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ヴェルシュトラ 〜スキル経済と魔導石の時代。努力が報われる社会で俺たちは絶望を知りそれでも、歩き出した〜  作者: けんぽう。
本編

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四人 vs 異形

戦闘の余韻が残る洞窟内。


焦げた匂いと舞い上がる砂埃の中、ブラスが豪快に息を吐きながら、満足げに両手を腰に当てた。


「いやぁ、しかしよかったな!」


クラフトとキールが武器を収めながら肩を回す。


「この後、 “バカでかいモンスター”が出てくるかと思ってヒヤヒヤしたぜ」


その瞬間、空気が凍りついた。


クラフトとキールが静かにブラスを見る。


「……さすがにこれ以上は当たらないよな?」

クラフトが額を押さえながら呟く。


「ええ、流石にご都合主義ですよ」

キールも眉をひそめる。


——轟音。


咆哮が洞窟を震わせると、すぐさま鋭い爪が岩を掻くような音が響いた。」

静寂を切り裂く、素早く不規則な足音が迫ってくる。


暗闇の奥から、異様なシルエットがゆっくりと姿を現す。


獅子の頭にヤギのツノ、尻尾には大蛇の頭がついた異形の魔獣——キマイラ。


大蛇の顔がじろりとクラフトたちを睨みつける。


——クラフトとキールは、同時に頭を抱えた。


「……お前、ホントに全部当てるのやめろよ……」

クラフトが絶望的な顔でブラスを見た。


「ありえない……ここまで的中させるとは……」

キールが疲れ切った声を漏らす。


「全部的中させるなんてすごいね!」

リリーが純粋な目で感心して言った。


「リリー!!!」

ブラスの声が急に鋭くなる。


「後方で遠距離攻撃とポーションの準備! クラフト、前衛を頼む! キール、お前は俺とクラフトの攻撃が当たるように隙を作れ!!」


ブラスが迅速に指示を飛ばす。

普段の余裕ある雰囲気はどこにもない。

彼の表情には、明らかな焦りと緊迫感が滲んでいた。


クラフトとキールが即座に武器を構え、駆け出す。


「そんなにヤバいのか?」

クラフトが動きながらブラスに尋ねる。


「あぁ……」

ブラスは短く息を吐く。


「ヴェルシュトラの中隊規模の精鋭部隊でようやく何とかなるレベルだ。この人数でまともにやり合って、どうにかなる相手じゃねぇ」


「……撤退が最善手ですが」

キールが小さく呟くが、ブラスは無言で洞窟の入口を見た。


——そこには、崩落した侵入路。


「……だが、それも無理か」

ブラスの声が低く響く。


キマイラが、獰猛な瞳でこちらを睨みつける。


この戦場から、逃げることはできない。


「キール、何か作戦を考えてくれ」


ブラスの声には、焦りではなく、決意が滲んでいた。


「……わかりました」


キールは素早く地形とキマイラの動きを見極めながら、冷静に答えた。

時間はない——だが、勝ち筋はまだあるはずだ。


そして、キマイラの猛攻が始まる。


キマイラの瞳がぎらつく。

咆哮と共に、巨体に見合わぬ驚異的なスピードで地を蹴った。


「来るぞ!」


ブラスの叫びと同時に、キマイラの前足の鋭い爪が弾丸のようにクラフトとブラスへ襲いかかる。

クラフトは瞬時に剣を構え、鋭い刃と爪がぶつかり合い、火花が散った。

衝撃の余波で腕に痺れが走る。


「——ッ!」


だが、次の瞬間、鋭い尻尾が鞭のようにしなり、クラフトの脇腹を狙って迫る。

クラフトは反射的に体をひねり、かろうじて回避するが、髪の毛が数本宙に舞った。


同時に、ブラスは巨大な盾を振りかざし、正面から爪の一撃を受け止める。

衝撃で足元の岩が砕けるが、ブラスは微動だにしない。


「クソッ! スピードがやべぇ!」


ブラスが踏み込みながら叫ぶ。


キールが素早く影から《捕縛糸》を放ち、キマイラの前足へと絡めようとする。


——だが、キマイラはその動きを見切っていた。


カツン、と岩を蹴り、一瞬で体を反転させ、捕縛糸を回避する。


クラフトが距離を詰め、《衝撃撃破》を放つ。

だが、キマイラはまるで見透かしたかのように、尻尾で弾き返した。


「速い……クラフトのスピードでも捉えきれない……」

キールが息を詰まらせながら呟く。


その言葉が終わるよりも早く、リリーの声が響いた。


「みんな下がって!」


雷鳴のような轟音と共に、リリーの《雷耀貫徹》がキマイラ目掛けて放たれる。


——だが、キマイラしなやかに空中で体をひねり、稲妻の奔流を回避した。


「嘘でしょ……!?」


リリーが信じられないといった表情を浮かべる間に、ブラスが素早く着地の瞬間を狙う。


「逃がすかよッ!!」


《烈斧撃》を叩き込む——はずだった。


——しかし、キマイラはあっさりとそれを避けた。


「チッ……」

ブラスが舌打ちしながら後退する。


リリーの足元がふらつき、彼女は膝をついた。


(マナポーションは……もう、ない……)


リリーの指先が微かに震える。


(どうすれば……)


ブラスが低く息を吐きながら呟く。


「……あの速さ……俺とは相性最悪だぜ」


「速いとか、そういうレベルか!?」

クラフトが荒い息をつきながら叫ぶ。


「実はな……もう一つヤバいのがある……」


ブラスが警戒しながら目を細めた、その瞬間——


キマイラの額の角が淡い光を放ち始めた。


「……ッ!」


「伏せろ!!」


ブラスが叫ぶと同時に、《剛壁の構え》を発動。


クラフト、キール、リリーが即座にブラスの背後へ飛び込む。


轟音。


キマイラの角から、膨大な魔力の光線が放たれた。


——ブラスの盾が、それを受け止める。


「ぐっ……!!!」


激しい魔力の奔流が、ブラスの身体を押し込む。

足元の岩が砕け、砂煙が舞い上がる。


ブラスの盾で守られた範囲以外の地面が、一瞬で抉り取られ、巨大な溝が生まれる。


圧倒的な破壊力。


もし直撃していたら、一撃で終わっていた。


「……はっ……はっ……」

ブラスが荒い息をつく。


「今ので……なんとか耐えた……が……」


クラフトが息を呑みながら、視線をキマイラへ向けた。


「……こいつ、やっぱり次元が違うぞ……!」


キマイラの瞳が再び光を帯びる。


戦闘は、まだ終わらない——。


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