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最弱最強の融合師  作者: でんたん
第一章
15/24

14話 実験開始

日が変わり時刻は朝。

昨晩は寝床に入ってからものの数秒で死んだように眠りに入ってしまった。

非常に深い睡眠で夢すら何も見ることもなく、やはり相当疲れが溜まっていたのかもしれない。

食事も睡眠も数日ぶりにしっかり取ることが叶い、身体は村を出発した直前くらいには回復した気がする。


「本当に良いのか?

 一緒に村まで行かなくて」


「はい。

 もう十分お世話になりましたし、ノーベさんの旅のお邪魔をしたくもないですから。

 昨日今日と本当にありがとうございました」


「……そうか、分かった。

 では気をつけてな。

 まだ周辺に何かいるかもしれない、警戒は怠るなよ」


「はい、気をつけます。

 ノーベさんもお元気で」


彼女からは村まで同行しても良いという提案があったが、これは悩んだ結果丁寧に断ることにした。

まだ近くに魔物が潜んでいる可能性がある。

だからこの提案は有難いし、むしろ是非お願いしたいのが正直なところだったのだが、村は今日歩き通せば着く位置にいたのも事実。

それに何か目的があって旅をしていると言っていたし、これ以上彼女の手を煩わせてしまうのは不本意だった。


……だが、これは半分正解で半分不正解。

今の目的は村に戻るというのは当然だが、それよりもやりたい事が1つあった。

それは誰かと一緒にいては不都合で、自分1人の状態でしか行えない。

いや、一先ずは行わない方が良いだろう。


そう、あの力を改めて試すのだ。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






「さて……と。

 この辺なら良いかな」


ウィルはノーベと別れてから昨日の河岸に戻り、再び村の方角を目指して2時間ほど歩いたところで立ち止まった。


「周囲に人影……なし。

 よし、ここでやってみよう」


一体何から手を出せば良いのか分からない程には謎が多いけど、とりあえず気になった事を手当たり次第に試してみよう。

現状分かっていることは大きく2つ。


1つ目は、融合すると自分の姿が変異すること。

あの時は人間の自分の姿ともゴブリンとも取れない、なんとも言えぬ姿だった。

ゴブリン側では低い身長や鋭い爪などが主な特徴として現れていて、人間側からは指が5本だったり、肌も完全な緑には染まらず本来の肌色も混じって少し色が薄かったりしていた。

これらの事象から仮に自分のことを『主体』、融合する対象を『素体』とするならば、それらが融合した『融合体』にはその両者の特徴が大なり小なり出るのだろう。


2つ目は、融合すると素体の能力を大幅に引き上げた上で自分の力として行使できること。

恐らくこれが最大の特徴だと思われる。

魔物の中では最底辺に位置する存在のゴブリンでさえ、あれ程のものだった。

これは他にも色々な素体で是非試してみたい。


ただ、いきなり村に戻ってその辺の人間で試すというのは流石に現実的ではない。

そこで今日この森では実績のある魔物をメインに探して試してみる事にする。

とはいえ、急に魔物を探すと言ってもそう都合良くは出くわさないだろう。

現に今この周辺には何もいない。


「……魔物がいない。

 まさか魔物との遭遇をここまで切望する日が来るなんて。

 今までは真逆だったのに。

 どうしよう」


威勢よく実験を開始したものの融合対象が何もいない状況に視線を落としていると、地面に何気なく転がっている石が視界に入る。

石、土、川の水、背の低い雑草から樹木といった植物類。

この場にある物質はそれくらいだ。

うーん、まさかね。


「融合」


シーーーーーン。


自分でも何をトチ狂ったのかと思いつつも、試しに足元の石に対して試みてみたが何も起こらない。

自分の体はその場にそのままの姿で留まっており、些細な変化も一切ない。

続いて目の前に生えている木に対しても試みてみるが、やはり何も起こらない。


「……ははは。

 流石に無理だよね。

 ま、まぁ出来てもビックリなんだけど」


側から見ればただの変人である。

誰もいない場で妙な行動をとっている完全な不審者でしかない。

この場に誰もいなくて助かった。


でも、これでまた1つ分かった。

どうやら自然物に融合は働かないみたいだ。

仮に木とか石なんかと融合できたところで一体何が?という疑問はあったけど、無理なら仕方がない。

……どこか安心した自分がいる。


「だけど困ったな。

 今は魔物はいない、それならと思った自然物も当然不可能。

 かといって村に戻ってそこの人間相手っていうのも論外。

 素体になり得そうなものが何もいない。

 ……もう少し移動してみるか」


そんな事を考えながら歩いていると、近くの草むらから小さい何かが飛び出してきた。

見ると、ピョコピョコと跳ねながら移動してくる小さな生き物。

森の中ではどこでもよく見かける緑色の両生類だ。


「なんだ、カエルか」


カエルはこちらに脇目も振らず、水のある川に対して跳躍を繰り返しながら移動していく。

なんてことのない自然の中の一風景。

ウィルはその様を何気なく少し眺めていたが、そのうちハッとする。


……もしや。


「ゆ、融合」


その瞬間、ウィルとカエルの双方の体が光に包まれ、そこから粒子状になりながらそれぞれが引かれ合う。

あの時ゴブリンで起こった現象と全く同じだ。

2つの光が1ヶ所に集まり混じり合い、次第にそれらが溶け合っていくように1つになっていく。

動作が起こっている時間は案外短く、1つになった光は即座に物体の形を成した後、纏っていた光が消えて姿が現れる。


気づくとまた視界がかなり低い。

ゴブリンの時よりも更に地面に近い。

うん、この感覚。

間違いない。


「……うわっ!?」


確信を得た後、恐る恐る己の手に値する部分を見てみると思わず驚愕の声が出てしまった。

手は細長く伸びている4本の指が生え、その指先は独特の球状の形をしている。

更には指と指の間は薄い膜のようなものが張っているが、多分これは水掻きで間違いない。

水面に顔を出してみると、そこにいたのはカエルそのものだった。

予想はしていたつもりだったが、実際に目の当たりにするとやはり衝撃が走ってしまう。


「ひえぇ……カ、カエルだ。

 何度見てもカエル」


と、とりあえず成功はしたらしい。

それにしてもこの姿、外見はほぼカエルそのままだ。

融合すればそれぞれの特徴が半々くらいで体現するのかと思っていたけど、この見た目は紛れもなくカエル。


ただ、やけに大きい。

融合前は手の平に乗りそうなサイズ感だったのが、中型犬くらいの巨大なカエルになっている。

肌の色は本来の緑からやや茶色がかった色。


「外見上の変化はサイズと肌の色くらいか。

 それにしても、こんな大きなカエルいないでしょ普通。

 村の女性たちは間違いなく気絶しそうだ……」


……でも冷静に考えてみれば、これで良いのかもしれない。

カエルは泳ぎが得意という点があるが、やはり最大の特徴はこの発達した後足による『ジャンプ力』だと思う。

わざわざカエルと融合するくらいだから一番の用途はそこだろう。

それなのに、ここに人間の特徴が中途半端に現れてもただただ使いにくそうな体になるだけ。

もしかすると融合とは、素体の特徴を最大限活かせる最適解の姿として顕現するのかもしれない。


「だったら、まずはジャンプだ!」


ウィルはカエル独特の多関節の後足に力を込める。

こんな形状の足は当然初めて使うが、やはりゴブリンの時と同じ。

まるでこの世に生まれたその時から付き合ってきた足かのように、無意識レベルで動かし方が頭に刷り込まれている。

発達した足の筋肉に加え、3つに折れ曲がる関節をバネのように利用する。

目一杯力を込めたところで、それを一気に解放する!


「っっっ!?」


それは到底『カエルのジャンプ』などと言えるものではなかった。

力を解放した途端、体がとてつもない加速と共に宙に射出される。

地を這っていた目線はみるみるうちに高度を上げ、数秒で視界が圧倒的に広がった。

それまで自分は周囲を背の高い木々に囲まれた環境にいたはずだが、この体はそれらを易々と超えて木の頂上よりも高い位置に到達。

水平の全方位の視界が開けた辺りで勢いがようやく落ち、一瞬の空中浮遊。


こ、これは凄い!

1回のジャンプでこれだけ飛べるなら単純に距離が稼げる。

今はとりあえず垂直に飛ぶのを意識したから単純に高い位置まで来てるけど、もう少し水平方向にも意識を向ければ村まで一気に近づけそうだ。


しばしの浮遊感を経て地面に落下、そして着地。

うん、着地も問題ない。

もう1度垂直にジャンプ。

今度は周辺に何が見えるかを確認してみる。

パッと確認できたのは遠くに山脈と海が広がり、この辺一帯の地面は深い緑色の森が覆っている。

所々には集落や村らしき場所も点々と見えた。


あの一際目立っている山脈は恐らくジスト鉱山があった所かな。

それにあの海は間違いない、位置的にあの辺にファスト村があるはず。

あの川もやはり海まで繋がっている。

度々高く跳躍しつつ移動すれば、この深い森でも方角を見失うこともなさそうだ。

この調子だとかなり早く村に帰れそう。


「ヒューーーン!

 ヒューーーンッ!!」


「ん、あの声は?」


再度地面に着地すると、上空から何やら鳴き声が響いてきた。

この声は村でも聞いた事がある。

主に深い森や山間部などに生息している肉食の中型鳥類『ホワイトファルコン』だ。

全体的に美しい純白の毛並みと黄色い足、鋭い嘴を持つ外見をしており、最大の特徴はその飛行速度。

大半の鳥類を圧倒するスピードでの飛行が可能で、水平方向への最大飛行時速はおよそ『100km/h以上』にも及ぶという。


「鳥……鳥か!」


悩むまでもなく、試さずにはいられなかった。

カエルとの融合を解除し、今度はホワイトファルコンに意識を向ける。

だが、1つ気になる事があった。


向こうは上空を飛んでいる。

思い返せばゴブリンもカエルも、融合しようとした時の素体は全て至近距離にいた。

対して今回はある程度の距離が離れているが、これでも可能なのか?

とにかくやってみよう。


「融合!」


地面にいるウィルと上空にいるホワイトファルコン双方の体が光り1つに集まり始める。

……呆気なく成功した。

多少の距離は関係ないのだろうか。

しかし、気づきもまた生まれた。


ゴブリン、カエル、ホワイトファルコン。

これら全てに共通しているのは自分の目視範囲内にいた。

目で見える距離にいさえすれば、少し距離が離れていようとも問題ないのかもしれない。


光が1つになって次に顕現した姿は元来のホワイトファルコンを一回り大きくし、毛並みは人間の自分の肌色を更に明るくしたような色合い。

鳥側では黒かった瞳にも自分の特徴が反映され、茶色っぽく色が変わっている。

体の大きさは1mくらいか。

もはや中型鳥類というサイズではなく、立派な大型肉食鳥類といった風貌だ。

これまた使い慣れたかのように自らの翼を広げると、全長は更に倍以上の2mを超えた。

そして、そのまま空に向かって羽ばたく。






「す、凄い。

 凄い凄い凄い!!!

 僕、今空を飛んでるんだ!」


感極まるとはまさにこの事を言うのだろう。

何度か夢でも見た。

重力を振り払って地を離れ、宙を縦横無尽に駆け巡れるのがこんなに素晴らしいなんて。


翼をはためかせる度に高度はグングンと上がり、先のカエルのジャンプとは比べ物にならないところまで簡単に登ってきてしまった。

調子に乗ってドンドン登っていると既に数千mはあるであろう高度。

それにしても飛行スピードが恐ろしいくらいに早い。

ホワイトファルコンは元々早いが、さっきからその比ではない。

実際どれくらいの速度が出ているのかは分からないが、少なくともその数倍以上は出ているだろう。


「そういえば確かこの鳥、狩猟のやり方は上空から獲物を見つけて、そこから一気に急降下して対象を捉えるんだっけ。

 その瞬間は見たことないけど、村の人の話では更にもの凄いスピードになるんだとか……」


これも試さずにはいられない。

十分高度を上げたところで地上に対して一際強く羽ばたく。

それと同時に翼をやや畳み、体を伸ばして流線的な姿勢をとる。






「うわあああぁぁぁーーーーー!!!?」






動作を行った途端、遠いように見えていた地面が瞬く間に眼前に迫った。

まさに異次元的なスピードである。

単純に早く移動しているだけでなく、次第に体の後尾に何やら白い雲のようなものが渦巻き、何かが爆発したような大音量と共に衝撃波が周囲に拡散した。

あまりの衝撃に思考が一瞬飛んでしまったが、このままでは激突してしまうので姿勢を咄嗟に戻して減速。

ギリギリのところで地面との衝突を回避する。


「はぁ……はぁ……はぁ。

 死ぬかと思った……。

 これは危険すぎる。

 普通に飛ぶだけにしておこう」


体勢を整えて再び水平飛行に戻る。

今度は先程までの高高度ではなく、地面の様子がハッキリと伺える程度の高さに調整。


飛行という部分に関する凄さは怖いほど分かった。

きっとこれがこの鳥との融合体での一番の特徴なんだろう。

他にも鋭利な嘴とか足爪なんかもあって攻撃にも大いに役立つのだろうけど、既に何となく想像が付く。

ホワイトファルコン、こんな超スピードで長距離移動が可能というのが知れただけでも大収穫だ。


「ゴブリン、カエル、ホワイトファルコン。

 それぞれ色々な特徴があるんだな。

 更にそれらを融合で更に伸ばして活かせられる。

 使い方次第で人助けにも何か使えるかもしれない」


融合を1つ試す毎に新しい発見がある。

その連続にウィルは心の底から楽しくなっていた。

こんなにワクワクと心躍る経験はこれまでの人生で正直一度も無かった。

もっと場数を踏みたい。






「…………ん、何だ?」


あまりの楽しさに本来の村への帰還という点を完全に失念しながら飛び続けていると、地面で何かが動いているのが見えた気がした。

ちょうど森の中で少し開けた場所があり、草原が広がっている。

気になり更に高度を落として距離を詰めていく。

見るとその中には1匹の動物のようなものがいた。


「っ!

 あ、あれは」


……が、その姿がハッキリと見えた途端、それまでの高揚感が若干失せる。

それはここ数日2度も襲われた相手。

全身灰色の4つ足の獣だった。

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