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最弱最強の融合師  作者: でんたん
第一章
10/24

9話 地下掘削

ゴブリンの爪でトンネルを掘っていけることが分かり、これまでの事から推測できた点を簡単に彼にも伝えた。


融合すると、その相手の能力を自分のものとして行使できること。

その上でただ扱えるようになるだけではなく、能力によっては更に強力なものに引き上げて使用できること。

しかも、融合対象の体の使い方や癖というのは自然と頭に刷り込まれている。


ゴブリンの彼曰く、暗視と爪の特性は元々の性能とは既にかなり逸脱しているらしく、ひどく混乱していた。

格好こそゴブリンに似ている姿をしているものの、その持ち合わせている能力は既にゴブリンのそれなんかではないと強く言われたし……。

でも思い返せばこれは僕もすぐに合点がいった。


以前に村近くで彼らが出没し、僕が軽傷を負ったあの時は言ってもせいぜい引っ掻かれた程度。

いや、それもかなり痛かったけど、もしあれがこの岩をも簡単に粉砕できてしまっている爪だったらと思うと……。

正直考えたくもない。


とりあえず今分かったのはこのくらいか。


【はぁ、ほんと聞けば聞くほどデタラメな力だな。

 こんな所業、一族はおろか、他の魔物でも可能な奴らなんて一体どれだけいるか……】


「な、何かごめん。

 僕もまだ驚いてるよ。

 まさか今まで無能だった僕がこんなことになるなんて」


とても奇妙で奇怪で、姿も変わっちゃうし、一見何のために使えば良いのかよく分からない力だ。

だけどもし、これを上手く世界のために使えるなら……。

と、一瞬色々な考えが頭を過ったけど、今はあまり考えないようにしておく。


【まぁ、とりあえず今はそれは置いておくとして、お前。

 さっきから勢い良く掘ってきてるけど方向とかは分かってるのか?】


「…………へ?

 方向?

 方向。

 ほう……こう……」


また彼の大きな溜息が飛んでくる。


【その様子だと、やっぱり何も考えていなかったか。

 凄いんだか凄くないんだか、一体どっちだよ……】


「うーん、確かに方向は分からないね。

  何せ景色はずっと一緒だし、あまり闇雲に掘るのもどうかとは思う。

  でも左右の方向感覚は全然分からないとはいえ、とりあえず上下は分かる。

  なら地上は上ってことは確定している訳だし、とりあえず上方向に向かって掘っていけば良いかな?」


【......マジかよ。

 そりゃ確かにずっと上へ掘り続ければ、いつかは地上のどこかには出るだろうけどさ。

 結局はゴリ押しってことね。

 まぁその爪があればいけるんだろうけど……】


彼の声には若干呆れの感情が見えつつあった。

何故かこちらが申し訳ない気持ちになったけど、とりあえず方針は決まった。

流石に真上には掘れないので、斜め上方向に掘っていくことに。






「よし、じゃあまたぼちぼち掘ろう……。

  ん?」


その時、ウィルは近くの壁の中で何かの気配を感じた。


なんだ?

この感覚。

何かが、そこにあるような。

目の前にはただひたすら壁しか見えていないのに、この向こうに何かが……。

えっと方向は……右側だな。


その何かを感じ取ったウィルは、掘削してきた穴の先端部の右側に寄り、その壁面をジッと見つめる。

うん、間違いなくこの先だ。


【ん、どうしたんだ?】


「いや、この壁の向こうから気配みたいなものを感じたんだ。

 上手く言い表せないけど、何かがこの先にある気がする」


【気配?

 あぁ、もしかして魔素のことか?

 魔素は俺ら魔物の生命の源でもあるし、普段はその辺を漂っている魔素なら当然分かる。

 でも、今この先に特に強いのは何も感じないぞ?】


魔素!

そういえばガイルさんたちが魔石を掘っていた時に言っていたやつだ。

僕はこれまで魔素を感じることすら出来なかったから分からなかったけど、それも魔物の彼と融合した今だから感じ取れてるってことか。

なら、これがその魔素の感覚っていうやつ?

不思議な感じだ。


いや、でもガイルさんたちは魔素が漂っていることは気づけても、その方向やそれを発している物の位置は分からないと言っていた。

それに何より魔物の彼が今は何も感じないとも言っている。

……もしかして、これも僕のこの力と何か関係しているのかな?

よし、確かめてみるか。


ウィルは気配を感じている方向に爪をゆっくりと入れ、先程までの豪快さとは一変して少しずつ慎重に壁を崩していく。

何があるか分からないし、ここは焦らない方が良い。

ボロッボロッと少しずつ崩していくうちに、爪先に「カチンッ」という固い何かに触れた感触が伝わった。

その周りの岩を更に取り除くと、現れたのは拳大くらいの周囲の岩とはまた違う真っ黒な石だった。


え、ただの石?

……いや、見た目はただの黒い石だけど、ずっと感じていた気配がまた少し強くなった。

間違いない、きっとこれだ。

割れないかな?


爪先を石に当て、少し力を入れてみるもビクともしない。

更に力を加えても爪が弾かれてしまう。

仕方がない、これまで岩を掘ってきた同程度の力で……。

お、ちょっと周りが欠けた!


って、これってかなり硬くない!?

ここまで簡単に掘れてきた岩石の層より硬いってことだよね!?

何だこの石!


とまぁ文句を言っても仕方がないので、地道に石を回転させながら1周沿いに爪で衝撃を与えていくと、ついに全体にヒビが入った。

更にそのヒビに爪を差し込んで動かすこと数分。

ついに「パキンッ」という音を立て、ようやく割ることができた。

中から出てきたのは……。


1cm程度の黒紫色に煌めく小さな小さな宝石のような石だった。


ん、これってどこかで……。


ウィルの脳裏に採掘中に仲間が掘り当てていた、これと似た1つの石が思い出される。


「っ!

 も、もしかしてこれ、魔石では!?

 …て、いや小さいな!?

 割と苦労した割にはめちゃくちゃに小さい。

 あの時皆んなが掘っていたものよりも全然小さいじゃんか」


それによく見ると、見た目が少し違う?

こっちの方が色が澄んでいるように見えるし、重量感もこのサイズなのにかなりある。


【これは……魔石か?

 それにしては魔石特有の魔素の漏れ出しが感じられないな?】


ゴブリンの彼はそう言っているけど、僕には確かに感じる。

やっぱりこれも僕の力の何らかの影響なのかもしれない。


「うーん、多分そうだとは思うんだけど、ちょっと違う気もするんだよね」


初めてGETした魔石がこんな小さいのには少しガッカリしたけど、せっかくなので一応持って行くことに。

今後何かしら役に立つことを願う。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






それから休憩を度々挟みつつ、掘削を始めてからかれこれ3時間ほどが経過した気がする。

この爪のお陰で快調に距離を稼ぐことができ、トンネルも更に延伸。

地中は相変わらず岩の連続ながら、場所によっては硬い岩盤と脆い岩盤などの様々な地層が入り混じっていた。

このまま続けていれば、いずれ出られるだろう。


【……それにしてもお前、それ自分でやってて怖くないのか?】


ウィルが永遠と自身の体を使った活躍の姿をしばらく見てきたゴブリンの彼は、唐突にどこか意味ありげなことを聞いてくる。


「え?

 それって、この体のこと?」


まぁ怖いと言えば怖い。

最初はもの凄く混乱したし、今でもまだ完全には受け入れられていない自分もいる。


でも、僕はまだ生きていた。

何より生きていて、おまけに地上に戻れる希望が生まれたんだ。

彼のことだって巻き込んでばっかりだし、地上に出れたら融合を解除して山の中のどこかへ帰してあげたい。


「まぁ確かに急に手に入ったよく分からない力だし、今でもまだ少し混乱気味だけど……。

 解除もできるし穴も掘れるし、まぁ今はそこまで気にしてる場合じゃーー」


【そういう事じゃねぇよ……。

 俺が言っているのはそういう話じゃなくて。

 仮にこれが俺以外にでも使えるっていうなら、それは相当やばいんじゃないか?】


「ん?

 やばいって……」


【気づかないか?

 今の俺の体だけ使ってるうちは良いのかもしれないが、この世界には何も俺らみたいな弱小種族だけが存在している訳じゃない。

 もっと強い奴らは大勢いるんだ。

 別に魔物以外だってエルフ族や魔族、噂でしか聞いたことはないけど龍人族なんてのもいると聞く。

 あいつらは純粋に素の魔力や戦闘力がデタラメ並に強いし、そんなのを相手にでもお前のこの力がもし使えるのだとすれば……】


「っ!」


僕は少しの間、返答することが出来なかった。


最初に融合したのが魔物の彼だったから、また他の魔物を見つけて色々試せればと思っていたけど……。

そうか、魔物以外っていう可能性もあるのか。


【魔物としては最弱レベルの俺でこの能力の発揮なんだ。

 もし世界の強者共なんかと融合した日には……。

 ()()()()()()()んじゃないか?】


「え、いやいやいやいやいや!?

 滅ぼすとか無いから!?

 僕にそんなことできる訳……っていうかする訳ないでしょ!

 そんな度胸すらありません!」


【本当かよ……。

 急にとんでもない力を手に入れれば、全能感に支配されて我を失ったりってのはよくある話だぜ?】


「ご忠告どうもありがとう!

 肝に刻んでおくよ!!」


全く何を言い出すのかと思えば……。

ていうか、さっきからこのゴブリン、結構頭良いというか人格者過ぎない?

ゴブリンのくせに!


……しかし、他の種族か。

エルフ族とか魔族にしろ本で少し読んだことはあるけど、会ったことは一度もないんだよなぁ。

確かに魔法の扱いは普通の人間よりは遥かに上手そうだし、純粋な強さもかなりのものだろう。

もし本当にそんなことも可能だとすれば、これは自分が想像している以上に大事なのかもしれない。


しかし、仮にそれが可能だとして、一体誰にどうお願いする!?

こんな得体の知れない能力。

話したところで誰も信じてくれないんじゃないか?

不気味がられてそれで終いじゃないのか?

そもそも魔物以外に対して使用して、絶対相手に危害が加わらないという保証だってまだ無いんだ。

ここは慎重に考えていくべきだろうな。


この突如手に入れた謎の融合という力。

少し分かった気になっていたけど、まだ全然分かっていないみたい。

上手く使えるかは全て僕次第なんだ。


「正直、この先がどうなっていくかは自分でも全然分からないよ。

 結局また失敗するかもしれないし。

 ……でも、僕は自分にできることをしたい。

 これまで散々無能を晒してきたけど、僕の夢でもある人の役に立てる生き方にこの力がもし使えるなら。

 それはとても素敵なことなんじゃないかな」


ゴブリンはしばし沈黙の後、呟くように口を開く。


【お前……ほんと変わってるな】


「え!

 いや、今の割と僕良いこと言ってたんじゃないの!?

 ……あぁもう、そんなことよりさっさと地上を目指すよ。

 ここまで沢山掘ってきたし、きっともう少しだ!」


1人と1匹は更に掘削スピードを上げ、猛スピードで地中を掘り去っていったのであった。

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