少腕に覚えがあっても難しいはず。


……こんな事が出来そうなのは僕が知る限り1人しかいない。

先日会ったばかりの、あの不思議な雰囲気を纏ったあの人。

そう、()()だ。


「しかも、その魔物達が真っ二つにされた死体があちこちで見つかっているの」


セシアのあの時の言葉が脳裏にチラついた。

確かにこの光景は彼女の言っていた状況と一致している。

いや……まさかね。


相手が死んでいるなら何も問題ない。

とはいえ、ここからは少し離れた方が良いような気がした。

根拠は何もないが、直感がそう言っている。


そのままウィルは折り返し、元来ていた道に戻ろうとした時。

背後に強烈な殺気を感じた。






「見つけたぞ」






「っ!!?」


そ、その声。

まさか!?

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