表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルシュトラ 〜スキル経済と魔導石の時代。努力が報われる社会で俺たちは絶望を知りそれでも、歩き出した〜  作者: けんぽう。
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/131

ノクス、それぞれのスキル


酒場の扉を開けると、湧き上がる喧騒と酒の匂いがノクス一行を包み込んだ。木造の店内には冒険者たちがひしめき合い、笑い声とジョッキのぶつかる音が響いている。そして、中央のテーブルでは一際目立つ男――ブラスが、周囲の冒険者たちに囲まれながら豪快に笑っていた。


「ブラス、今回もまたすごいことをやったんだって?まさか本当にキマイラを倒したのか?」


興奮気味に問いかける声に、ブラスは自慢げに笑いながら酒を煽った。


「おうよ!だがな、今回の討伐はこいつがいなかったらヤバかったぜ!」


そう言うや否や、ブラスは隣にいたクラフトの背中を思い切り叩いた。ドンッ!大きな音とともにクラフトの体がわずかに揺れる。


「お前……意外とやるじゃねぇか!」「えっ、お前ってそんなに強かったのか!?!?」


「いや、俺は別に……」


クラフトは苦笑しながら謙遜するが、ブラスは豪快に笑い飛ばした。


「何言ってんだ!もうこいつはヴェルシュトラの団長クラスと遜色ねぇぞ!」


酒場が一気にざわついた。歓声が上がり、興奮した冒険者たちが次々とクラフトを賞賛する。彼は居心地悪そうに視線を逸らしたが、ブラスの勢いは止まらない。


「よし、大金も入ったことだし、今日も俺の奢りだ!みんな、飲みまくれ!!」


ブラスが豪快に叫ぶと、店内は一層の熱気に包まれた。酒瓶が次々と運ばれ、ジョッキを手にした冒険者たちが歓声を上げる。


しかし、その瞬間。


「待て待て待て待てぇい!!」


カウンターの向こうから響く怒号に、場の空気がピタリと止まる。酒場の店主が腕を組み、ブラスを睨みつけていた。


「ブラス、てめぇ先にツケを払えよ!!」


「……え?」


「え?じゃねぇんだよ!!お前、先月の分まだ払ってねぇだろ!!」


「……あぁー、そっかぁ……」


ブラスは気まずそうに後頭部をかきながら、ちらりとクラフトを見る。


「……クラフト、なんとかならねぇ?」


「知らねぇよ!!」


クラフトが即座に突っ込むと、周囲からも笑いが漏れた。


「まぁまぁ、今日の分はちゃんと払うからよ。今回は頼むって!」


ブラスが調子よく言い訳すると、店主は深いため息をついてから一言。


「……ったく、今回だけだからな」


そう言って渋々酒を出し始めると、再び場の熱気が戻り、酒場は活気を取り戻した。

ジョッキを手にした冒険者たちが歓声を上げる。そんな中、ノクス一行はテーブルにつき、それぞれの杯を掲げた。


「乾杯!」


ジョッキがぶつかり合い、酒が溢れる。喉を鳴らして一気に飲み干した後、ブラスは満足げに息をついた。そして、リリーの方を見やりながらニヤリと笑う。


「で、どうだったよ?リリー、初めての冒険は?」


リリーは一瞬目を輝かせ、弾けるような笑顔を見せた。


「すごく楽しかったよ!」


その表情には純粋な喜びがあった。しかし、ふと視線を落とし、真剣な表情になる。


「……でも、スキルのバランスを考えないといけないなって思ったの」


少し落ち込み気味にそう呟くリリーの言葉に、クラフトたちは静かに耳を傾けた。


「戦闘中、思ったように動けなかったんだ……スキルの使い方も、もっと工夫しなきゃって」


リリーの言葉には、初めての実戦を経験した者ならではの戸惑いと、成長への意欲が滲んでいた。


クラフトはそんな彼女の様子を見つめながら、ジョッキを置いて静かに頷いた。


「そうだな……スキルの習得には上限があるからな。リリー、お前はいくつスキルを覚えられそうなんだ?」


リリーは少し考え込んだあと、真っ直ぐクラフトを見て答えた。


「アカデミアで測った時は、4つだったよ」


その瞬間、ブラスとキールが同時に驚きの声を上げた。


「ほぅ、すげぇな!」


ブラスが感心したように腕を組みながら続ける。


「4つもありゃ、かなり戦術の幅が広がるぜ!」


キールも冷静に頷いた。


「普通は2、3個ですからね」


リリーは意外そうに目を瞬かせる。


「えっ、4つってそんなにすごいの?キールとブラスは?」


「俺は3つだ!」


ブラスが誇らしげに胸を張る。


キールは少し考え込みながら、ジョッキを揺らしてため息をついた。


「私は3つ……と言いたいところですが、厳密に言うと2.7くらいでしょうか」


リリーは不思議そうに首を傾げる。


「2.7?どういうこと?」


キールは慎重に言葉を選びながら説明を始めた。


「オーガと戦った時から違和感があったんですが……魔光弾の消費する魔力が不安定なんです。おそらく、完璧に使いこなせるのは2つが限界ですね」


ブラスが豪快に笑いながら、キールの肩を軽く叩く。


「まぁでも、お前にはあの異常な捕縛糸があるからな」


「異常って、なんでだ?」


クラフトが首を傾げる。


「捕縛糸は捕縛糸だろ?」


ブラスは目を丸くしてクラフトを見つめ、呆れたように言う。


「……クラフト、お前、もしかして他のやつの捕縛糸を見たことないのか?」


クラフトはしばらく考え込んだあと、小さく頷いた。


「そう言われれば……確かに、キール以外の捕縛糸を見たことがないな」


ブラスは椅子にもたれかかりながら、苦笑交じりに言った。


「普通の捕縛糸ってのはな、もっと単純なんだよ。せいぜい対象に絡みつけるか、ちょっと強度を上げるくらいだ。だが、お前の捕縛糸は……編み込んで強度を上げたり、網みたいに複雑な形を作ったりするだろ?あれ、一体どうやってんだ?」


キールは少し考えたあと、懐かしそうに微笑んだ。


「捕縛糸は、子供の頃に発現したんですよ。孤児院にいた時、特におもちゃもなかったので、魔力をコントロールしながらいろいろ試していたんです」


彼女はジョッキを手に取り、くるくると回しながら続ける。


「そのうち、クラフトとリディアが『トランポリンを作れ』『今度はブランコだ』と無茶なリクエストをするようになりましてね……」


皮肉を込めた笑みを浮かべるキールに、クラフトは少しバツが悪そうに視線を逸らした。


リリーは真剣な表情で考え込みながら、ポツリと呟く。


「なるほど……ただスキルを打つだけじゃなくて、魔力の込め方を変えるんだ」


彼女の瞳には、新たな可能性への興味と探求心が宿っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ