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ヴェルシュトラ 〜スキル経済と魔導石の時代。努力が報われる社会で俺たちは絶望を知りそれでも、歩き出した〜  作者: けんぽう。
本編

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80/131

冗談みたいな日常と、本当に救われた夜

——ギルドヴィス

クラフトは加工済みの魔導石の入った木箱に手を伸ばした。

これが人々の希望になるようにと真剣な眼差しでひとつひとつ丁寧に確認していく。

しかし——その手が、ある一つで止まる。

呼吸が浅くなる。手のひらにじんわり汗がにじむ。


「……な、なんだこれ……」


魔導石。だがその形は、明らかに“異常”だった。

丸くも、角張ってもいない。


そのフォルムは——ハート型。

表面には、謎のラメと装飾が施されていた。まるでジュエリーか、子供向けのアクセサリーかというような見た目だった。


「ついに気づいたようね、クラフト」


背後からリリーの声が響く。振り向くと、どこか誇らしげに胸を張っている。


「私は考えたの。どうすれば“魔導石の満足度”を最大化できるかって」


クラフトは口を開きかけたが、やめた。

リリーは続ける。


「まず、形状。丸や四角より、心理的親近感が高いハート型。

次に視覚効果。キラキラするものは魔力の集中を助ける——らしい。

最後に……見た人が“持ち帰りたくなる率”が統計的に上がるの」


「……リリー、それは……誰の統計なんだ?」


「私の主観と、昨日なんかで読んだ、あと……かわいいは正義って書いてあった」


クラフトは数秒の沈黙の後、深くため息をついた。


「……そ、そうか……」



「クラフトー!お前の同胞たちが来たぞ!」

ブラスがギルドの入り口からニヤニヤとした顔で叫ぶ。


「……ブラス、聞いてくれ。それは子供の頃の話で——」


「漆黒より目覚めし者たちよ……!」


響き渡る声。黒炎の使徒だった。だが、彼だけではない。ローブを羽織った仲間たちが、ぞろぞろと後ろに並んでいる。


「“揚物の誘惑に堕ちし者”・オメガ=スリー」

「“荒野の頭皮より出でしもの”・バーコードヘッド」

「“千の利息を喰らいし借人”・カンサイザー」

「“呪詛に囚われし腰”・ヘル=ニアス」

「“漆黒の……なんだっけ……それっぽいやつ”」


クラフトは頭を抱えた。


「……今日は、どうしたんだ?」


黒炎の使徒が、懐から布袋を取り出す。中には、どっさりと詰まった硬貨が光っていた。


「……この間の魔導石とモンスターの血液のこと。それに、仲間たちと寄付を集めて……感謝の気持ちを、形にしたくてな」


「えっ、これ……受け取っていいのか?」


クラフトが戸惑うと、黒炎の使徒は、一瞬だけ視線を逸らした。


「……正直な話さ、俺……ずっと惨めだった。

どれだけ努力しても追いつけなくて、

笑われて、バカにされて……生きてるだけで、負けみたいで……

……でも、あの魔導石をもらってから……少しずつだけど、変わったんだ。

自分でも、少しだけ……“これが俺なんだ”って思えるようになった。

……それが、嬉しくてさ……うまく言葉にできねぇけど、

……ほんとに、ありがとう」


その声だけは、演技じゃなかった。


クラフトは、目頭がじんと熱くなるのを感じながら、ゆっくりと頷いた。


「ありがとう。本当に……ありがとう。絶対に、大切に使うよ」


「う、うむ! 気にするな、同士よ!」

使徒は急に声を張り上げ、勢いよくマントを翻す。

「我らの魂は、常に漆黒の絆で繋がれている!」


ぞろぞろと引き上げていく使徒たちの背を見送りながら、ブラスがつぶやいた。


「……なんかネズミみたいに増えていきそうだな、あいつら」


クラフトは苦笑を浮かべながら、それでも心の奥に小さな希望の火が灯った気がしていた。


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